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第五話

 事件は中学校内で起きている。

 そして、犯人は中学校の外にいる。

 この二点だけで、現役小学生の浮草はお手上げだ。浮草は「みる」ことと、それに付随して、ほとんどの存在との「対話」と「会話」が可能だ。「みて」理解することで、「きく」「つたえる」こともまたできるのだ。相手が、人間との意志疎通に不慣れでも浮草の方が理解して対応できる。

 しかし、それだけなのだ。

 相手が害意をもって直接襲いかかってきたら、浮草はごく普通に怪我をするし、程度によっては死ぬ。ステータスを探知や理解とコミュニケーションに全振りしてるといっていい。薔薇ときれいに真逆である。

 話しかけたり、話し合いで解決することしかできないのだ。

 それゆえ、万が一の自衛のために、浮草はスマホポーチやポケットに、御神酒の入った小瓶や塩、幸広特製のスマッジスティックと着火用のマッチやライターを忍ばせている。ランドセルの中、机のお道具箱の中にも1セットずつある。教師に見つかったら若干問題になりそうなものもあるが、それはその時だ。持ち物検査で家族を呼ばれるより、敵意ある幽霊に襲われる方が百倍怖い。

 とはいえ、浮草はふしぎとそういう状況に陥ることが少ない。鶺鴒の双子の弟・隼は、幼い頃は日常的に神隠しに遭ったり、幽霊や妖怪に襲われていたものだが。

 打つ手なしで思考が散漫になる浮草の背景では、給食のあまりの揚げパン争奪じゃんけん大会が始まっていた。


◆ ◇ ◆


「夏休み前までに、プールもとに戻んないって。ウチのクラスの水泳クラブの子が言ってた」

「マジか」

 昼休み。僅かに悪臭がこもる校舎を離れ、薔薇と栄地と緋水は中庭にいた。校庭側に大きく開けているので、風通しが良く、古くからこの地に生えているオオケヤキが素敵な木陰を提供してくれている。園芸クラブが花壇もしつらえており、グリーンカーテンと季節の花が楽しめる。ベンチなどはないものの、芝生とレンガの道があり、各々なんか良い感じのところで寛ぎつつ、昼食をとる生徒は多い。レジャーシートを持ち込む猛者までいる。

「プールなあ。結局本気で泳げるわけじゃないし、あたしは別に困らないけど、水泳クラブがかわいそうだね」

 薔薇の声のトーンは、言葉通りに少し同情的ではあるものの、目はキラキラと輝いて手の中のお昼ごはんに集中している。

 今日の幸弘手作りのお弁当はサンドイッチ。ベーコン、ローストチキン、トマト、きゅうり、レタスに手作りのソースやマヨネーズがたっぷり挟んである。デザートには、ピーナツバターとチョコのサンドイッチもある。

 満面の笑みで、薔薇はサンドイッチにかぶりついた。

「アンタって、水中でも異常な速さで泳ぐもんね。実はカッパなの?」

「そだよ」

「…えっ!?」

 もぐもぐごくり、のあとに頷かれ、緋水はだし巻き玉子を箸から取り落としそうになる。

「三、四歳の時から、天狼川でカッパとカワウソと川生まれの深きものキッズと夏の間ずっと遊んでたから」

「いろいろ待って」

「たまに通りすがりの人魚とかアマビエとかに、人類かどうか疑われてたなあ」

 主に陸の上からその光景を眺めていた栄地が懐かしげに言う。

「え、泥淵(でいふ)温泉の深きものどもたちって、こっち来るの?」

「たまに泳いでるよ。ふつーに」

「カッパとカワウソもな」

「知らなかった……あのひとたち、一生温泉に浸かってるのかと」

「温泉、泳ぐの禁止だから」

「そんな理由…?」

 愕然とする緋水。十年以上、あの川を見ているのに気付いていなかった。自分が気付かないなら、当然人も気付くまい。

「でも、プール、夏休みになったからって使えそうなの? 直るの?」

「さあ」

「そうすると、大会?の練習って、新市街まで行かないとならないじゃん。めんどくさ。かわいそう」

 めんどうくさいことが、とても嫌いな薔薇は心から不憫そうに眉を寄せる。たしか、薔薇のクラスにも水泳クラブの生徒がいる。興味がないので良くわからないが、全国クラスの実力者で、カッパたちに鍛えられた薔薇に次いで泳ぐのが速い。

「川では練習できないからな。カッパとカワウソと深きものどもキッズと薔薇が出るから、とても危ない」

「うむ。」

「危ないものとして列挙されて納得しないで? というかそもそも、川や海で泳ぐのと、プールで泳ぐのって違うからね」

「話変わるけど、白夜からなんか見つけてないかってメッセージ来てたけど、なんかある? あたしなんにも分かんない」

「俺も」

「ワタシも。何人か体調崩して休んでる子はいるけど…クサイからサボってるだけでしょ」

「あー、こっちのクラスもそんな感じだね」

「ああ、それでか……休み時間中ずっと、白夜が警邏中の軍用犬みたいに殺気撒き散らしながら校内を歩いてるから、怖いなと思ってたんだ」

「おかげで白夜周辺は安全ね。怖いけど」

「あたしら、霊っぽいものへの探知系能力にステ振りしてないからねー」

「白夜には、あとでお礼を言おう」

「そだね」

「使えねえなおめーら!って怒鳴られるだけだと思うけど」

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