ブロンドヘアの魔女①
「…わぁ、人がいっぱいね!」
こんなに賑わっている景色をゆっくり見られるなんていつぶりだろう。
チェーロブルー王国の王都に回復薬を買い取ってもらう以外に来たのは、親友のブランカと一緒に買い物をしたり、お茶を飲んで以来だった。
同じような年代の女の子達が楽しそうに歩いているのを見て、少し羨ましく思った。
私が普通の女の子だったら。
魔法なんて使える体質ではなかったら。
何度も頭に浮かんでは、何か意味があって今の自分があるのだと言い聞かせてきた。
そう思わないと心が苦しくて、辛くて前を向けないから。
(今日は偵察で来たんだったわ。でも少しくらい楽しんでも罰は当たらないわよね?)
すれ違う人達からは、魔女という単語が一切聞こえなかった。
てっきり災いやら世界の終わりやら、そう言った単語が飛び交っているものと思いきや誰も気にも留めていないらしく、それが当たり前のようにいつも通りの日常が繰り返されていた。
少し歩くと肉を焼いた、いい匂いが漂ってきてお腹がぐう〜っと鳴った。
「とても美味しそうね、1本くださいな」
「らっしゃい!今日もいい天気だねぇ、1本200ゴールドだよっ」
頭に布を巻いた、体格のいい店主が串に刺した肉を沢山焼いていた。
はい、と店主にお金を渡すと、はいよっ、とできたての串焼きをくれた。
それとなく聞いてみる。
「いい天気ですね〜、今日は天気がいいから久しぶりに来たんですけど、魔女の話ってどうなったかご存知でしょうか?」
「あ〜、あの150年ぶりに現れたっていう!最初の数日間はお客さんみんなその話で持ちきりだったんだけど、今はそういや誰も話して来ねぇな」
そんな話もあったなぁ、とにこやかに答えてくれた。
魔女に対して恐れなど微塵もないかのように。
「本当に本物の魔女だったとしたら、この辺とっくに焼かれて何も無くなってるだろうからなぁ」
魔女=辺り一面燃やし尽くすイメージってことなのかしら?
確かに、見られたのが炎の魔法を使っていた時だったから間違ってはいないのかもしれないわね。
「何も起こらないし、実際に見たっていう男連中も酒に酔ってたらしいからな、夢でも見たんだろうなって言ってる奴もいたなぁ」
そうだったのね。
ホッとして胸のつかえが取れた気がした。
それでも油断はできない。なんたって顔は見られたわけだから。
「でもなぁ、見たのが本物の魔女だったとしたらって、騎士団達が今も探してるって話も耳にしたなぁ」
え…探してる?
「どうして探してるんですか?」
「なんでも、魔女が現れたということは災いが起こるかもしれないっていうのは知ってるだろ?だからそれを防ぎたいってだけじゃなくてな。魔法が使えるのは貴重な存在だから、確実にチェーロブルー王国の味方に付けたいらしいんだよ」
だから探し出してチェーロブルー王国の王子の誰かと婚約させたがっているんだってよ、と店主が話してくれた時には頭が真っ白になった。
大事になっているじゃない…!
ただでさえこの国でブロンドヘアなんて珍しいのに、見られてしまったわけだから。
今後絶対誰にも見られてはいけなくなってしまったわ!
そうだったのね、教えてくれてありがとうございます、と店主に言ってその場を離れた。
口に含んだ串焼きは熱くて味付けも丁度良く、とても美味しかった。
もっとゆっくり味わいたかったけれど、頭が混乱して噛む毎に味もわからなくなってきた。
王子との婚約なんて、女の子の憧れであり、羨ましくて夢にまで見るような嬉しい事のはずなのに。
重い石を飲み込んでしまったかのように、とても身体が重く伸し掛かってきて、さっきまでの晴れやかな気分も何処かに飛んでしまっていた。




