第4話《手が動く理由(レト編)》
道具を直すと、こんなに誰かが笑うのか――。
そんな当たり前のことを、この世界で俺は初めて知った。
朝、庭の掃除をしていた俺の前に、レトが駆け寄ってきた。
「ねえアキラ、これ、なおせる?」
小さな木のコマ。軸が折れて、まったく回らない。
レトは孤児院の子どもたちの中でも元気な9歳。
落ち着きがないぶん、どこか人懐っこい雰囲気がある。
「見せて」
手に取った瞬間、指先が自然に動いた。
枝を選び、芯に合う太さを探し、ナイフで削り出す。
軸の角度、バランス、重心――体が覚えてる。
気づけば、修理は終わっていた。
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「……できたよ」
俺が手渡すと、レトは床に置いて指先でそっと回す。
くるくる――
「まわった! すげぇ! すげぇよ、アキラ!」
飛び跳ねながら喜ぶ姿を見て、少し胸があたたかくなった。
魔法も何も使ってない。ただ、手で直しただけ。
でも、目の前に笑顔が生まれていた。
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「アキラってさ、将来なにになるの?」
突然の質問に、手が止まる。
「……まだ決めてない」
「ふーん。僕はね、16歳になったら魔法が使えるようになるでしょ? だから冒険者になるのが夢!」
レトは、まっすぐに言い切った。
「強くなってさ、いろんなとこ旅して、困ってる人を助けるの!」
未来をまっすぐ語れるって、すごい。
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「でもアキラはさ、魔法が使えなくてもなんでも直せるんだから……」
「……?」
「16歳になって、もし魔法が使えるようになったらさ――“おもちゃの魔法工場”つくればいいじゃん!」
「魔法工場?」
「うん! ぜんぶアキラが直して、魔法も使えて、みんな笑顔になるやつ!」
子どもらしい夢の中に、どこか本質が混ざっていた。
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――魔法の工場。
冗談みたいな話。だけど、心のどこかで響いていた。
この手でできること。
自分の“好き”だったもの。
――もう一度、ちゃんと向き合ってみるか。
魔法の世界の住人、魔法が使えず、今これ。
今回は、最初に心を開いたレトとのエピソードでした。
小さなコマを直したことで、
アキラが「自分の手」に向き合うきっかけになった回です。
無邪気な子どもの言葉には、ときに魔法より強い力がある――
そんな気づきが、少しずつアキラの世界を広げていきます。
次回はまた別の子どもとの出会い。
手から、心へ。ゆっくりと繋がっていきます。
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