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18 決定的な言葉

「あの……助けてくれて、ありがとう。エドワード」


 令嬢の輪に囲まれて動けなかった私を救い出してくれたのは、珍しく前髪すべてを後ろに撫で付けて凜々しくも素敵な夜会服姿のエドワードだった。


 彼は今、私の手を取りエスコートしてくれているのだけど、その目を見られなくて緊張していた。


 悪いことをしていると思って居た。だから、真っ直ぐに目を見られない。


 社交界デビューの時は、身内である兄スチュワートにエスコートして貰ったし、エドワードにエスコートしてもらうのは、これが初めてだった。


 後ろへと撫で付けられた黒髪は、いつもは前髪が下ろされて見えないはずの形の良い額が覗いていて、私は胸が痛くして、息がしづらくて……そんな訳にもいかないけど、走って逃げ出したいような、そんな気分だった。


「いいえ。どういたしまして。単純な嫌がらせだったけど、あれはなかなか抜けられないね。特に、今のリゼルには」


 エドワードはこれまで避け続けていた私を責めるでもなく、さらりと軽く答えて私たちは共に会場へと入った。


 華やかな夜会は、今にも始まらんとしていた。参加者であろう服務規程(ドレスコード)通りの貴族令嬢たちも、ちらほらと見掛けた。


 そして、そんな中にも私の事を罠に掛けた例のご令嬢が見えたけれど、彼女は無反応のままそそくさと私の視線から逃げていた。


 それだけ、自分が悪いことをしたという自覚があるということね。


 けれど、ここで彼女を捕らえて責めたところで、それはそれで『品格』の点数が悪くなりそうだし、今夜はそつなく夜会を楽しむことに決めた。


 きっと、どこかに試験官は居て、私たちの行動に目を光らせているだろうから。


 その時にちょうど開会の声が響いて、私は間に合ったのだとホッと安心した。隣に居るエドワードを見れば、彼も優しい目つきで私を見つめていた。


 驚いて明後日の方向に目を逸らした私の手を取って、彼は跪いてこう言った。


「もし、よろしければ、僕と踊っていただけますか。フォーセット男爵令嬢」


 美しく輝く黒い目と目が合った。こんな風にエドワードにダンスを申し込まれたのなら、断れるはずもない。


「……喜んで」


 声は震えていたけれど、短い言葉だったから、エドワードにはわからないはず。出来れば、わからないで居て欲しい。


「ありがたき幸せ」


 立ち上がったエドワードは微笑んで、胸に手を当てた。


 そういえば、こんな風にエドワードと親しく話すなんて、いつ振りだろう。


 ああ……兄に彼が求婚されたと聞いてからだった。胸の中にはもやもやとした気持ちがわき上がり、さきほどまでのときめきに満ちた心の中がかげった。


 いいえ。エドワードの話を聞くと決めたのだから……これは、はっきりさせないといけない。


 二人で向かい合って礼をして踊り出せば、エドワードは私の腰に手を当てて微笑んだ。


「そろそろ、僕の話を聞いてくれ。リゼル」


「何をっ……」


 反射的に逃げてしまいそうになったけれど、腰に手を当てられて、片手はぎゅっと握られて取られている。


 こんな体勢でダンス中は、エドワードから逃げられない。ここまで私が彼から何度も逃げ続けていたから、エドワードだって考えたのだろう。


 どうやったら、私が簡単に逃げられないのかを。


「それに、今は『品格』の試験中なのだから、ダンス中に騒げば、点が悪くなるよ」


 エドワードが耳元に囁いた通りなのだけど、往生際悪く逃げだそうとしたものの、ここに来る前から既に覚悟を決めていた私は、大きく息をついて言った。


「……私はもう、逃げないわ。エドワード。私に話って何なのかしら?」


 これまで逃げ続けていた事に挑むようにして、私はエドワードを見た。エドワードだって目を逸らさなかった。


 真っ直ぐにふたつの視線はぶつかり、そして、エドワードは話し出した。


「これは先に言っておくけど、確かにアイリーンから求婚された……けど、彼女と婚約はしないし、結婚もしない」


 エドワードの顔は、真剣だった。ここで彼が私に嘘を言う理由もない。


 だから、それは本当の事なのだと思う……思うけど。


「え……けど」


 あんなにまですべてが揃った貴族令嬢アイリーン様に求婚されて、エドワードは何が不満なのだろう。私と同じように、エドワードはアイリーン様と結婚するのだろうと思って居た人だって多いはずだ。


 けど、誰もが想像する通りの事態には、ならなかった。


「それって、本当にわからないの? もしかして……わからない振りをしている?」


 エドワードは呆れたようにそう言ってので、私は首を横に振った。


「……本当に、わからない」


 それは、もしかしたら嘘なのかもしれない。けれど、本当はわかっていても、わかろうとしたくない。


 彼から……エドワード自身から、何か決定的な言葉を聞くまでは。


 怖くて、認めたくなくて。


「リゼルは頭が良いのか悪いのか、わからないな。『知性』の試験で、ろくに専用の勉強もせずに軽く一位を取るくせに、こんなにも簡単な事がわからないの?」


「何なの……エドワード。言いたいことがあるなら、はっきり言って欲しい」


 早く言って欲しい。遠回りしないで、エドワードの気持ちを。


「ここまでしているのに、わからないのか。これから僕が言う話を聞かないと、リゼルは一生後悔するぞ」


 胸が最高潮に高鳴っていて、もしかして……とは、思った。


 けれど、まだエドワードは言っていない。私のことが好きだって……そう言っていない。


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