第一章 第十四話 職人の部屋
「先に述べておきます。二人とも内向的な性格であるため、ご了承ください」
店長が、一つの部屋のドアを開けた。
無数のマネキン。
そして、そこに掛けられている未完成の衣装。
そして、二人の人物が作業をしていた。
ハサミを持ち、裁断を行っている少女。
黒いロングヘアに、ウェーブがかかっている。
図書室などにいるような、そんな雰囲気を醸し出していた。
もう一人は、布をミシンで縫い合わせている少女。
黄色い髪が特徴で、少し浅黒い肌をしている。
ニホン人でないのは、一瞬で分かった。
「裁断をしているのが、ニカ。ミシンを使っているのが、ジャンナよ。二人とも、手を止めて挨拶しなさい」
店長の指示に従い、こちらに来る少女たち。
後ろにいる俺たちに気づいたようで、警戒の色が見てとれる。
「ニカです……よろしく」
「同じくジャンナ。よろしく」
名前だけの、極めて簡素な自己紹介であった。
「お客様が、特別な仕事を求めているの。話を聞いてもらえるかしら?」
店長の言葉に従い、舞がワイヤーのことについて話し始める。
二人の目が徐々に、職人のものに変わっていった。
「できるとは思う。このリードの形で、ワイヤーを編めばいいのね」
ニカが、結論を出そうとした。
その時、みかんが声を上げる。
「違うにゃ! そのままだと、瞬間的な張力に耐えられなくなるにゃ!」
ニカと舞が、驚いた顔でみかんを見る。
「だから、この部分をこういう風にしないといけないにゃ。けれども、この形だと柔軟性が損なわれるから、組み合わせる必要があるにゃ」
「そこのところ、詳しくお願い」
ニカの質問により、三人が激しい討論を行う。
専門的であり、かつ数式が飛び交う世界が繰り広げられる。
「久郎、何を言っているのか分かる?」
「残念ながら、俺は文系だ。ここまで高度な理系の話だと、さすがに専門外になる」
結希の問いに、俺は答えた。
ただ、確実に言えることがある。
この三人は、妥協することは絶対に無い。
プロ意識の塊だ。
そう、確信した。
餅は餅屋。
俺が横から口を出すのは、やめた方が良いだろう。
「有意義な会話だった。新しく作るワイヤーの、権利関係はどうする?」
「設計図という形で、提供してもらえると助かるわね。そうしたら、フィフティ・フィフティでどうかしら?」
ニカの問いに、舞が答える。
ニカが半分。
そして、舞とみかんがもう半分。
役割分担を考えれば、妥当なところであろう。
「開発に必要なお金は、全部こちらから出すわね。妥協無しでお願いするわ」
「分かった。頑張る」
交渉成立。
ニカと舞が、握手を交わした。
ちなみにジャンナは、一切口をはさむことは無かった。
日本人でも、入るのが難しいレベルの単語が相次いでいたのだ。
静観という判断は、正解であろう。
「だから、言っただろう? みかんが俺たちの中で一番、頭が良いって」
明の言葉が、しみじみと実感できる。
専門家の技術的な会話に、割り込んで問題点を指摘できる。
これは、並大抵のことではない。
「ふぃ~! 疲れたにゃ。そろそろご飯が食べたいにゃ!」
「そうね。私も頭を使ったから、栄養補給しないと」
俺たちは、店を後にすることにした。
新しいワイヤー。
俺だけではなく、他のヒーローにとっても大きな武器になることは、間違いないだろう。




