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07 赤い淑女たち

 私は本当に久しぶりに、王城の大広間で開催される夜会へと出席することになった。


 光り輝くきらびやかなシャンデリア、そして、貴婦人たちが身に纏う色鮮やかな色彩の華やかなドレス。


 その中に、異質な赤一色を見つけて、私は視線を留めた。


 あれが、赤い淑女たち(レッドドレスレイディ)……去年の『令嬢ランキング』序列五位以内のご令嬢しか許されない、赤一色のドレスを着ているのね。


 その姿をひと目見ただけで、彼女たちが昨年の勝者だとわかるようになっていた。人目を引いて目立つ赤いドレスだけど、彼女たちはそれぞれに色合いが異なっていた。


 五人は流石、序列五位以内を勝ち取る貴族令嬢だけあって、美しく気品に溢れ、そして、なによりも自信に満ちていた。


 ……本当ね。彼女たちから結婚を申し込まれれば、誰が断るというのかしら。


 エドワードに求婚したという、サマヴィル伯爵令嬢アイリーン様は、深紅の色味だった。彼女の落ち着いた雰囲気に合っていて、赤は派手に見られがちな色だけど毒々しさはなく、ただ上品だった。


 ああ……アイリーン様は本当に素敵だわ。エドワードの隣に居ても、何の遜色もない。


 私は自分が現在着ているドレスに視線を向けて、なんだか嫌な気持ちになった。


 こうして比較すると、あの時のご令嬢たちから野暮ったいと笑われてしまった、その理由が良くわかってしまう。


 ひと世代前の令嬢である、お母様の趣味で選んでいるから流行遅れの形で、飾りだけは華やかだけど、それがより古くさく思えてしまうのだ。


 ……ううん。ちゃんと彼女たちと、今の自分の違いを見なくては……たとえ今は背中が見えないくらいに遠くに思えても、私だって決して近づけないという訳ではないのだから。


 今ここに居る自分だって、何もかも過去の私が間接的に選んでいた。お母様がデザインを選んでくれたドレスを着て、メイドがああでもないこうでもないと懸命に決めてくれた髪型に化粧。


 私の趣味ではないことは確かだけど、何もしなかったし希望しなかったという面では、過去の私が今の自分の外見を選んでいた。


 そんな自分が、好きだったかと聞かれたら……好きにはなれない。


 赤一色のドレスを着た彼女たちに、男性たちが近付いた。おそらく、彼女たちが求婚した相手なのだろうと思う。


 あら……エドワードは、何故か居ないようだ。アイリーン様だけが一人取り残されて、他の四人はダンスフロアで踊っている。


 エドワードは多忙だから、今夜の夜会には出られなかったのかもしれない。


 ……来年は私が赤いドレスを着ていたい。そして、エドワード以上の男性とここで踊るのよ。


「……リゼル。夜会の会場に居るなんて、珍しいわね」


「まあ。キャスティン! 久しぶりね。最近会えなかったから、寂しかったわ」


 背後から声を掛けられて、振り向いた私は驚いた。小柄なキャスティンは赤髪に黒い瞳を持つマクダウェル男爵令嬢で、私の数少ない趣味友達なのだ。


 私の場合、ただ作るのが楽しいので編みぐるみを大量に生産していたら、フォーセット男爵家に飾る場所がなくなってしまった。


 置き場所に困ったお母様から慈善院のバザーで売って売り上げを寄付することを提案されて、そこで手伝いに来ていたキャスティンと知り合い、彼女に編みぐるみの作り方を教えることになった。


 今では私と珍しい毛糸の話を付き合ってくれる、良い友人だった。


「こういった社交の場が嫌いなリゼルが、お洒落して夜会に出て来るなんて、明日の朝はお日様が反対の方角から出て来るのではないかしら」


 キャスティンが驚いたとしても、無理はない。私は彼女がどれだけ誘ってくれたとしても、これまでにお茶会にも夜会にも出て来ることはなかったからだ。


「そうなの。実は私……『令嬢ランキング』に参加しようと思っているのよ」


 声を潜めて言った言葉に、キャスティンは目を見開いて驚いていた。


「まあ! リゼル……そうなの」


 私はこの時に、少しだけ緊張していた。


 キャスティンからこんな私が出ても無駄に終わってしまうだろうし、止めた方が良いと言い出すかもしれないと、悪い想像をしてしまったからだ。


「私には、出来ないことだわ。凄いわ。リゼル。応援するから、頑張ってね」


「キャスティン……本当にありがとう」


 この時の私はホッと安心したけれど、少しだけ罪悪感も湧いた。


 キャスティンは慈善院に来て、子どもと遊ぶことを厭わない心優しいご令嬢なのに、そんな彼女の真心を疑うような自分を恥ずかしく思ってしまった。


「けれど、私は友人としての忠告をするわ。リゼル」


 真面目な表情で人差し指を立てたキャスティンに、私は身構えた。


「え。キャスティン? 何かしら」


 友人としてという前置きがあるならば、少々手厳しいことを言われてしまうだろうと考えられる。


「この、大きな眼鏡は外した方が良いわ。もちろん私だって、歴史ある『令嬢ランキング』が、容姿だけで勝ち抜ける訳ではないと理解しているわ。けれど、外見は少しでも良く見えた方が有利だと思うの」


「あ。この眼鏡を?」


 私は咄嗟に掛けていた眼鏡を触り、キャスティンはにっこり笑って頷いた。


「なんでも、王都にある魔法屋に、変わった珍しい魔法を扱う魔法使いがいるそうで、視力を良くしてしまうことも可能だそうよ。魔法屋は高価だとは聞くけれど、行ってみる価値はあるのではないかしら」


 既に悪くなってしまった視力に関しては、治癒魔法の範囲外になってしまうらしい。だから、視力を良くして貰える魔法屋なんて、確かに珍しい。


「ええ。ありがとう。キャスティン……魔法屋に行ってみることにするわ」


 私の視力は深夜に渡る読書や勉強によってかなり落ちてしまっていて、分厚いレンズの入ったこの眼鏡を外せるのなら、日常生活が楽にもなる。


 外見を少しでも良くするだけでもなく、私のためを思ってくれた提案だと思った。素直に頷いた私を見て、キャスティンは優しく微笑んだ。


「なんだか、変わったわ。リゼル。この前までの貴女は、たとえ黙っていても、このままで変わりたくないと叫んでいるような気がしていたから……これも言おう言おうと思って居たけれど、これまでは言えなかったの」


「それは誤解よ。キャスティン。変わる必要がないって、ただ誤解していただけで、必要が出て来たものだから……」


 エドワードと幼い頃に交わしたはずの結婚の約束は、親しい彼女にもまだしていなくて、『令嬢ランキング』に出ようと思った経緯を話せない私は苦笑いをして言葉を濁すしかなかった。


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