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34 手つなぎ

 エドワードはまずは歩きながら買い物を楽しもうと、私たち二人はレニア王国の王都にある大通りにやって来た。


「……わあ。素敵。可愛らしいお店ね」


 とある宝石商を通りがかった時に、私は大きな窓に飾られていた、ペンダントに目を留めた。それは、中心に大きな宝石が填め込まれていて、心が引き込まれるように美しい赤だった。


「見てみる? リゼルが……気に入ったのなら、直接見てみよう」


「ええ」


 エドワードに促されて、私たちは店へと入った。彼が頼んで先ほど私が気になったペンダントを、店員が盆の上へと出してくれた。


「まあ……素敵ね」


「こちらには、色違いもございますよ。青色になります」


 私の気に入った様子を見て気を利かせてくれた店員が、比較しやすいように色違いの青のペンダントを隣に置いてくれた。


「こちらも、とても美しいわ。取り巻いている小さな宝石たちも、中心部の宝石に合うように、すべて色を計算されているのね」


 彫金職人の腕がとても良いのか、きらめく宝石は大きいけれど、決して下品には見えなかった。


「……リゼル。どちらが良いかい?」


「赤……かしら。これならば、私の髪色に合いそうだし、赤いドレスにも合いそうだわ」


 目の前にある青はかなり濃い色で、私の髪色には、青は青でももっと薄い方が似合うだろう。それに、来年はことある毎に私は赤一色のドレスを着用することになる。


 『令嬢ランキング』の勝者、赤い淑女たち(レッドドレスレイディ)として。


 もし、そうならば赤色のペンダントの方が良いとエドワードに言えば、彼は嬉しそうに微笑んで、それを購入してくれた。


 エドワードがグレイグ公爵家の者であることは宝石商も知っているようで、支払いは後日届けるという話はすぐに付いた。


「素敵な宝石を……ありがとう。エドワード。大事にするわ」


 私は今着用している外出用のドレスに付けても違和感がなかったので、そのまま付けて店を出た。


「どうしたしまして。リゼルが宝石の好みをはっきり口にするなんて、まるで嘘のように思えるよ」


 エドワードは少々揶揄うように言い、苦笑いした私だってその通りだと思った。


 あの時は毛糸の好みならば、言っていたかもしれない。けれど、自らが身につける物に興味が出てきたのは最近になってからなのだ。


「そうね。私ったら……お洒落に目覚めたと言ったらおかしいかもしれないけれど、あの時はなんでも良いと思っていたけれど、今はドレスを選ぶのもとても楽しいわ。もっと早くに気がついていたら良かったわ」


「……けど、今だからこそ、楽しめるかもしれないよ。リゼル。今では君はもう既に社交デビューも終えて、立派な淑女(レディ)だけど、デビュー前では選べるものが変わる。それに、結婚すれば既婚者らしく装う必要性もある。今で良かったんだよ」


「そうかしら……そうかもしれないわね」


 納得した様子を見て微笑んだエドワードは、これまでに私に無理を言ったことはない。だからこそ、これまで私だって、好き勝手に過ごして訳で……。


 優しすぎる恋人というのは、考え物なのかもしれない。優しくないのも、それはそれで嫌だろうけれど。


「……そういえば、リゼル。少し相談があるんだけど」


 そろそろ移動しようと馬車に戻って来た時に、エドワードは深刻そうに言った。


 ……何かしら。未だかつてないくらいに、真剣な表情だけれど。


「え? ええ。何かしら」


「僕たちは誤解も解けて、そろそろ結婚の準備を……というところだけど、王太子殿下の即位などで色々とあってね。一旦、距離を置きたいんだ」


 エドワードはじっと、私の目を見つめていた。その眼差しは真っ直ぐで、嘘をついているようになんて全く見えない。


 それにこれまでにエドワードが私にしてくれたこと、それを考えれば、彼の言葉を疑うなんてあり得ない。


「ええ。もちろん。良いわよ。私にだって……やりたいことが、たくさんあるもの」


 それは、本心だった。エドワードと一緒に居られないと思うと、寂しい気持ちにはなるけれど、ここで我が儘を言って困らせたくはなかった。


 私が笑顔で頷けば、いきなり背後からぴょんっと白いイタチが現れた。


「合格ー!!」


 シルヴァンはそう言って、座面をぴょんぴょんと飛び跳ね、エドワードの肩へと上った。


「え? ……何かしら。どういう意味なの?」


 私は何が起こったのか、全く理解出来ずに戸惑った。けれど、シルヴァンは嬉しそうな顔をしているしエドワードはほっとした顔をしている。


「これならまあ、合格だね。どうなることかと思ったけれど、良かったね。エドワード」


「ごめん。リゼル。黙っていたんだけど、すべてこれは試練だったんだ。僕はヒントも与えられなくて……」


 エドワードは苦笑して、そう言った。


 先ほど、シルヴァンが言った『合格』という言葉に、エドワードの安心した様子。


「……あの、もしかして……試されるって、この事なの?」


 私は恐る恐る、そう聞いた。想像していたのは、もっともっと難しくて、何度も何度も挑戦しても無理そうな課題を課せられると思っていた。


 けれど、これは……簡単過ぎない?


「何を言っているの。数ヶ月前の君なら、迎えに来た時点で何も言えないから、すぐに不合格が出て居たよ。エドワードも言葉足らずな面があるから、そんな彼と幸せになるには自分から行動出来る子でないとね」


 得意げなシルヴァンは髭をそびやかして、そう言った。


「……それもそうね。けど、シルヴァンの試練に合格出来て……良かったわ」


 これでエドワードと結婚することも出来るし、触れることだって許される。


 私が無言のまま彼に手を伸ばせば、微笑んだエドワードはその手を取り、私たちは手を固く握り合った。



Fin



私の作品、看板勇者が『つぎラノ2024』にノミネートされております。良かったら活動報告、もしくはページ下部ご覧くださいませ!


お読み頂きありがとうございました。

もし良かったら、最後に評価していただけましたら嬉しいです。


また、別の作品でもお会いできたら嬉しいです。


待鳥園子

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