第6話《ちいさな音、ちいさな心(トモ編)》
笑い合える誰かができた日。
だけど、その輪の外から見ていた“もうひとり”がいた。
言葉はなくても、心がそっと伸ばした手に――音が届いた。
レトと遊ぶ時間が増えてきた。
「アキラ、こっちこっち!」
「そんなに走ると転ぶぞー!」
庭にある木の影から影へ、レトは全力で駆けまわっていた。
鬼ごっこでもかくれんぼでも、何でも遊びに変えるエネルギーは尽きることを知らない。
俺もその後を追いながら、気づけば声を上げて笑っていた。
こんなふうに、誰かと一緒に笑ったのはいつぶりだろうか。
ふと、ふり返った時――その視線に気づいた。
少し離れた場所にある洗濯物干し場の陰から、小さな影がこちらをじっと見つめていた。
……トモ、だった。
今日も一言もしゃべらず、物音ひとつ立てないようにそっとしていた最年少の男の子。
でもその目は、どこか――“仲間に入りたい”と語っているように見えた。
俺は足元に落ちていた大きな葉を拾って、指先で器用に裂いて形を整えた。
草笛なんて吹くのは何年ぶりだろう。
「ふぅー……」
ひと吹きすると、葉のすき間からやさしい音が鳴った。
どこか懐かしく、森の鳥の鳴き声のような、不思議な響き。
レトが目を丸くし、「すげぇ!」と拍手する横で、
トモが――小さな足で一歩、また一歩と近づいてきた。
音に引かれるように、顔を上げて、目をまるくしている。
「あれ、トモ? 来る?」
声をかけると、トモは小さくうなずいた。
その姿に、思わず笑みがこぼれた。
ひとつの音が、小さな心を動かしてくれた。
魔法じゃないけど、こういうのも――悪くない。
魔法の世界の住人、魔法が使えず、今これ。
今回は最年少のトモとの“静かなはじまり”です。
アキラの「手の技術」が、言葉に頼らず誰かの心を動かす――。
草笛というシンプルな道具が、ふたりの距離を少しだけ縮めてくれました。
次回は、トモが少しずつ心を開き、音楽とアキラの関係に新たな一歩が生まれます。
ご期待ください。