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32 縁談

 私たちフォーセット男爵家兄妹は、朝食を食べ終わり、共にお茶を飲んでいた。


「良いか。リゼル。我が妹ながらこれまで甘やかして育ててしまったが、本来なら公爵家にお嫁に行くなど望めるような身分でもない。これからは礼儀作法などに身を入れてこなさないと、夫になるエドワードだけではなく、お前が恥をかくことになるんだ」


 これは実は私が再三、兄スチュワートに言われ続けて来た言葉だ。


 以前だったら『お兄様には、関係ないのに』と面白くない気持ちになり終わってしまっていたけれど、今の私は違う。


 彼の言い分は全く以て、その通りだと思うし、なんなら一から礼儀作法を習ったり社交に詳しい人を教師に迎えて貰いたいと考えるくらいだった。


 何かに本気で挑戦して、望むものではないけれど、確たるものを得られたという満足感からだろうか……兄が言わんとしていることに対し、驚くほど、すんなりと納得することが出来た。


 『品格』の審査での結果が、振るわなかったこともそうなのかもしれない。自分で思っていたよりも順位が低くて悔しかったし、足りない部分があるならば、それを補おうと思っていた。


 これまでの出来事を通して、少しは成長出来たのだと思う。


「……わかったわ。お兄様。私だって今ではそういう理屈を、ちゃんと理解出来ています。お父様が帰ってきたら、家庭教師を雇って貰うようにお願いしてみるわ」


 これまでとは違い反抗することなく私が受け入れれば、兄はまじまじとこちらを見て、何度が頷いていた。


「なんだか、変わったなあ……リゼル。別人にでもなったようだ」


 それはそうなのかもしれない。成長前の私と、成長後の私。変わったと言われれば、きっとそうなのだけど。


「いいえ。お兄様……私には、きっと、経験が足りなかっただけなのよ。外に行くことを恐れて邸の中に居れば、辛いことも起こらないけれど、嬉しいことだってなかったわ。今ではもうそれに慣れて、恐れる気持ちも心の中の折り合いを付けることも出来るようになった……誰かと争うことだって、そうよ。以前の私なら『令嬢ランキング』に参加したいなんて、絶対に思わなかったはずよ」


 何の無理も求めない優しいエドワードと結婚して、私は何をしなくても幸せになるんだと思って居た。


 けれど、今では色々と勘違いしてしまった事も良かったかもしれないと思うようになっていた。


 『令嬢ランキング』では思うような結果は出せなかったけれど、友人のキャスティンとは一度喧嘩して仲直りしてしまえば、彼女との友情はより深まった。


 それに、外出することも避けていたというのに、今ではお洒落を楽しみ、だからこそ、外に出るようになっていた。社交のためのお茶会も、新しいドレスや髪型を披露する場だと思えば、楽しむことも出来る。


 嫌だ嫌だと避け続けていた出来事と向き合うことで、良い変化を得たと思える。


「そうか……リゼルは大人になったし、僕も婚約者を探さねばいけないな……お前ら二人が色々とあって、僕も独り身でここまで来てしまった」


 スチュワートお兄様は私とエドワードの間に挟まれて、長い間やきもきしていたと言えばそうだろう。


 申し訳なく思う。親友と妹の橋渡しなんて、難しい役回りだったと思うし。


「そうね……あら」


 執事がつかつかとお兄様の元へ歩み寄って、盆に載せた手紙を差し出した。


「……僕に、手紙? なんだろうか」


 スチュワートお兄様は交友関係は狭い訳ではないのだけど、仕事で多忙なために浅い付き合いが多いようだ。


 だから、急ぎの手紙というと、外国に居る父か母に何かあったのかもしれない。


「お兄様? もしかして、お父様から?」


 手紙を開き黙ったままで、動きが固まってしまったスチュワートお兄様に声を掛けた。


 ……嫌な予感がした。もしかしたら……。


「……リゼル。シャーリー・ブロア伯爵令嬢が、僕に結婚を申し込みたいとあるのだが」


「あら! シャーリー様がお兄様に? ……そうなの。とっても驚いたけれど……良かったわ」


 別に家族に何かあったという訳ではなさそうだったので、私はほっと安心して息を吐いた。


「いや、良くないだろう……第二王子レヴィン殿下に断られたからって、何故僕なんだ! 将来は学者の血筋を継いで、男爵になる男だぞ!」


 スチュワートお兄様は、目に見えて顔を青くしていた。


 自由な気質で知られる第二王子が断る分には『あの人なら仕方ない』で済むかも知れないけれど、伯爵令嬢から未来の男爵が結婚を申し込まれれば、通常の場合でも断りづらいかもしれない。


「……気は強いところはあるけれど、『令嬢ランキング』首位になる方なのよ。優秀だし美しいし、きっと素敵な男爵夫人になられると思うわ」


 私は素直にそう思った。


 シャーリー様は私にはレヴィンの事もあり、嫌な態度を取ったこともあっただろうけれど、それはそれで素直な性格を表していて良い事なのではないだろうか。


「いやいやいや……リゼル。お前、これは断れないぞ……」


 フォーセット男爵家の今後の事を思えば、ここで断れないと思う。そもそも身分の高い男性に求婚するための『令嬢ランキング』


「そうね。お兄様。私はこれで、良かったと思うわ。さっきだって、探さなければと言っていたけれど、向こうから来てくれたわ」


「お前……面白がっているだろう」


「まあ、そんなことないわよ」


 私が澄ました表情でお茶を口に付ければ、どんな返事をするべきかと悩む兄が頭を抱えていた。




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