第5話《手が覚えていたこと》
誰かの夢に触れたとき、
自分の“空白”が、少しだけ動き出した気がした。
心に残った言葉と、あの手の感覚――。
夜の部屋で、俺はひとりベッドに寝転んでいた。
この世界に来てから、初めて落ち着いた時間が流れている気がする。
目を閉じると、今日のことがゆっくりと浮かんできた。
レトの笑顔、回るコマの音、手に残る木の感触。
あのとき――。
気づけば体が動いていた。木の欠けた部分を見て、ちょうどいい枝を選んで、ナイフで削って、形を整えて――。
「なんで、俺……あんなふうに直せたんだ?」
まるで、もともとそのコマの構造を知っていたみたいに。
考えるより前に、手が先に動いていた。
でも、答えはわからない。
思い出そうとしても、まだ名前以外の記憶は戻ってこない。
でも、ひとつだけ確かなのは――あの“手の感覚”は、昔からのものだということ。
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レトのことも、思い出す。
「僕はね、16歳になったら魔法が使えるようになるでしょ? だから冒険者になるのが夢!」
真っ直ぐなその目。未来をまっすぐ語れるって、あんなにもまぶしい。
羨ましいな、って思った。
それに、応援したい。できることなら、見届けたい。
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「アキラが大きくなったら、“おもちゃの魔法工場”つくればいいじゃん!」
あの言葉が、ふっと胸に灯る。
“魔法工場”――子どもらしい夢だけど、どこか心に刺さった。
俺に合う魔法って――なんなんだろう。
まだわからない。でも、探してみたくなった。
だって、俺の“手”は、まだ動く。
魔法の世界の住人、魔法が使えず、今これ。
今回は、静かに心を見つめる“夜のひととき”でした。
レトとの出会いが、アキラに「自分の得意なこと」や「これから」を考えさせるきっかけとなっています。
“ものづくりの手”と“心の空白”が、少しずつつながっていく。
ここから物語は、また次の子どもとの関わりへと進んでいきます。
次回も、どうぞお楽しみに。