予防接呪
※雑な注意事項
ゲロって言葉がたくさん出てくる。
呪いっていうのはね、まぁ基本的に魔女や悪魔がかけるものなんだけど。
複数の呪いはかけられないのよ。こう、反発しちゃったりなんかして。一つの呪いにかかってたら、他の呪いはそのまま呪いかけようとした相手に呪い返しみたいになったりするからさ、呪いをかけるにしてもまずその相手の事をきっちり精査しないといけないわけ。
でもさ、逆に言えばだよ?
最初にかる~い呪いにかかってたら、後からの呪いにはまずかからないから。
だからね、皆まず最初に呪いをかけるんだ。
まぁ、ほら。それでも一応呪いだからさ。
相応のデメリットがあったりするわけ。
ある一定の条件下になったら否が応でも発動しちゃうタイプとかは、その条件下にならなきゃ一生問題ないし他の呪いにもかからないし、ってなるんだけど、その条件が合ってしまうと途端に酷い事になるからさ。
もし呪いが発動したとしても、なるべくどうにかなる感じの呪いを選ぶことをお勧めしてるわけ。うちら魔女って。
悪魔がかける呪いに関しては知らない。あいつらその日の気分で生きてるとこあるし。昨日はぼろくそ罵ってた相手が翌日には最愛の運命みたいな事になってたりするからね。情緒おかしい。
まぁ、ほら。年若い悪魔が多いからそういうの。まだ皆バブちゃんなんだよ。もうちょい大人になったら悪魔も大分落ち着いてくるんだけど。
ともあれ悪魔に呪いかけてもらうのはお勧めしないよ。最悪対価に魂要求してくるし。死んだ後の事なんて知るか、って思ってたらとんでもない事になるからね。マジでよく考えて。
で、呪いなんだけど。
貴方この国の出身じゃないからそういうの知らなかったって事でしょ?
で、今知ったよね?
どうする? かけとく?
この国結構あちこち物騒だからさ、ちょっと魔法が使える奴が自分は偉大な魔女だとか魔王だとかのたまいはじめてオリジナルなんちゃって呪いとか作ったりするんだけど、そういうのにかかるとまーホント大変な事になっちゃうからさ。解呪できないわけじゃないんだけど、とにかく面倒でね?
うん、だから一応軽めの呪いを自分にかけといた方が安全かな。
あっ、そうだ。おにーさんそこそこいい男だし、女とかあれでしょ。何か灯りに寄ってくる虫みたいにたかられたりするでしょ?
えっ、婚約者がいる。やっぱりねぇ。それでも群がってくる女がいる、と。
ふぅん。だったらこの呪いとかどうよ?
そうそう魅了魔法にかけられたら発動する呪いなんだけどね。かかったら直後に発動する呪いだから、魅了をかけた相手もタダじゃ済まないと思う。
実際前にこの呪いかけた相手もおにーさんみたいに見た目がべらぼうに良くてさぁ。
うん、その人のケースを知りたい? そっか。どういう風になるかを知っておいたら確かに安心かもね。
その人もおにーさんと同じく女の人に言い寄られまくって大変だったみたい。婚約者のお嬢さんは割と可愛い感じだったよ。ただ、世間一般で見てそこまで華やかな美貌ってわけじゃないからさ。あのお嬢さんと比べたら自分の方が、なんて身の程知らずにも思っちゃう馬鹿が一定数いたわけ。
で、見た目だけで落とせるならそもそももっと簡単な話だったかもしれないけど、相思相愛の相手に見た目だけで挑んだって無駄じゃん? 愛してる相手がいるっつってんのに割り込んでくる空気読めないバカ女とかに惚れるような頭の中身パラリラパーリナイな男だったらそもそも女の方が愛想尽かして破局してると思うの。
お互い、見た目じゃなくて中身とか、今までに積み重ねてきたあれこれで想いあってるっていうのにね。馬鹿はそれがわからないから馬鹿なのよ。
ともあれ、その人に魅了魔法が効かない呪いをかけたのね。頼まれたし。
魅了魔法については知ってる? うんそう。かけたい相手の目を見て魔法を使わないと効果はないんだけどさ。そりゃそうよね、遠隔操作で誰彼構わず魅了できるようになったらそりゃもうそいつ駆除対象でしょ。だっていつどこで誰が魅了にかけられるかわかったもんじゃないもん。ま、そんなやばい奴今まで出てきた事ないけど。
だって魅了魔法って精神感応系の魔法だし。広範囲に使って一度に複数魅了する場合はどうしたって効果が弱まるから一時的なものになるけど、相手を一人に絞って魅了するならかなり強力なのよね。
えぇ、だからほら、何か怪しいなって思った相手とはなるべく目を合わせないようにしなさいって幼い頃に教わるでしょ? 微妙に視線が合ってなかったら効果も半減できるから、そうなれば万一かけられても自力でその呪縛から脱出できるかもしれないからね。ま、かなり精神力が試される事になるけど。
んで、その人に呪いをかけた後よ。
彼には最愛の女性がいるっていうのに空気も人の気持ちも一切読まず考えず彼を手に入れようとした女が、魅了魔法を使ったようなのよね。
え? 魅了魔法って一応誰でも使えるわけじゃなくても、でも使い方は知ろうと思えば知れるけど。魔力効果を高める魔道具とか色々用意すれば実行は可能ね。馬鹿みたいにじゃらじゃらアクセサリーつけてる奴とかもそういう意味では要注意。
それで、魅了魔法を使った直後にその女――ゲロかぶったのよね。
え? そうだよ呪い呪い。
男にかけた呪いは魅了魔法をかけられたら、直後に魔法をかけた相手めがけてゲロリバースが発動する呪いだもの。基本相手の目を見てかける魔法だからさ。そうなると対面じゃん?
男の方が背が高かったのもあって、顔面からゲロ浴びてたよその女。
いや~、折角好きな男落とそうとして見た目もそれなりに気合入れてたってのに、その相手からゲロかけられて台無しになったからね。傍から見れば不幸な事故で可哀そうな気がしなくもないけど、でも魅了魔法なんて使おうとしなきゃゲロぶちまけられなかったのよね。
ちなみに男の近くには友人もその時数名いてね?
男は自分にかけてもらった呪いについてその友人たちに詳細を話してたみたいなの。
その友人たちがその状況を見てどうしたと思う?
「う、うわー! 大変だ! あいつの呪いがまさか発動しちまうなんて!」
「呪いってあいつにかけられてるのは魅了魔法を受けたら即座にゲロる呪いだろ!?」
「えっ!? ってことはつまりあの女魅了魔法を!?」
見事な連係プレーで大声で状況説明してくれたよね。
これがさ、夜遅くて酒とかしこたま飲んだあとなら魅了魔法関係なく気持ち悪くなって吐いただけっていう言い訳もできたかもしれないけどさ。
でも昼間だったし。
そもそも横恋慕する女が夜に目当ての男と二人きりになれる展開なんてそうないからさ。
友人が近くにいたのはわかったうえで、それでも魅了してしまえば男が女に恋に落ちた瞬間の目撃者、みたいにしようとしてたっぽかったのよね。
まぁ、結果は女の目論みとは真逆になったんだけど。
お気に入りっぽかった服にもゲロはかかるし、染みはできるしゲロだから臭いし、いくら好きな男だからって言ってもさ、普通はほら、ゲロとか浴びたくないじゃん? 相手の体調が悪くてかかっちゃった、っていう状況ならまだしも。
しかも友人たちが大声で魅了魔法使った女って証言しちゃったもんだからさ……
結局その女、そこじゃ暮らしていけなくなって逃げるように出てったよね。
だって今更他の相手にアプローチしようにもさ、魅了魔法を使った事実が知られたなら、次は魔法を使わず正攻法で恋愛関係になってもその人も魅了魔法で? とか聞く奴は絶対出るだろうし。
人間ってほら、落ち度があれば延々叩く生き物じゃん?
女が仮に心を入れ替えた所でずーっと重箱の隅をつつきまわすみたいに言ってくる相手はさ、いないとは言えないよね。
そりゃ住んでたとこ捨てて新天地で心機一転頑張った方が余程マシよ。
まぁ、他にも魅了魔法でゲロる呪いかけた奴はいるけど、大体似たような結果になったかな。
一度だけ図太い女がゲロをぶちまけた事に責任をとれ、とか言い出してきたけど、その時に男も魅了魔法でゲロる呪いだと明かしたからさ。むしろ具合も悪くなくて元気いっぱいだったのにおもむろに吐く事になったのはお前が魅了魔法を使ったからでむしろ責任というのならお前が責任をとれ、って有り金巻き上げられたんだったかな……?
や、顔がよくても中身がよろしくない男だったからさ、その時は。
確かその後その女は娼館に売られてったはず。うん、顔につられて手を出しちゃいけない奴に手を出したのが運の尽きだね。
で、どうする?
その呪いでよければすぐにかけられるけど。
ちなみに料金大体これくらい。お安い? まぁあんま大仰な呪いにしちゃうと色々と大変だからさ。
あっ、それでいいのね。オッケ今かけまーす。まいどありー。
ゲロ顔面にぶっぱされんのオールシーズンお断りだけど多分夏場が一番最悪かと。
もしかしてこの短編冬まで寝かせておくべきだっただろうか。
次回短編予告
お姉さまずるーい、って感じの妹が出てくる感じのやつ。




