第一章 第八話 プランC
「とりあえず、少しだけ待ってちょうだい」
舞が、スマートフォンを取り出す。
そして、通話を始めた。
「あ、兄さん。状況は最悪。プランCの発動を、お願いするわね」
短い会話。
だが、込められた意味は大きい。
藤花コーポレーションの会長は、藤花誠司。
舞の兄であり、一代で巨大企業を作り上げた、時代の寵児である。
両親の詳細は不明であり、本人も多くの謎を抱えた人物。
そして、彼がシズオカに本社を置くことを決めたことが、今のシズオカの発展に大きく影響している。
さらに、今の会話から分かることがある。
舞はこの事態を、ある程度想定していたということだ。
「お待たせ。とりあえず、車に乗って移動するわよ」
「移動って、どこに?」
結希の問いに、舞は答えた。
「まずは洋服店で、身だしなみを整える。それから食事ね」
ヒーロー科の制服は、戦闘を考慮して頑丈に作られている。
しかし今回の戦いで、激しい傷みが生じてしまった。
さすがにこの格好で帰宅させるのは、気がとがめたようである。
「先に、コンビニにだけ寄ってもらっていいかにゃ? もう、お腹ペコペコにゃ!」
深緑の機体に乗っていた少女が、言葉を発する。
語尾の「にゃ」は、彼女の口癖なのだろう。
彼女は黒い髪をボブカットにしており、ネコミミ型のカチューシャを身につけている。
目は深緑色で、いかにも「猫っぽい」印象を受けた。
「賛成! 俺も腹が減って、どうにもならねえ!」
真紅の機体の少年も、それに同意する。
回復魔法は、体内のエネルギーを元に回復力を急激に高めるものであるため、深い傷を負ったものはよりエネルギー消費が激しくなる。
彼の戦いと、墜落時に負った怪我を考えれば、空腹になるのは当たり前であろう。
赤い髪に、強い意思を伴う青い瞳。
髪は短く切りそろえてあり、いかにも「格闘家」らしい雰囲気を放っている。
「ですね。コンビニくらいであれば、この格好でも何とかなるでしょうし」
紺碧の機体の少女が、意見を述べる。
水色の髪に、深海のような深い青の瞳。
同じ青い瞳でも、真紅の機体の少年とは受ける印象が全く異なる。
「はいはい。先にコンビニね」
肩をすくめて、舞が許可を出した。
駐車場に向けて、歩き出す俺たち。
そこに止められていたのは、一台の大型ワゴン車であった。
「これなら、全員乗れるはずよ。好きな場所に座ってね」
そして、舞が運転席に座る。
「普通は、運転手に任せるのではないのか?」
俺の質問に、舞は笑って返した。
「私、他の人に運命を握られるのが嫌なの」
なるほど、確かに。
確実に信用できる人物を探すのも、それだけで一苦労だろう。
さらに、その人物が運転前に「洗脳」されていないかどうかを確認する。
それらを考慮すれば、自分で運転することを選ぶことに、納得できた。
車に乗り込む俺たち。
後ろのシートに三人が、中間のシートに俺と結希が乗ることになった。
「コンビニに行くまでに、自己紹介でもしたら? お互いまだ、名前も知らないでしょう?」
言われて、ようやくそのことに気づいた。
これから、三年間付き合うことになる仲間なのだ。
それを聞き、赤髪の少年が勢いよく話し始めた。




