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第十三話

「へえ、やるじゃん飯島さん」

「褒めちゃダメだよ」

「ダメかあ」

「うん、ダメ。みんな正気じゃなくなってたから、どうしようもなかったんだけど」

「それは本人たちだけのせい?」

「悪い(ヴィラン)がいたかってこと? ううん、いないよ。まあちょっときっかけはあったかもだけど……一番最後、みり愛さんが呪物作ったのは、本人だけの選択だから」

「……飯島さん、呪物作ったん?」

「うん。物理的に核ができたから、薔薇ちゃんにもちょっかい出せるくらい強くなれたんだよ」

「呪物って、作ろう!ってなって気軽に作るもんかね……違うか、それくらい正常な判断能力なくなってたってことねー」

「そういうこと。誰か、悪いやつがいるわけじゃないっていうのは、悲しいね。殴れないもん」

 薔薇と浮草が、家のドアまで進む。薔薇は一応周りを見回すが、通りを歩く人や屋内からこちらを見ている人はいない。

「さっすが、探知にステ振りしてる人は違うわあ」

「ありがと!」

 などと緊張感ゼロでドアの前に立つ。

「10:0で逆恨みだから、分かるわけないよ」


ギイッ


 ドアが、勝手に開いた。客を呼び込むように、ゆっくりと。

「ゔっ」

「あー、うわー」

 薔薇は現実の悪臭に、浮草は過去の光景とホーンテッドハウスと化した屋内の有り様に、それぞれ呻き声をあげた。

「これ、昼頃に学校から見たときより悪化してる…」

「普通に通報した方がいいレベルの死臭するけど、いいの?」

「よくないよ。だけど、いまここに普通の人入ったら死んじゃうよ」

「マジか」

幽霊屋敷(ホーンテッドハウス)っていうか、今風にいうと異界とか裏世界になってる」

「スゴくない?」

「スゴいよ、悪い意味で。ちょっと待ってね」

 浮草はランドセルを下ろし、常備している怪異撃退セット(大)から、ひとまきの赤い糸を取り出した。

「はぐれないように、これを手首に巻いてつないでおこう」

「小指じゃなく?」

「手首の方が太いし。そのうえで、手もつないでね」

「いいよ」

 薔薇と浮草は、太めの赤い糸をお互いの手首に巻き付けてつなぎ、更にその手をしっかりと握り合う。

「もしも糸が切れたら、おれ急いで鶺鴒呼びに戻るから、待っててね」

「分かった! じゃ、入りますか」

「うん、行こう。おじゃましまーす」

「おじゃましまーす!」

 敷居を二人の体が踏み越えたとたん、開いたときとはうって変わってバンッ!!と暴力的にドアが閉ざされた。試さなくても、開かないだろう。

 二人は土足のまま室内に踏みいる。

 何しろそこらじゅう、腐った水でびしょ濡れだからだ。腐った水草、熱帯魚の死骸も散乱している。天井からもポタポタと水が滴り落ちる。

「スイマセン、鼻がもげそう、帰りたい」

「だよねえ……でももう最後までやらないと出られないなあ」

「ですよねー。じゃ、RTAでお願いします。世界最速で」

「薔薇ちゃんのおかけで、二つイベントスキップできるよ。じゃ、リビングに行こう」

「一周目なのに!」

「別に見なくていいムービーだし、二周目はないよ」

 薔薇と浮草は、まるで本当にホラーゲームでも遊んでいるかのような慣れた様子で、警戒はしつつも平然と歩を進める。

 浮草が選んだ一階にあるドアを薔薇が開く。そこは、浮草が目指した通り、リビングだった。部屋全体を見渡せる広いキッチン、食事用テーブル。大きなテレビの周りにはコの字型にソファが置かれ、ローテーブルにはテレビのリモコンとなにかの雑誌、腐った水草と熱帯魚の死骸が乗っている。もちろん、キッチンも、テーブルも、ソファも、床も、余すところなく水浸しで、腐った水草と熱帯魚の死骸がぶちまけられている。

 テレビの横には立派なガラス扉のショーケースが置かれ、そこには十以上のトロフィーや盾、記念写真が飾られていたーーはずだ。ガラスは砕け、トロフィーは倒れて折れ曲がり、盾も歪んで伏している。写真を納めた写真立ても同様に砕けて、写真は水が染みてなにが写っているのか全く判別がつかない。

「死体はないけど、ここ、血の匂いすっごい」

「薔薇ちゃん、警察犬みたい」

「警察は…隼が働いてるから…ヤダな…。それより、なんでここに来なきゃならないの?」

「ここのムービー見ないと、最後のイベントへ行けないから」

「めんどくせー」

「薔薇ちゃんのおかげで、ここだけで済むんだよ。というか、どうしても薔薇ちゃんに見てほしいみたい……さっきからもう、おれ、バグってるみたいに延々「みせ」られてる」

「おっと? わかった、あたしにも「みせて」」

「うん、「みせる」ね」

 わずかに浮草が、握りあっていた手に力を籠める。

 薔薇は、霊的なことに影響を受けないが例外はある。ひとつは、単純に相手がとてつもなく強いとき。名を知られるような神や怪物、魔王のようなものであれば、見えるし、話せるし、祟ったり呪ったりできるだろう。

 そしてもうひとつ。薔薇が許可したとき。例えば、普通レベルの幽霊がいて、浮草が通訳として「遊んでほしいって」と伝え、薔薇が「いいよ、遊ぼう」と答えれば、幽霊は薔薇に見えるようになり、話したり、触れたりできるようになる。だが、それはとりもなおさず、薔薇からも触れる、薔薇からも見られる、ということだが……友達になるつもりなら、特に問題のないことだ。

 だから、浮草は過去の出来事を、薔薇に見ることをあえて提案した。生き霊となったみり愛の望みでもある。

 たしかに、これを見た薔薇は、みり愛の凄まじい怨念の影響を受けるだろう。生き霊となったみり愛の姿も見ることになる。

 でも、それはつまり()()()()()()()ことなのだと、みり愛は分かっているのだろうか? 宣戦布告してきた相手を目にして、薔薇がどんな行動をとるのか、みり愛は知らないに違いない。

「薔薇ちゃん、敵に容赦しないのになあ」


◆ ◇ ◆


 視点はたぶんみり愛のものだ。

 薔薇はさっき通ったドアの鍵を開ける手を見、開いたドアから弾けた両親の怒鳴り合う声を聞く。みり愛は慌ててローファーを脱ぎ捨て、リビングへ走る。

 ドアを開けて飛び込むと、キッチンで髪を振り乱して泣きわめく母と、頭を抱えてテーブルの自分の椅子に座る父。いつもは食事が並ぶ四人がけのテーブルには小型のレコーダー。

「だって! だってもう何年も治らないから! 病院は信じられないの! いつまでもいつまでも通院させて、お金をとりたいだけなの! 早く治りたいのよ! だって、家事もちゃんとできないダメ人間になっていく! 生きてる価値ないじゃない! 早く治したかったの! 辛かったの! だから!」

「だから、病院に行かず治療もせずに、みり愛を怒鳴るのか?! 治ってない?! 三年前と比べて、格段に治ってるだろう?!」

 悲しいかな、泣き叫ぶ母にはもう慣れていた。だが父が声を荒らげるのは、驚いた。たぶん、生まれて始めて聞いた。

「な、なに、なに、どういうこと? 病院にいってない? 薬は? 飲んでないの? だから最近具合が悪いの? なんで? 治ってきてたのに、おかしくなったのって、病院行くのやめたから?」

 キッチンの母、テーブルの父を交互に見て、みり愛は沸き上がる疑問をそのまま口から溢した。足元に、今日の夕飯の食材が入ったエコバッグと通学かばん、水着の入った袋が転がる。

 母は、喉も破れよとばかりに金切り声を張り上げる。父は、三年にわたる母の看病と、家事と仕事とでこけた顔を、更にやつれさせ、もうどうにでもなれとばかりにレコーダーの録音を再生する。そこには、みり愛を罵る母の怒声がハッキリ録音されていた。

薔薇に「心霊的に」影響するには、作中のような2パターンになりますが、物理で存在すればその限りではありません。

かっこよくいうと、物質界に顕現すればよいのですね。

なので、実体を持つタイプの妖怪や異種族などは普通に見えますし、しゃべれます。既に出てきていますが、彼ら彼女らとの話はまた別の機会に。


また、次の話はかなり不快なものになります。

自分も書いてて嫌でした。

よろしくお願いします。

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