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27 山車

 そして、いよいよ国民投票が行われる祝祭の日はやって来た。


 国民投票は『令嬢ランキング』参加者たちが昼頃、山車に乗って王都を回ってからになる。けれど、ここで上位を取れていれば、上位になれるにはかなり可能性があるのかもしれない。


 私が迷っていた時にエドワードが『これが良い』と言ってくれた可愛らしいピンク色のドレスを誂えて、それを着ることになった。


 可愛くてふわふわとしていて、まるでドレス自体が下を向いた花のようだった。


 髪型もエドワードの指定で、前髪と横髪を巻き下ろしして、後ろをアップにしているから、これまでのようにシンプルな髪型でないから、緊張して居心地が悪い。


「こんにちは……リゼル。良く似合うよ」


 ノックをして入って来たエドワードがそう言ってくれて、私は微笑んだ。


 やっぱり、私はどうしてもエドワードには絶対に褒めて貰いたかったし、それを彼はちゃんと叶えてくれた。


「ありがとう……エドワード。これまで着たことない感じだから不安だけど……そう言ってくれて、安心出来たわ」


 エドワードは何を言い出すのかと、言わんばかりに顔を顰めて言った。


「……あのね。リゼルは可愛い系の方が、絶対に似合うから。元々持っている雰囲気がアイリーンとは正反対で全然違うんだよ。だから、これまでにも僕はずっと言っていたんだ。リゼルは可愛いのに、似合わない大人っぽいドレスを着ているから」


「だから、似合わないって言っていたのね。意地悪かと思っていたわ」


「ずいぶんとひどい事を言うね。そんな訳はないのに」


「……ありがとう。エドワード」


 苦笑した私は自分でも服を選ぶセンスはないと思うけれど、エドワードはセンスが良く着ている服もお洒落だし、そんな彼にこうして褒めて貰えるならば、この格好は間違いないだろうという確信は持てた。


 今日は数え切れないほどの目に晒されることになるし、それでも大丈夫だろうと思える。


 エドワードの言葉は魔法のよう。私にとっては、自信や嬉しさをくれる魔法使いだった。


「行こう。リゼル。君なら、きっと上位になれるよ。僕だって景品を出資した手前、勝ってもらわないとね」


 冗談めかしてそう言ったエドワードは、我が家の後援者だから出資することは同じことだし、この程度ならは良いだろうと景品だって、すべて用意してくれた。


「……うん。頑張る。せっかくだから、後悔ないようにしたい。自分でやると、決めたことだから」


 無言で頷き差し出してくれたエドワードの手を握って、私は扉を出た。


 ほんの少し前の私なら、絶対に参加しなかった。だって、人前に出るなんてやりたくないし、これまでに誰かと争うなんて考えたこともない。


 それは今思うと暴走だったかもしれないけれど、私は自分の意志で一歩前に踏み出した。


 あの時には、もう決して戻れないだろうけれど、別に後悔はなかった。


 ……戻らない。


 外の世界には嫌なこともあるけれど、楽しいことの方が多いって知ってしまったから。



◇◆◇



 私は三番目の山車に乗って、王都を練り歩いた。


 山車の中には季節の花々がこれでもかと乗せられていて、それと共に私は小さな編みぐるみを投げた。


 小さな子どもたちもこぞってそれを拾いに来てくれたけれど、若い女性にも拾われていて、その首に巻かれていた紙を解いて歓声をあげている。


 あのくじには賞の名前と、景品交換所の場所が書かれていて、それを知った人たちは私の山車を追い掛けてくるようになった。私が笑顔で投げると彼らも笑顔になり、喜んで手を振ってくれていた。


 人気投票……というと、おかしいかもしれないけれど、『美貌』の審査も、そういうことなのかもしれない。


 生まれつきどんなに整った顔を持っていても、愛嬌がなければ人に好かれないだろうし、大衆の見る目は厳しいから知恵を絞らなければ人気は出ない。


 産まれ持った美貌だけではいけない、こんな風に自分に投票を呼びかけるのであれば、それだけの努力が必要だということではないだろうか。


 そして、私は花と編みぐるみを合わせて撒いてはいたものの、くじが首に巻かれていると知った人たちが群がり始めた。


 そうなってしまえば、力では大人には敵わない子どもたちには行き届かない。編みぐるみが我も我もと狙う大人に奪われてしまって、子どもが手にする機会が減ってしまった。


 ……私が投げる力では、彼らの元まで届かないのだ。


「どうしようかしら……欲しがってくれる、子どもにも配ってあげたいわ」


 その時に、かすかに耳に誰かが私を呼んだように思えた。なんだか不思議に思って、高い建物を見上げると、そこには白猫の仮面を被ったレヴィンが立って居た。


 背の高い男性であるだけなら彼だとはわからないと思うけれど、猫の仮面を被って町中に居る人はそうそう居ない。


 今思えば新年や折々の機会にバルコニーで挨拶をして、顔を見知った国民も多いだろうから、それを避けるためにそうしていたのだろう。


 私の周囲には風がふんわりと巻き起こり、編みぐるみは不思議な力で浮き上がった。


 あの……レヴィンが持つ加護は確か、風の神様!


 それから、私の投げる編みぐるみは不思議な力で、私が届きたい場所にまで届いた。


 ……凄い。加護を持っているって、こういう事なんだ。


 私が感動して彼を見上げると、もうそこにはレヴィンの姿はなかった。

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