約定の儀(1)
私の名前は「佐丸 一樹」。
先月受けた健康診断の結果が思わしくなく、今日、再検査を受けた。
なんかイヤな予感がしたが、そんな時の予感というものは、本当に当たるから面白い。
「ガン」なのだそうだ。しかも「末期」らしく、もって半年とのこと。
医者からは、
「自覚症状があったと思いますが、放っておいたのですか?」
と聞かれたが、
「はぁ、痛みはありましたが、市販の痛み止めでなんとかおさまっていたので。」
と答えるしかなかった。
「それで、今後のことなのですが。」
ということで、仕事の都合もあるため、二週間後の月曜日から入院することにした。
両親は既に他界しており、兄弟もなく、独り身で、特にこれといった趣味もなく、ただなんとなく生きてきた。
そんな身とはいえ、いきなりの余命宣告はそれなりに「来るもの」があった。
その後、予定通り入院。
しばらくは体調の変化もなく、病院の中庭を散歩したりして時間を持て余す日々を過ごした。
しかし、そんな日々は、そう長くは続かなかった。
明らかな体調の変化が見え始めてからは、あっという間に悪化し、起き上がることもままならなくなり、ついにその日を迎えた。
体中のあちらこちらに激痛が走る中、妙に頭の中は冷静で、「あぁ、これでお終いなんだなぁ」と。
(担当医さん、看護師さん、ありがとうございました。すごく痛くて仕方がなかったけど、ここまで来れたのはあなた方のお陰です。)
(弁護士さん、ありがとうございました。おかげさまで、何も思い残すことなく逝けます。)
(課長・部長、これまでお世話になりました。仕事楽しかったですよ。)
(あぁ、なんか意識が、遠く、なって、い、く〜。)
「・・・さん」「・・・さん」
(うん?何?)
「佐丸一樹さん」
(なんか、名を呼ばれてる?俺まだ死んでない?)
「さ〜ま〜る〜 い〜つ〜きさ〜〜ん」
「はい?」
(聞き覚えのない声だぞ?)
「もう、佐丸さん、ちゃんと話聞いてます?」
「えっ?話?」
「ですから、女神様のお話ですよ。」
「女神様?」
「やっぱり聞いてない、ったく!」
「もう一度お話ししますね。佐丸様は、今し方お亡くなりになられました。そして今、佐丸様はここ、『女神の間』におります。佐丸様には、これより異世界に転生していただきます。こちらの都合で転生していただくので、それなりの『能力』をお授けいたします。まずは、属性について、お好きな物を2つお選びください。」
「えっと、異世界?転生?」
「また聞いてないのですか?」
「あっ、いえ、話は聞いてました。ただですね、実感がなくて、その・・・。」
「それはそうですよ、なんてったってあなたは死んでいるのですから。」
「そうですよね、死んだんですよね、俺。」
「そうです、し・ん・だ のです!」
「まぁまぁ、スライヤ、そのくらいにしてあげなさい。」
「でも、女神様。わかりました。」
「すみません、状況は理解しました。お話しの内容も、です。」
「それは良かったです。」
「それで、何を選べば良いのでしょうか?」
「はい、佐丸様が転生される世界は、魔法が普通に使える世界なので、“魔法属性“と“職業“を選んでいただきます。まずは“魔法属性“を選んでください。ここにある、炎、水、風、土、光、雷、闇の7つの中から2つ選んでください。」
と言って、女神が空中に画面、のようなものを映し出した。
「この中から2つですか・・・。」
(どれだ〜、“魔法属性“だろ?ゲームの世界だよなぁ、ホント。とりあえず、炎かなぁ。雷とか光も良さそうだし、でも闇も捨てがたいよなぁ。うわ〜、迷うなぁ。)
「・・・・」
(スライヤって言ったっけ、なんかイライラしてない?睨まれているよね、俺。この人(?)も女神なんでしょ?女神ってもう少し優しいよね、こちらの方のように。)
「言っておきますが、私は女神ではなく、女神様にお仕えする『妖精』です。だから優しくして あ・げ・な・く・て・も いいんで、す〜。」
(えっ?心、読まれてるの?)
「丸見えですけどっ‼︎」
「ご、ごめんなさい。では、女神様、まずは、」
どの属性にするか、とにかく決めてそれを告げようとした、その時、突然扉が開け放たれ、同時に大きな声が『女神の間』に響き渡った。
「女神さま〜、女神さま〜、大変です〜‼︎」
「きゃっ!」
扉の開く音と大声に驚いて女神の体がビクッとした拍子に、提示されていた属性が全て選択された状態になった。
さらに、女神の指が少し動いた瞬間、選択されたすべての属性の文字が私に向かって飛んできた。私も驚いて口をアホみたいに開けていた(そんな気がしていただけ)ので、飛んできた文字がそのまま口の中に入ってしまった。いや、これもそんな気がしただけ、なのだが。
「もう、びっくりさせないでちょうだい。思わず、全部やっちゃったじゃないの。」
「申し訳ありません、女神様。」
「あの〜、女神さま?これって大丈夫なんでしょうか〜?」
「う〜ん、どうなのかしら?初めてのことなので、よくわからないわねぇ。でもまぁ、大丈夫なんじゃないかしら?」
「そうでしょうか?なんか、苦しそうですけど?」
「きっと大丈夫よ、アハハハ〜。それで、何が大変なの?」
女神が、飛び込んできた妖精に聞いた。
「そうでした、女神様。大神様が、突然お見えになられて、すぐにフィレンセ様(女神のこと)をお呼びするように、と。それに、少しお怒りのご様子で。」
「あらっ、お母さまが?私、何かしましたかしら?まぁ、いいわ。わかりました。すぐに行きます。悪いけど、私が戻るまで、ここをお願いね。」
「はい、わかりました。」
そんな女神と妖精がやりとりしている間、私は、体の中で何かが喧嘩をしているような不快な感じに苦しめられていた。なんか胃の辺りがこう『グォー』というか、『ズキンズキン』というか、今まで経験した事のない痛み?みたいなものを感じてうずくまって耐え忍んでいた。とは言え、すでに死んでいる身で、実体はないから、ここでも『そんな気』がしていただけなのだが。
暫く苦しみに耐え忍んでいると、それまでの苦しみが嘘のようにす〜っと消えてなくなった。
「佐丸様?大丈夫ですか?」
「ふ〜。あっ、はい、取り敢えず、大丈夫になりました。流石に、最初は辛かったですがね。」
「そうですか、まずはご無事のようで何よりです。」
「こういうことってよくあるのですか?」
「あははは。実は、初めての出来事でして。私もヒヤヒヤしてました、はい。」
どうやら、このことはほんとうに初めてのことらしく、どちらかと言えば、それまでキツく当たってきていた妖精のスライヤも、今は、それこそ『平身低頭』という表現がピッタリな感じでバツが悪そうにしていた。




