第一章 第十六話 休校前夜
俺たちが席につくと、舞が魔法を使った。
わずかな魔力であり、気が付いたのは俺たちだけだろう。
「これで周りからは、普通の話をしているようにしか聞こえなくなるはずよ」
「そんな便利な魔法、あるのですね」
漣が驚く。
この魔法は……悪用しようと思えば、かなり使える代物だろう。
「まあ、使えるものなら使ってみなさいって。多分、すぐにボロが出るから」
それほどまでに高度な魔法を、簡単に使いこなす舞。
ただ者ではないことを、再確認した。
「さてと。みかん、このお店の最大の特徴は……これよ!」
「にゃっ! 見たこともないほどの、ご飯の盛り方にゃ!」
俺たちも、みかんと同じポップに目を向ける。
そこには、信じられない「追加オプション」が記載されていた。
「大盛り400グラム、もっこり600グラム……チョモランマ、800グラム?!」
「すげえ! マンガでしか見たことがないレベルのご飯だ!」
唖然としている結希に対し、明は実に嬉しそうな顔をしていた。
「コースで頼んでいるから、チョモランマのご飯かうどん、どちらかを選べるわよ」
チョモランマを選んだのは、俺と結希、明、そしてみかん。
漣と舞は、うどんを選んだ。
「足りなかったら、追加注文してね。みかん、他の人の分をとったらダメよ」
「信用、ないにゃ……」
今までの言動を顧みて、信用されると思っているのだろうか。
「あ、あとこのお店では、ソフトクリームが無料だから」
「にゃ!!」
早速、機械のところに向かうみかん。
コーンとカップが選べることに、喜んでいた。
料理が運ばれてくる。
刺身盛り合わせ、焼き鳥、サラダ。
そして、ご飯が運ばれてくる。
「上に、旗が刺さっているにゃ。お子様ランチ以来だにゃ」
フジ山よりも、外国にある鋭角の山に似た形状。
チョモランマの名は、伊達ではないようだ。
「それでは……いただきます」
豪華な夕食が、始まった。
俺も既に、気持ちを切り替えている。
今は目の前の料理に、集中することにしよう。
「みかん、これにチャレンジしたいにゃ!」
指さしているのは……鬼盛り野菜炒め。
重量1キロという文字が、迫力満点だ。
「いいわよ。ただし、絶対に残さないように」
壁を指さす舞。
そこには「鬼盛りとチョモランマ、完食者ゼロ。食べ物を大事に」と記載されていた。
「最初の一人になるにゃ。燃えてきたにゃ~」
どうやら、逆効果だったようである。
コース料理に「加えて」、巨大な野菜炒めがテーブルに乗ることになった。
「これは、みかんのものにゃ。手を出したら、怒るにゃ!」
「誰も、手出ししねえよ!」
被せ気味に明が大声を出すが、誰もこちらに注目していない。
舞の魔法が、効果を発揮している証拠だ。
「はぁ……私は、コース料理だけで充分です」
漣は、我関せずという態度を貫いている。
それが、正解だろう。
「野菜炒めに飽きたら……ソフトクリームにゃ!」
「やめて、見ていて気持ち悪くなりそう……」
結希が、嫌な顔をする。
もっとも茶碗の中身は、半分以上消えていたのだが。
「目の前の料理に集中したほうが良いぞ。あれは魔窟だ」
「だね。漣を見習うことにするよ」
コースというだけあり、次々に運ばれる料理だけでも十分な量である。
結果、全員が満足して食事を終えることになった。
「それじゃあ、家まで送るわね。あ、あと一つ。多分明日は、学校がお休みになると思うから」
巨大バグとの戦闘で、グラウンドの後始末もあるだろう。
それ以上に、退学者や保護者への対応も必要になる。
臨時休校になるのは、ある程度想定していた。
舞に送られて、俺は家にたどり着く。
「それじゃあ、また後で」
結希の声に見送られながら、俺は玄関の鍵を取り出した。




