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第一章 第十八話 仮想というリアル

 目の前に広がるのは、いつもの「たまり場」であった。

 喫茶店『キャットニップ』。

 オーナーと交渉し、俺たちの指定席を、月単位で借りているのだ。


「あ、来たね」


 結希のキャラクター『ウィル』が、俺に話しかける。

 俺は軽く手を振って、それに応えた。


 結希のキャラクターは、剣士。

『ソードマスター』であり、極めて高レベルのクラスだ。

 白を基調としたアバターで、ところどころにミスリルのアクセントが光る。


 俺のキャラクター『カラス』は、盗賊。

『アサシン』というクラスで、サブクラスに『ガンナー』を選んでいる。

 柿色を少し混ぜた黒い衣装で、それらしい格好に仕上げてある。


「にゃあ。もう少しで、眠るところだったにゃ」


 三人目。

 黒猫族の『マオ』。

 発明家という、変わったベースを選んでいる。

 クラス『トリックスター』らしく、さまざまなアイテムを使いこなして戦うタイプだ。


「こちらは、何日か徹夜になるかも……ふわぁ……」


 四人目。

 ドワーフの『ニカ』。

 神官を選び、クラスは『クレリック』。

 回復もできるが、前衛で振るわれるメイスの威力は、戦士系クラスと遜色(そんしょく)ない。


「で、確認なのだが……みかん、夜食は食べたのか?」

「夕食をキャンセルしたから、チョコバーだけにゃ……あにゃ?」


 薄々気づいていたが、確信に変わった。

 マオが、みかんだ。


「個人情報の流出にゃ! 損害賠償を請求するにゃ!」

「いや、これで気づかない方が無理だろう」


 そして、もう一人。


「いくらなんでも、キャラクター名と本名が同じというのはまずいのでは?」

「あ……やっぱり、バレるか」


 ニカ。

 洋服店「Needle&Scissors(ニードル&シザース)」で出会った、裁断(さいだん)をしていた少女。

 今日一日で、全員が顔を合わせたことになる。


「あにゃ? 前に、自宅警備員が主な仕事と聞いたけれどにゃ?」


 それは、俺も耳にしている。


「うん。引きこもりであるのは事実。仕事がなければ、お店の中でぼーっとしているから、自宅警備員も真実」


 素直に応える、ニカ。

 確かに嘘は、一つも含まれていない。


「世の中って、広いようで狭いんだね……びっくりしたよ!」


 結希が、驚いていた。

 マオはともかく、ニカの方は思いつかなかったようである。


「お客様、ご注文はいかがでしょうか?」


 お店のマスターが、俺たちに声をかける。


「スペシャルパフェ、お願いするにゃ!」

「まだ、食べるの?!」


 結希が呆れるのも、当然だろう。

 俺も、呆気にとられている。


「うん? いつもの行動だけれども……何かあったの?」


 ニカの疑問に、今日一日でみかんが食べた数と量を説明する。


「ああ……てっきり、現実で食べられないストレスを、発散しているのだと思ってた」


 ニカの答えが、普通の行動だ。


 この世界で「食事」を行っても、現実の肉体は食べたことにならない。

 それを利用し、こちらで大量に食べて満足し、現実でダイエットしている人も存在しているのだ。


「甘いものは、別腹にゃ!」

「別腹を含めて、胃が四つあるのではないか?」


 俺が、疑問を投げかける。


「マオは黒猫族であって、牛ではないにゃ!」


 すぐに意味を理解して、みかんが答えを返す。

 やはり、頭がいいと実感した。


「俺たち二人は、ココアだけでいい。ニカもそれでいいか?」

「うん。ココア三つ、お願い」


 マスターが引き下がり、ウエイターが料理を持ってくる。

 現実よりも提供が早いのは、ゲームならではである。


「ふぃ~! 食べたにゃ。満足、満足にゃ!」

「満足したところで、そろそろ解散しよう。今日はさすがに、冒険はしたくない」


 結希も賛意を示し、俺たちは解散することにした。


<ログアウト>


 部屋に戻ってくる。

 重い体を引きずるようにして、俺は風呂に向かうことにした。

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