間者看破(1)
ハルが門兵として働くようになって、さらにしばらく経った頃。属したチームが遅番に入った時に、“ちょっとした出来事“が起きた。
遅番では、門兵が4チームに分かれて、王都を囲む“都壁“のまわりを巡回する。1チームは壁の半周分を受け持つ。北門から南下するチームが2つ、南門から北上するチームが2つ、それぞれから、出発し、右半分、左半分を担当する。途中、南下チームと北上チームが落ち合い、お互いの気付き等を共有する。南下チームは南下を、北上チームは北上をそれぞれ続ける。ゴールの門に到着すると、管理者に報告、あらためて、出発した門まで戻る。戻る際も異変がないか気にかけながら、戻る。やはり途中で、もう一方のチームと落ち合い再度気づきを共有し、出発地の門で、最終報告して、任務完了となる。今は、巡回途中の休憩時間。
「なぁ、ハルよ。」
「なんですか?センパイ。」
「こんなこと、門兵に聞くのは野暮、というか、ほとんど御法度なんだが、あえて聞かせてくれ。なんで、お前、門兵に?」
「そのことですか。」
「お前の実力を全て知っているわけではないけどさ、少なくても、“術連“に入れるくらいの実力はあると思っているんだけど?」
“術連“とは、“魔術師連合会“のこと。一定レベル以上の魔術師が所属し、騎士の王国兵団と並ぶ、パンズール王国の重要な任務をこなす団体である。
「そんなことはないですよ。僕なんか大した実力もないですし、買い被りすぎです。ただ単に、門兵に憧れがあったんです。昔、門兵の方に助けてもらったことがあって、それで、です。」
「ほんとかぁ?なんかウソくさいんだよなぁ。」
「いえいえ、ホントですって。そういうセンパイだって、かなりの“術師“でしょ?なぜ門兵に?」
と言って、辛辣な視線(ジト目)を向ける。
「おいおい、俺が“術師“だってこと、お前には言ってなかったぞ?それを見破れる時点で、相当なんだけど?」
「あっ。」
「“あっ“じゃねぇよ、ったく。」
「いやぁ、あはははは〜。」
「まぁ、いいや。とりあえず、そういうことにしとくよ。それより、お前にはまだ見せてなかったっけな。」
と言って、おもむろに左手のガントレットを外して見せた。
「そ、それは。」
「まだ俺が学園にいた頃の話だ。お前も行ったと思うが、迷宮攻略。」
「はい。」
「そん時に、ヘマしてな。」
「ヘマ?」
「あぁ、メンバーは無事だったんだが、その代償が、俺の左手ってわけさ。」
「・・・」
「お前も知っていると思うが、迷宮攻略も“術連“に入るための選考材料なわけで。チームに迷惑をかけたり、負傷者が出たりするとマイナス査定になる。さすがにあの迷宮で死者が出ることはないが、自身が負傷すると相当のマイナスになる。ましてや、俺の場合、完全に片手を失ったからな、その時点でアウトさ。」
「すみません、変なこと聞いちゃって。」
「いいさ、いずれ話す時が来るとは思っていたし、それが、今ってだけさ。気にするな。それが、学園4年目の時。まぁ、そこからは、気ぃ入れ直してさ、片手でもやれるぜってところを見せたくて、猛勉強、猛練習して、トップ卒業を目指したわけさ。これでも、一応、名を刻んだんだぜ?」
「えっと、まさか、あの学園始まって以来唯一の“完全合格者“のフィオレッティさん?」
「そう、俺のことって、今かよ。」
「はい〜、すみません、今、知りました。」
「いやいや、俺の名前知っているでしょ?それでも気づかなかったの?」
「え〜っと、センパイはセンパイでして〜、その〜。」
「え〜、名前覚えていてくれてなかったの〜?」
「すみません〜。」
「淋しいよ〜、淋しすぎるよ〜、ハル君よ〜。」
「ごめんなさい〜。」
と、その時、2人は同時に何かの気配を感じ取り、共に身構えた。




