第7話《小さな夢、音にのせて(トモ編)》
音に、言葉はいらなかった。
ひとつの笛の音が、心と心を結び、夢の種を芽吹かせる。
まだ幼いその想いが、いつか世界を照らす光になる――。
草笛遊びが、思いのほか盛り上がっていた。
「トモ、すごいじゃん!音、ちゃんと出てる!」
レトが感心したように言うと、トモは少し照れながらも、うれしそうに笛を吹いた。風に乗って、小さくもきれいな音が庭に広がる。
「ねえアキラ、他にも楽器って作れるの?」
トモがふと聞いてきた。
「楽器か……ちょっとやってみるか」
俺は近くの木の実を拾って、空になった果実の殻に小石を詰める。つる草で口を縛って振れば、即席のマラカスができた。
「これ、振ってごらん」
「わあっ、シャカシャカ鳴る!」
次に、細い竹のような茎を見つけて切り出す。いくつか穴をあけて、息を吹き込めば素朴な音が鳴った。短いけど、笛の代わりにはなる。
最後は、木の枝を削って作った小さなカスタネット。掌に収まるサイズで、叩けばカチカチと響く。
三人で即興演奏がはじまった。
レトはマラカスを振り、俺がカスタネットを刻み、トモは笛を吹く。
そして――
「……ねぇ、アキラ」
演奏がひと段落ついたあと、トモが小さな声で言った。
「ぼく、音の魔法が得意になりたい。まだよくわかんないけど……でも、音ってすごい。楽しいし、みんなが笑うから」
トモの目は、真剣だった。幼いけれど、心の底からの言葉。
「そっか。……いい夢だな」
俺は素直にそう答えた。
「だから、アキラが魔法を使える歳になったら……ぼくの音楽でみんなを楽しませる魔法のステージ、つくってほしいな」
……まるで未来を預けられたような気がした。
俺はまだ、自分の魔法がどんなものかなんて想像もつかない。
けれど――どんな魔法が花開くのか、それはきっとこれからの俺次第なんだろう。
この小さな約束は、そんな未来への第一歩になる気がした。
魔法の世界の住人、魔法が使えず、今これ。
今回の主役は、最年少のトモ。
音に惹かれる幼い彼の感性が、アキラにとっても新しい刺激となりました。
「魔法のステージを作ってほしい」――この無邪気な願いが、アキラの“ものづくり”に新たな意味を与えます。
まだ見ぬ“自分の魔法”を、彼はどんなふうに育てていくのでしょうか。
静かな音の回に、未来の大きな兆しを込めて。
次回も、どうぞお楽しみに。