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01 令嬢ランキング

『まあ、なんて時代遅れな古い結婚制度なの! 女性からも結婚相手を選ぶ事の出来る環境を、早急に整えるべきだわ!』


 三代前に異国から迎え入れた王妃が輿入れした際、社交界デビューを終えたうら若き貴族令嬢たちが多くの男性から品定めされる様子を見て眉をひそめ、こう仰ったそうだ。


 王妃は明るく開放的な気質で生まれ育った南国出身で、祖国の上流階級の女性たちは、父親の許しなども必要なく、自ら好きな結婚相手を選ぶことが出来たらしい。


 そして、嫁いだレニア王国は封建制度色濃く、貴族たちは政略結婚により家と家を結び付けるという結婚が多かった。


 しかし、国が違えば辿って来た歴史も、培ってきた常識も違う。長年変わることなく続いて来た結婚制度を急激に改革しても、多くの混乱や軋轢が生まれてしまうだろうことは想像に難くない。


 色々と思惑入り乱れた政略結婚で輿入れすることになった王妃の希望を叶えるかたちで、特別に『令嬢ランキング』制度は創設された。


 一年に一度、年末三ヶ月間で『品格』『知性』『美貌』という三点で参加した令嬢たちは競い合い、上位五名、つまり序列五位以内になった貴族令嬢のみが、自分が結婚したい未婚の王子や貴族令息に求婚する権利を得ることが出来る事となった。


 そして、彼女たちからの求婚は今まで断られた事はない。


 『令嬢ランキング』上位者は、国民にも周知される特別な存在、手の届かない憧れの女性たち。そんな彼女たちに求婚されて、悪い気がする男性が居る訳がない。


 華々しく目立つ存在になる彼女たちに憧れを抱きつつも、ほとんどの貴族令嬢はそれに参加することはなく、旧結婚制度のまま親が選んだ男性と婚約したり、社交界デビュー後に求婚してくれた男性と結婚することになる。


 そう。私だって……そうなるだろう。


 だって、別に飛び抜けて目立ちたくなんてないし、私なんかが多くの貴族令嬢たちを押し除けて、上位になんてなれるはずがないもの。


 それに、序列五位以内の上位者になれる可能性が全くないのならば、厳しい戦いに挑戦する理由もない。


 私は編みぐるみを作るのが大好きで、地味な外見を持つ男爵令嬢リゼル・フォーセット。学者の家系でフォーセット男爵、つまり父は、考古学の識者として世界でも有名だ。


 幼い事から趣味の読書に興じて、父や兄と同じく当たり前のように勉学に励んでいたら、すっかり目を悪くしてしまい、分厚いレンズの入った大きな眼鏡を掛けている。


 明るい金髪と瞳の緑色は、その色味を褒められることはあるけれど、これまでに外見を褒められた事はなかった。


 年頃になってお洒落をしたり、その時々に応じて流行の髪型を変えたりするべきだとはたまに自分でも思う。


 けれど、目立たない存在の私が『頑張っている』ように見えてしまうのが気恥ずかしい気がして、幼い頃から今までずっと地味なままで居る。


 『このままだと求婚者も現れずに、一生独身のままよ』と、たまに親戚筋の女性から苦言を呈されることもあるけれど、貴族令嬢にとって一番の関心事であるはずの結婚については、別に心配していなかった。


 実は、私には『将来大人になったら結婚をしよう』と約束している幼馴染が居た。


 彼の名は、エドワード・グレイグ。学者の血筋フォーセット男爵家を何代も前から後援してくれているグレイグ公爵の後継ぎで、王太子に覚えめでたく、今をときめく貴公子だ。


 長めの黒髪は真っ直ぐでサラサラと風になびき、黒曜石のような瞳は美しく、顔立ちは涼しげで美形。その容姿は彼を見た誰もに、褒めそやされるほどに整っている。


 エドワードは世界中を旅する父の話を聞くのが好きで、幼い頃から良くフォーセット男爵家に出入りをしていた。


 そんな中で、エドワードは二つ年下になる私のことを気に入ってくれて、事あるごとに私の事を連れ回した。


 夏には共にグレイグ公爵家の領地に行き、自然を楽しんだ。そして、大きな草原の中にポツンとあった花畑の上で、エドワードは花冠を作って「リゼルが大人になったら、結婚してください」と私に求婚してくれた。


 その時、私は嬉しかったけれど、口を開けばエドワードへの想いが溢れそうで、何も言えずに頷いた。


 だって、エドワード以上に好きになれる人なんて、十七歳になった今だって見つかっていない。


 エドワードはそれほどに、一目見た時から大好きになる、本当に特別な男の子だった。


 だから、私はその時から将来はエドワードと結婚するんだろうなと思っていたし、そのつもりでこれまで生きて来た。


 エドワードは十をすぎた辺りから、公爵家の跡継ぎとしてより厳しく教育され、ある時から親に反抗してか、言葉遣いが多少荒くなっていた。


 けれど、私が居るフォーセット男爵家には、まるで別宅のように定期的に出入りしていた。彼は異国の書物が集まる図書室がお気に入りで、よく本を読んでいた。


 つまり、お父様が居なくても、同じ歳で仲良しのお兄様が居なくても、エドワードは私に会いに来ていた。


 優しく素直だった幼い彼も可愛かったけれど、反抗的で生意気だった時も過ぎ、今では青年の年齢に達したエドワードは、とてもとても魅力的な男性になっていた。


 偶然、視線が合うだけで胸が痛くなってしまうほどに。


 『もう少し、お洒落したら』や『もっと、外に出たほうが良い』と、大人びたエドワードからからかわれても、私は『必要ないわ』と聞かなかった。


 だって、幼馴染で誰よりも理解してくれているエドワードと結婚するのなら、別に外見なんて磨かなくても良い。社交的な事だって、優秀な彼が代わりにしてくれるだろうと、どこかで慢心していたからだ。


 幼い頃とは違ってエドワードはあまり私のことを可愛いとか、好きだとか、そういう甘い言葉は使わなくなっていた。


 エドワードが結婚の話を出さなかったり、恋愛めいた話を出さないことを、これまでに少しも不安に思わなかったかと言われたら嘘になってしまう。


 人気者なグレイグ公爵令息エドワードの話は、立場上、どうしても出席しなければいけないお茶会でも良く聞いた。


 エドワードには幼馴染である私と結婚の予定があるという話だって、誰も知らなかった。私はエドワードには、あの時の約束をはっきりと確認する勇気も出せずに、彼はいつ求婚してくるのだろうとただぼんやり期待していた。


 だって、別に言葉を使わずとも、幼馴染でお互いのことをよく知る私たちの気持ちは確かに通じ合っているだろうし、将来には何の不安も抱かなかった。


――――兄スチュワートから、エドワードが求婚されたという話を聞くまでは。




新連載です!

ブックマーク評価などいただけますと、とても嬉しいです。

感想も貰えたらありがたいです。


※本日別作品「(総愛され予定の)悪役令嬢は、私利私欲で魔法界滅亡を救いたい!」が中編完結していますので、もし良かったら下部リンクからどうぞ。

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