30 発表
そして、いよいよ『令嬢ランキング』の発表のある運命の日が来た。
私のこれまでの成績は『知性』が首位、そして、『美貌』が二位だった。ということは、今日の『品性』の結果が良ければ、序列五位に入れる可能性はかなり高いということだ。
城の大広間の会場に勢揃いした『令嬢ランキング』参加者たち。少々数が減っているのはきっと、
開会式と少し違うのは多くの観客ありなので、私たちは壇上に上がり、彼らを見下ろす形となっていた。
来年を象徴する主役ともなる五人の令嬢が選ばれる日なので、観客たちの目の中にはうきうきとした興奮が見えた。
以前の私なら、こうした人前に立つことには慣れていず、どうにかして逃げようとしていたはずだ。
けれど、人前に出る機会の数をこなして、今ではもう……慣れてしまっていた。不思議なものだ。ほんの二月前のことなのに、何年も昔の出来事のように思えるのだ。
「……それでは、『品格』の審査の順位、発表になります!」
私はコクりと喉を鳴らして、赤い幕が開いた中に貼られた紙を確認した。
10位 リゼル・フォーセット
正直に言うと、自分の隣にある数字を見て落胆してしまった。予想とは違いかなり低かったからだ。
これまでの順位は奇跡的に良くて、もしかしたらと期待してしまっていた。
……けれど、今思えば、それも当然のことなのかもしれない。これまでほとんど邸から出ずに、人ともあまり会うことがなかった。
そうすれば洗練された所作とは言い難く、幼い頃から努力していたご令嬢たちが礼儀作法に社交にと頑張っている間、私は何もしていなかった。敵わなくて当然だ。
むしろ、それにしては良い順位だと、言えるのかもしれない。
審査員に一朝一夕では身につかぬ付け焼き刃の礼儀作法は見抜かれていて、けれど、10位になれたということは、努力する姿勢は認めてくれたのかもしれない。
この順位を見れば悔しかったけれど、なんでそうなってしまったかという原因が何かがわかれば、すんなり受け入れてしまうしかない。
今までの私が選んだことの……結果だった。
……けれど、だからと言って後悔したくはなかった。国民投票であれだけ高い順位にあれたのは、趣味の編みぐるみによるところが大きかったし、それはこれまでの私の頑張りによるものだって言える。
そして、総合順位はなんと、驚くことに五位に私の名前があった。
序列五位というと、求婚権を得ることが出来たのだ。私はほっとしてエドワードの居る方向を見た。
彼は王太子の傍付だから同じ壇上に居て、目が合うと嬉しそうに微笑んでいた。
良かった! 目標だった首位になることは出来なかったけれど、これで目的を果たすことは出来そう。
すぐ近くには第二王子レヴィンが居て、王太子と彼の容姿は良く似ていた。私が王太子殿下に求婚すると言ったことを、あの時に笑った理由が良くわかるような気がする。
……今の私に出せる全力が出せて、本当に良かったと思う。今思うと楽しかったし、エドワードとの誤解があって苦しかったことも確かだけれど、それでも『令嬢ランキング』に参加して良かった。
ちなみに今年の首位はなんと、シャーリー・ブロア伯爵令嬢だった!
シャーリー様はこれまで良い成績だったし、上位陣には順位のバラつきがあって、彼女が『品格』の首位であったのだ。
となると、この後の展開は容易に想像出来る。
シャーリー様は観客達からの歓声に笑顔で手を振り応えつつ、座っていたレヴィンの前へと進み出た。周囲はざわめき、シャーリー様は第二王子レヴィンに求婚しようとしている。
『令嬢ランキング』の閉会式では、それは割とあるようなことらしいし、皆驚いてはいなかった。そのために参加していると言っても過言ではない。
……けれど、王族に求婚したご令嬢は、『令嬢ランキング』の歴史長しと言っても、少ないかもしれない。
それも、こんな公衆の面前で求婚するなんて、異例の事態かもしれない。
彼女は跪き、祈るようにして両手を汲んだ。
「……レヴィン・ラドフォード殿下。どうか、私の求婚をお受けいただきたいのです」
「無理」
一瞬、水を打ったかのように会場は静かになった。
レヴィンは以前、断られたことがなかったことが結果的になかったことになっているから、求婚を断られないという話になっていると言っていたけれど……これは、隠しようも誤魔化しようもないかもしれない。
「俺……嫌がらせをするような女の子は、嫌いなんだよね。あ。ごめん……あまり好きではないんだよね」
言い直したからって同じ意味なのだけど、そう言ってレヴィンは爽やかに微笑み、シャーリー様はショックで横に倒れてしまった。
令嬢たちの高い悲鳴は響き渡り、近くに居た私も慌ててシャーリー様に駆け寄った。
「……レヴィン」
「いや……俺が求婚したって、先方にも断る権利があるんだから、男女関係なく求婚するという目的を掲げるんなら、そういう事になると思うんだよね……政略結婚でもないのに、好きでもない人と結婚したくないよ」
王太子の窘めるような声が響き、レヴィンは言い訳するように言った。
瞬く間に観客たちも悲鳴をあげて、失神したシャーリー様を担ぎ出す面々などで、辺りは騒然としていた。




