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第2話《知らない名前と、知らない毎日》

「アキラ」と名乗ったはいいが、俺は何者なのか、どこから来たのか――わからない。


ただ、手は動いた。

目の前の世界に馴染めずとも、なぜか“作る”ことだけはできる気がした。


そんな俺を迎えてくれたのは、小さな孤児院。

ちょっと騒がしくて、少し懐かしい、そんな場所だった。


あたたかなスープの匂いが、どこか懐かしく感じられた。


 石造りの家。小さな中庭。木製の窓枠に、手縫いのカーテン。

 誰かが確かに“手”をかけて作った、そんな家だった。


「ここが“聖ルシアの家”よ。あなたが気に入ってくれるといいけど」


 やわらかい声でそう言ったのは、シスター・エルナ。

 あの日、街の木の下で声をかけてくれた女性だ。


 彼女の手に導かれ、俺はこの家に迎え入れられた。



 朝はパンとスープ。昼は作業。夕方は少し遊んで、夜は早く寝る。

 子どもたちは、規則正しく、元気に暮らしていた。


「みんな、アキラにちゃんと挨拶してね」


 食後、エルナの言葉に、子どもたちが順番に並んだ。


「ミラ。あんた、変なやつじゃないといいけど」

 11歳くらいの女の子。腕を組んで、ジロっと睨んでくる。


「レトー! あ、これね、さっき壊れたおもちゃ!」

 9歳の男の子が笑いながら、歯の欠けた木の車を持ってきた。


「私はカヤ。裁縫が好き。えっと、よろしくね」

 12歳くらいの静かな女の子。俺の服のほつれを見て、そっと袖を直してくれた。


「……トモ、です」

 7歳の内気な男の子が、俺の後ろに隠れながらも挨拶してくれる。


「ジール。13歳。ま、仲良くしようぜ。……別に期待してないけどな」

 一番年長らしい少年は、斜に構えつつも、どこか目が優しい。


 みんな、それぞれに癖はあるけど、悪いやつじゃない――気がした。



 俺はというと、いまだに何も思い出せない。

 でも、食べて、眠って、話して。

 こうして日々が流れていくのなら、しばらくはここで生きてみようと思った。



「ここでは、13になったら“魔力量”の測定をして、

 その結果で近くの中等部に通うの。16になったら《儀式》があるわ」


 エルナが話してくれた。


「みんな、いずれは自分の力で生きていくために出ていくの。

 それまでここで学んで、遊んで、力を蓄えるのよ」


 そういうものなのか……と、俺は小さくうなずいた。


 他の誰とも違う“自分”を持て余しながらも、

 この家の温もりに、少しずつ体を預けていった。


 魔法の世界の住人、魔法が使えず、今これ。


違和感を抱えたまま、それでも“居場所”を与えてくれるこの家と仲間たち。

アキラにとって、ここは最初の“組み上げ直し”の場所になるかもしれない。


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