第一章 第十五話 支払われる対価
「ところで、聞きたいのだが……舞先生、予算は大丈夫なのか?」
車内で、俺が尋ねる。
「予算? みかんが思いっきり食べても、問題ないわよ」
恐らく意図を見抜いたうえで、舞がずれた回答を行った。
「そちらではない。制服に、ワイヤー。どちらも多額の資金を要するはずだ」
「まあ、あなたならば分かるわよね。で、いくら私でも、ここまでポンポンお金を払うのは、不自然だと感じたってこと?」
ようやく、こちらの問いに答える気になったようだ。
「まず、伝えておくわね。私の資産は、兄とは別になっているの」
「え?!」
結希の驚きは、当然だろう。
藤花コーポレーションがバックにあるからこそ、この大盤振る舞いだと考えていたのだから。
「その上で言うわね。全く問題なし。私、技術者として稼いでいるから」
それも、分かってはいる。
俺たちが使っている機体の発展に、大きく関与したのが舞であることは、広く知れ渡っている事実だ。
「それに……ううん、今はいいか。多分明日になれば、分かることだから」
これ以上の情報を、言う必要は無いと判断したのだろう。
ここで食い下がるのは、下策だ。
俺は素直に、引き下がることにした。
「あ~。そちらとは別になるが……『戦闘報奨金』は、どうなるんだ?」
明が、舞に尋ねる。
ヒーロー科の生徒には、『学生手当』が支給される。
手取りでは8万程度と、それほど大きな金額ではない。
しかし、加えて授業料免除、寮生活における衣食住の保証があり、かなり恵まれているのだ。
そして、それとは別に支給されるのが『戦闘報奨金』だ。
これは戦闘ごとに支給される、いわばボーナスのようなものである。
難易度の高い戦闘に参加するほど、金額も大きくなる。
もっとも、対価として支払う可能性があるのは、自分の命だ。
今回、巨大バグとの戦闘で失われたのは、前衛が三人、後衛二人。
合わせて、五人の命だ。
状況が許すのであれば、撤退する判断も必要となる。
「もちろん、支払われるわよ。今回だと……多分、5万円くらいかしら」
「それは、助かります……加えて、亡くなった方への補償もあることを考えると、素直に喜べませんが」
漣の言うとおり、戦死したヒーローには補償金が支払われる。
とはいえ、一般の公務員が亡くなった場合に比べると、はるかに少ない金額だ。
ヒーロー科への入学により、成人扱いされること。
及び、危険な任務と引き換えに、学生手当が支給されていること。
これらが、この扱いを正当化している理由だ。
「難しい話は終わったのかにゃ? そろそろ、お店についてほしいにゃ~」
「大丈夫よ、みかん。今、駐車場に入るところだから」
言われて、顔を上げる俺たち。
そこには「大衆食堂 マルダイ」の文字があった。
「フジ市にも、このお店の支店ができたことを知ったの。ここならば、みかんの食欲でも十分満足できると思うわよ」
「にゃ、楽しみにゃ!」
俺たちは、店に入る。
半個室の席が、あらかじめ確保されていた。
「次のニュースです。フジ市で起きた、バグの同時多発事件。その真相に迫ります」
聞き捨てならない言葉が、流れてきた。
同時多発事件?!
「あらら……まあ、いいか。家に帰れば分かることだし」
店に設置されていたテレビから、情報が流れる。
俺たちの学校を含めて、三か所で巨大バグが発生し、相当数の死者が出たようだ。
「幸いなことに、一般住民への被害はありませんでした」
幸い……悔しいが、その通りだ。
一般市民を、バグから守ること。
それが、俺たちヒーローの役目なのだから。
「今は死者を悼むより、自分の体を労わるのが先よ。さあ、席に座りましょう」
舞の言葉に、俺たちは素直に従うことにした。




