ブロンドヘアの魔女②
串焼きを全て食べ切り、両頬を軽く叩いて気持ちを入れ替える。
誰にも見られないように辺りを見渡してからプリフィカの森の中に入り、ひたすら歩く。
今まで行き来する時に、同じ所を通っていた故に、踏まれて綺麗な道が作られ歩きやすくなっていた。
1時間ほど歩くとようやく見えてきた。
「久しぶりのルーシュソラーレ王国!何故だか懐かしい気持ちになるわね。そしてなんだか落ち着くわ」
ルーシュソラーレ王国は随所に魔法が感じられる国。
悪意のある者が入ってくると、すぐに魔術師に伝わるようにシールドが張られていたり、道は土魔法で整備されていて、井戸は枯れないように水魔法が掛けられている。
私は魔法が使えるから感じられるのであって、もしかしたら至る所で魔法が使われていることに気付いている人は少ないのかもしれない。
ここではチェーロブルー王国と違い、魔法を使える者に対して尊敬の念を抱いている人が多い。
ルーシュソラーレ王国には"魔術師"が存在し、魔術師はごく僅かしかいないため、類稀なる才能を持つ存在として国の保護対象となっていた。
もし私がこの国に生まれていたら、災いが起こるなど恐れられず、私も保護されて魔術師になっていたんだろうか。
他国の人間がこのルーシュソラーレ王国の国民になるためには、かなり複雑な申請をしなければならない。
この王国では同じ王国内の人間同士でしか結婚ができないという法律があるためだ。
その昔、ルーシュソラーレ王国に遊びに来た他国の貴族男性が、たまたま知り合った女性魔術師の心を虜にし、他国に連れて帰ってしまったことが発端でできた法律らしい。
その時も既に魔術師は貴重な存在で保護対象となっていたのだが、帰ってしまう貴族男性を諦めきれず、一緒に行きたいと思った女性魔術師が、あらゆる上級魔法を使って護衛の騎士団員やら他の魔術師達からの目をかい潜り、惚れた貴族男性と駆け落ちして出て行ってしまった。
他国に魔術師が渡ってしまうことは、魔法に対する戦術やら弱点がその国に漏れてしまうことを意味する。
万が一その国と戦争になってしまったら?
対策が練られるため不利になりかねない。
よって同じ王国内の人間同士でしか結婚ができない、魔術師は保護対象となる代わりにルーシュソラーレ王国以外の国籍を取得することは許されない、という法律が作られてしまった。
ふと脳裏を掠める。
もし私が魔法が使えることを伝えたとしたら?
チェーロブルー王国の人間だけど、ルーシュソラーレ王国の人間になりたいと申請したら通るのだろうか。
しかし。
私がルーシュソラーレ王国の人間になったなら、もう家族には二度と会えないかもしれない。
家族と言えど、少なからず魔法に関わる情報を持っている。
では家族も申請してルーシュソラーレの人間に。となりたいどころだけれど。
子爵と言えど住んでいる領の管理をし、領民を守っている。
領民から税を徴収し、その税収を国に納めている。
そうなると全てを捨てて引っ越すわけにはいかない。
家族だとしても国籍が異なると情報漏洩を防ぐために、私との接触は阻止されるだろう。
よって私はひっそりと身を潜めて生活するほかない。
そんなことを考えていると、悲鳴や怒声が聞こえてきて人集りが目に飛び込んてきた。
「女の子が飛び出したらしい」
「可哀想に。あれは助からんよ…」
不穏な言葉が耳に入ってくる。嫌な予感がして、失礼します!と人の群れを掻き分けて前へ出た。
まだ10歳にも満たないような小さな女の子が頭やお腹から血を流して横たわっている。
傍らで母親と思わしき女性が、震えながら泣き叫んでいた。
「娘を助けてください…誰か…!娘を…助けて…!」




