第一章 第十二話 一流の選択
「うわあ……大きな建物だね!」
結希が声を上げる。
実際その建物は、下手なスーパーよりも大きかった。
基本的に平屋建てであるが、一部に尖った意匠の部分が存在している。
恐らくその部分は、店員の休憩スペースなどに使われているのだろう。
店の入り口は二箇所あり、一方は洋服店、もう一方はスタジオになっているようだ。
看板には「Needle&Scissors(ニードル&シザース)」という文字が書かれていた。
「針とハサミ……もしかして、オーダーメイドに対応しているのでしょうか?」
漣の疑問に、舞が答える。
「その通り! しかも、超一流の腕前よ!」
こんなところに、そのレベルの店があるとは。
フジ市に住んでいる俺たちですら、全く気付かなかった。
「さあ、中に入りましょう」
自動ドアから、店内に移動する。
「いらっしゃいませ。当店へようこそ」
一人の女性が、こちらに向かってきた。
大人っぽい雰囲気の中に、わずかに未成熟な部分が見える。
しかし、明らかに成熟している部分もあった。
「うおっ、でか!」
明のセリフが、端的にそのことを示している。
豊かな胸元を、誇示するようなラインの服装。
それでいて、下品さは一切感じられない。
確かにこれは、一流の仕事であると感じた。
「私は、以前注文していたオーダーメイドを。そして、この子たちに予算はこれで、今着ている制服と同じデザインのものを注文するわね」
「え、良いの?!」
舞の言葉に、結希が驚く。
俺も同じ気持ちだ。
「これから、戦いは激しくなると思うわよ。今の制服は、悪くはないけれどもそれなり。だったら、良いものを注文する方が長持ちするから」
舞の金銭感覚で、オーダーメイド。
一体どれだけの金額になるのか、恐ろしい。
「これは、先行投資よ。あなたたちの命が、一番大事なのだから」
その言葉に、込められた思い。
俺たちはありがたく、受け取ることにした。
「それでは、採寸を行います。こちらにいらしてください」
どうやら、最初にあいさつした女性が店長のようである。
店の奥に、試着室があった。
「お客様、そちらは男性用となります。女性用は左手奥となっております」
「僕、男!」
……プロの眼からしても、間違われるとは。
さすがに、同情を禁じ得ない。
それはさておき、数人の店員が分担して、俺たちの採寸を行う。
無表情ではあるものの、キビキビとした、無駄のない動きに好感を抱く。
社員教育も、しっかり行われているようだ。
「店長、彼なのですが……」
「ふむふむ、なるほどね。分かった。しっかり採寸してちょうだい」
結希の採寸は、俺や明よりも時間がかかった。
より立体的な形に仕上げるよう、細かい所までしっかり計測されているようだ。
「剣を使って戦うのだから、可動性を高めるためなんだろうな」
「その理屈だと、明ももっと時間がかかってもいいはずでは?」
少しだけ、疑問が生じる。
とはいえ、俺たちに知るすべはない。
結希の採寸が終わったのは、女性陣の採寸が終わるのとほぼ同時であった。
「お疲れ~! そして、ジャーン!」
採寸から戻った俺たちを待ち受けていたのは、ドレスをまとった舞であった。
エレガントな雰囲気で、まるで王家のような威厳も兼ね備えている。
舞がこの店を選ぶのも、納得できる仕上がりであった。
「すっげえ! 姫というよりも、女王という感じだぜ!」
「確かに、これは素晴らしいですね。私では、服に負けてしまいそうです」
「みかんなら、なおさらにゃ。着る人を選ぶ服だと思うにゃ」
俺と結希も、同じ感想であった。
このドレスを作った店で、オーダーメイド。
どんな制服が出来上がるのか、楽しみだ。




