第一章 閑話その1 舞の独白
Side 舞
運命というものは、そう簡単に変えられるものではない。
私はそう、確信せざるを得なかった。
「舞、緊急事態だ」
教師の一人が、私に告げる。
内容は、学校の結界を維持するパーツに、破損が生じているということであった。
「これを修理できるのは、舞だけだ。すまないが、よろしく頼む」
分かっている。
この結界が無ければ、今朝起こる巨大バグとの戦いにおいて、ヒーロー側が大きく苦戦するであろうことを。
それは、前回のループで痛いほど知っていることであった。
全力を出せば、ギリギリ修理は間に合う。
そして、入学式に参加すればいい。
……その判断は、誤っていた。
明らかに、人為的な破損。
それによって、失われる命。
クマサカにとって、自分の意に従わない人間の命など、単なる「数」でしかないのだろう。
絶対に、負けるわけにはいかない。
修理を急ぐ。
そして、最終段階になった時にようやく、私は「負けた」ことに気づいた。
一番肝心となる、パーツの不足。
在庫の確認は、確実に行われていたはずだった。
しかし、今朝になって在庫がゼロになっている。
ここまで、やるのか。
私はすぐに、考えを切り替える。
学校のグラウンド。
そこで、巨大バグを倒すしかない。
立ち上がった私を、止めようとする教師。
「何をやっている! 結界が無ければ、悲惨なことになるのだぞ!」
……黒。
即座に、魔法のロープでその教師を拘束する。
間違いなく、クマサカの手の者だ。
在庫管理を行っていた者も、限りなく黒寄りのグレー。
監視カメラを確認すれば、どちらなのか分かるはず。
この研究室は、グラウンドから離れた場所にある。
しかも、三階。
運動神経に自信の無い、私が飛び降りるのは、自殺行為だ。
必死に走る。
既に戦いは始まっており、激しい物音が響き渡る。
そして一瞬、凄まじい高周波が放たれ、戦場が沈黙する。
「ここから、戦線が崩壊する。一番最初に逃げる者、それは黒」
前回のループをなぞるような、戦いが続く。
犠牲者ゼロが不可能なことは、高周波が響いたことで分かっていた。
「入り口、よし!」
私は学校を出て、すぐに機体を展開させる。
翠玉色の機体、『ヴァルキュリア』。
バーニアを吹かし、全速力でグラウンドに向かう。
「ごめんなさい! 待たせたわね!」
ループ前に、経験している戦闘。
こちらは相手の行動を、完全に理解している。
倒すことは、容易だった。
だが、失われた命が戻ることは無い。
戦術的には、完全に敗北している。
「救えなかった……分かっていたのに!」
「分かっていた?」
黒い機体から、言葉が漏れる。
搭乗者は、神崎久郎。
彼の頭脳を考えれば、疑問を抱くのは当然のこと。
私は、その場にいた入学生に声をかける。
除装する者たち。
「じ、冗談じゃねえ! こんなこと、やってられるか!」
その言葉に呼応し、逃げ出す者たち。
私は、あえて止めなかった。
獅子身中の虫は、少なければ少ないほど良い。
体育館の方も、混乱しているようだ。
放送を流した人物は……判断保留。
命じられて、意図せず行動した可能性も高い。
この学校には、既にクマサカの手が伸びている。
今やるべきことは、確実に黒である人物を排除し、安全な状態に変えることだ。
「あ、兄さん。状況は最悪。プランCの発動を、お願いするわね」
これでよし。
相当揉めるだろうが、ここが勝負どころ。
膿を出し切る、最大のチャンスだ。
新入生で、残ったのは五人。
全員、見覚えがある。
確実に「白」だと判別できる、貴重な存在。
ふと、思いをはせる。
メアは、こんな状況を何度もくぐり抜けてきたのだろう。
私が弱音を吐いていたら、彼女に笑われる。
「それに……ううん、今はいいか。多分明日になれば、分かることだから」
今夜、この五人は「悪夢」を見る。
それは、前回のループで確認している。
もしダメだったとしても、しっかり話をすれば、分かってもらえると思う。
翌日。
私はメッセージを送信した。
すぐに、返事が返ってくる。
確定。
全員、悪夢を見ている。
ここからが、本番。
私はカラオケボックスに予約を入れ、どのように話すのかを考えることにした。




