赤茶色の髪の男①
赤みがかった茶色の髪と、新緑のようなペリドットの色の眼をもつ男性がこちらを見ている。
回復魔法を使ったこととか、バレてないよね?
「ねえ、君、ちょっといいかな」
ニコッと親しみのある笑顔を向けて男性が近付いて来た。
大丈夫、バレてない。多分。
でも、いざとなったら逃げよう。
「さっきので確信した。君、魔法使えるよね?」
ひいい
なんでバレてるの!?いつから見られてた…?
「それなのに魔術師の人間として仕事してない感じ?」
「な…なんのことでしょう?」
「知らないフリしても意味ないよ、オレ、裏で動くの得意だからさ」
全部知ってるよ、と笑顔のまま続ける。
「ティアリーナさん、だよね」
名前まで知られている。嘘は付けないってことよね。
「魔術師って貴重なんだよね。国で保護するくらいに大事な存在なんだよ。ただね、難ありが多くて。自分勝手に魔法を使いたがる魔術師が多いんだけど」
腰に手を当て、伏し目がちに言葉を紡ぐ。
「でもティアリーナさんは違うよね。人のために使いたいって感じたよ。だからさ」
…?
男性が口を閉じて黙ってしまった。
そして申し訳なさそうにこちらを見て。
「オレと結婚してほしいんだ」
「…はい?」
何を言い出すのかドキドキしてたら、まさかの結婚?聞き間違いかしら?
頭の中真っ白なんですけれども。
私が固まっていると男性が、あぁそうだった!とポンっと手の平を叩く。
「申し遅れました、オレはこの国、ルーシュソラーレ王国の第2王子、レオナルド・ルーシュソラーレと申します」
全然そうは見えないかもしれないけどー!とあっけらかんと笑う。
「第2王子!?」
「そりゃビックリするよねー!」
レオナルドは少年のような顔でケラケラと笑う。
このルーシュソラーレ王国には第1王子と第2王子、第3王子が居ることは知られているが、第1王子は魔術師、第2王子は遊び人、第3王子は今何処で何をしているのかすら知られていない謎多き人物であったりする。
優秀な第1王子は一際目を引き、国王陛下も一番に可愛がっていると聞いたことがあったような。
そして目の前にいるのは遊び人と噂される第2王子。
その第2王子に求婚されている。
「本当は無理矢理結婚なんてしたくないんだけどね、でもオレもそろそろ身を固めなきゃならなくて。お相手として相応しい女性をずっと探していたんだ」
それが君。
てへ、と可愛らしく舌をペロッと出して言ってくるが、顔が整っているだけに何となく腹が立つ。
「身分的に不釣り合いですし!」
「君は魔術師=国の保護対象者でオレと同じくらいの身分に値するから気にしないで。オレの父上も歓迎してくれるよ」
遊び人で色んな女性と遊びまくっている、問題ある第2王子が貴重な魔術師と結婚となれば父親である国王陛下も喜んでくれる…と?
「私は結婚とかまだ考えていなくて。それに私はこの国の人間でもないからあなたとの結婚は無理ですし、申し訳ないんですけど」
と言ってる最中に。
「隣国のチェーロブルー王国でしょ、こっちの国籍に変更すれば全然問題なく結婚できるよ、父上に掛け合ってみるし。それよりもチェーロブルー王国の王子の誰かと結婚させられそうになってるんだよね?そちらの国の騎士団が探し回ってたよ」
あ〜、災いを防ぐ目的と150年ぶりに現れた危険な存在であり、魔法が使えるのは貴重な存在だから…だっけ?
「それともなに?王子であるオレからの求婚を断ろうって思ってる?」
さっきまでフニャけていた顔が、急に声のトーンを落として真剣な眼差しで私を見つめてくる。
「……っ!」
思わずたじろいでしまう。
いけない、落ち着いて深呼吸しよう。
政略結婚。考えたことがないと言えば嘘になる。
家族のために政略結婚をすることは貴族では当たり前の世界。
「少しだけ考えさせてもらえませんか?」
「少しってどのくらい?待ってる間に万が一騎士団に見つかったらさ、間違いなく君の国の王子の誰かと結婚になるよね。…もしかして逃げようとしてる?」
「逃げるだなんてそんなことしませんよっ」
正直なところ、逃げようと思った。
心臓が早鐘を打っているが、悔しいので顔には出さない。
私が自国で見つかってしまったら、災いの元だからと監視付きでチェーロブルー王国の王子と結婚させられてしまうだろう。
そして何かが起こった時に、魔女である私が災いの原因だと処刑されるかもしれない。
家族にも刃が突き付けられる可能性が無いとも言い切れない。
でもルーシュソラーレ王国ではその真逆で、魔術師という扱いになり、国の保護対象となる。こちらは本当に守ってもらえるという意味で。
そこでハッと気が付く。
そっか、もし私がレオナルド王子と結婚したら…
「私の家族を守ってもらえる…?」
小さく、零れるように口から出ていた。




