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【完結御礼】どどどどーすんのっ、黒姫ちゃん?! ~強つよ有望株の姪っ子魔法使は、叔母のセンパイ魔法使に頼られたいっ~  作者: 香坂くら
3章 魔法使のトップは竜族の女の子でした

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018徒弟 ゲンニタイ成立前夜

 

「草壁修平……か。それは難しいな。仮にもヤツは大臣政務官だ。我々現場のモンとはそりが合わなくてな。だが努力はしよう」


 姉弟のプライベートの問題を持ち出すなど本来は一笑に付し相手にしないだろうが、この件には漆黒姫側にも複雑な裏事情があった。彼もそのことを知っていて取り引きの条件に加えようとしている。

 黒姫暴行事件に関しても、先日、シンクハーフから気になる報告を受けていた。


「黒姫さまとハナヲを襲った自衛隊員のうちのひとりがゲロりました。彼ら自衛隊員と女勇者に襲撃を指示したのは、草壁修平との繋がりが疑われる人物です」


「つまり今回の事件は、草壁政務官が関わっていると?」

「わたしはそう断言します」

「シンクハーフ。オマエ、その自衛官にお得意の自白剤を使ったのか?」

「イエスマム。一般人には非暴力、お上には非服従、しかるに犯罪者には非人道的対応です。被告人の記憶は消しておいたので、きれいさっぱり。後クサレはなーんにも無いです」


 それ以前にも防衛事務次官から逐一、その手の内部造反情報は流れていた。


「今回の防衛省ゲンニタイ追放劇だが、闇の首謀者はどうやら草壁のヤローだな」

「惟人とか言うデュクラスの者と取り引きしよう。ヤツの姉を泳がせ監視する口実にもなる」


 漆黒姫と近衛幕僚長の思惑はまとまった。


 ――このような経過をたどり、光の加護(デュクラス)の惟人は、漆黒姫の裏取引に乗って彼女の手先となった。


 話を元に戻す。

 かんなぎリンの個体スキル内視鏡(ディヴゲ)を使って、ノンスケール手乗りサイズ版(ノワル)姫と面談しているわけだが、漆黒(ノワルディジェ)姫には、聞きたいことがあった。


「さぁ黒姫ドールよ。そろそろわたしから質問をしていいだろうか?」

「質問か。なんなりと受け付けたる」


「近頃オマエの方から連絡を寄越さなかったのはナゼだ?」

「カンタンな事。ある日、誤ってアンタの連絡先を消してしまった。アンタからの指示はヒサゲを通して知り得たから別に『ヨシ』とした」


 質問した漆黒(ノワルディジェ)がハナヲの横で「うう」と嗚咽? した。

 チラ見のハナヲには実際のところの感情は判別できなかった。


「……わたしが預けた婚姻届。オマエまだ出してないだろ?」

「ああ出してない」

「プロポーズの返事は?」

「正直嬉しかったよ。でも今は結婚する気は毛頭ないし、誰とも付き合う気もない。まずは仕事に生きて、自立した女になりたい」


 ストレートな回答に、今度は解かりやすく「のああ」と嘆きを漏らした。

 何の話してんの?! と割り込みそうになったハナヲだったが、思い留まった。


 まずもって、ふたりはどういう関係なのか? という、途方もなく大きな疑問。

 婚姻届のイミ自体が分からないのだから、介入のしようもない。

 さらに。

 ややこしい事態が続く。


「待て、漆黒(ノワルディジェ)。それでは私のプロポーズはどうなるのだ? 3年前、初めて出会ったときから、私は貴公のトリコなのだがな」


 代わりに口ばしをはさんだのは、近衛帝統括幕僚長である。


 ハナヲは、あんぐりと口を開いた。

 このオッサン、何をトチ狂ってる? と言ったカオだ。「んなアホな」と、ますます当惑する。火に油を注ぐとはまさにこのことだ。

 当然だ。

 その当時、漆黒姫は下手をすれば未就学児なのだから。

 いやいや。と言うか、今もまだ小学生である。


「そりゃ好意を抱いてくれているのは嬉しいが。近衛閣下のそれは、ただのファン心理。推しに対する気持ちだろう? わたしは違う。黒姫を生涯の伴侶にしたいと言っているのだ。根本的に言って、LOVEの質が違う」

「いやかく言う私も同じである。貴公が振り向いてくれる日を信じて、ずっと独身を貫き通しているのだから。一刀で切り捨てるのはあまりに酷いだろう」

「いやいや」

「いやいや、いやいや」


 異種猛獣同士が威嚇しあっているような、重低音ボイスとロリボイスの睨み合い。

 幕僚長と漆黒姫、そして黒姫を交互に見比べたハナヲは、これ以上ないほど「あわわ」と青ざめた。


「カオスや。カオスにすぎる。ひたすらコワイしかない……」


 多様性社会にもほどがある。


 何しろ会話の端々に、多分に犯罪志向が含まれている。

 LOVEのくくりで片づけられる代物ではない。


 ここは糺すべきかどうか。ハナヲの勇気が試された。

 

「いい加減にしな、アンタらバカか変態じゃないの? ここに集まった目的はそもそもなんなのよ?」


 辛い空気を強制洗浄させたのは、魔法使ココロクルリ。

 一喝し、監督者モードに突入する。


「あ、ああ。そうだな。いつまでも警護に人を割くわけにもいかんからな。――悪かった(ノワル)姫。戻りたくない理由を手短に頼む」


「重大事や。漏れ聞いた話によると、光の加護(デュクラス)たちの魂が結託して自分たちの根城を築いたということや」

「はん? 根城? 勇者神殿か?」

「断定するには情報不足や。よって回答不可や」


 現世で殺された者も消された者も、いずれもあの世では魂となる。

 二者の違いは、その魂に記憶が残っているか否か。

 前世の記憶を持った勇者の魂が、決託する事は可能性としてありえなくもない。

 現世での無念の記憶が寄り集まり、暴動を起こすのだ。


「いったいどこでそんな情報を仕入れた?」

「ホテルの部屋のテレビでそう言っていた」


 漆黒姫と近衛幕僚長がカオを見合わせる。


「黒姫よ。オマエが情報を得たのはテレビドラマだな?」


 ちょっと間の後、黒姫ドールが自白する。ドールはウソがつけない。


「そうや、間違いない」

「――で? 現世に戻れない理由は?」

「ヘンな気を起こしている兄を叱って現世に戻す。ジャマ立てはさせない」


 ハナヲが黒姫ドールをガッシリと掴んだ。

 目が潤んでいる。


「お父さんを?! わたしもすぐ行く、やから、待ってて!」

「質問調でないと応えませんよ?」


「待っててくれますかっ?」

「ハナヲはもっと有意義な時間を過ごすべき。この件はわたしに任せて欲しい」


 漆黒姫、ジト目になる。かたわらのシンクハーフとココロクルリも同様である。

 黒姫ドールを潰しそうなくらい握り締めるハナヲに漆黒姫が尋ねる。


「そんなに冥界に行きたいか?」

「行きたい」

「じゃあ更なる努力を惜しむな。黒姫無しでも暗闇姫の名を貶めるなよ?」


 むぐとハナヲの口がまごついた。


「ようするに漆黒姫はハナヲを励ましてんですよ」

「そ、そーなん?」


 ヒサゲが姿を見せた。幕僚長に一礼する。


「もう時間か。そろそろ本題の用件を済ませるとしよう。夏川ハナヲさん、不躾で申し訳ないが示談金の話だ」

「ジダンキン?」


 幕僚長の腰をポンと叩く漆黒姫。チョイチョイと自分の方に指を曲げる。「その件はこちらで受ける」というサインである。それに気付いたシンクハーフがジットリとした目で睨み、タメ息をついた。


「――なぁ夏川ハナヲ。オマエは早く階級を上げたいのか?」

「もっちもちのロンです。早く魔女七威になりたいです」

「だったらわたしからの提案だ。覚悟を決めるなら今日から暗闇姫姓を名乗れ。そうすれば無名の今よりはもっとたくさんの挑戦者が現れるだろう。それとな、今日限りでこの家は引き払ってもらう。別の住まいを提供するからそこに住め」

「なっ、なんでさ! ……ですかッ?」


 窓の外に向かって指を立てる漆黒姫。

 覗くと自衛隊車両が数台、家の前は私道に関わらず武装車両が駐停車しているし、公道の側も警察を巻き込んで通行止めになってしまっている。


 ハッキリ言って近所迷惑だし、前代未聞の大ごとになっている。


「重ね重ねスマン。私の護衛でちょっと目立ち過ぎた。少し離れた場所で諍いもあったようだ。身内の離反連中と勇者集団が結託して近くの交番を襲ったそうだ。明らかに挑発行為だろう。裏手にある農協の建物にも発砲したというので警護の者を行かせたんだが、睨み合いになっている」

「小学校のある――ば、バス停のトコやん?!」


 ここから徒歩数分の場所である。

 さっきからヘリコプターの音が煩いのはそのせいだった。

 

「この家の住所が世間にバレてしまった」


 無表情のシンクハーフが「そりゃ、こーなりますね」とボソリ。

 幕僚長が腰をかがめて身体を小さく曲げ、申し訳なさそうに「不甲斐ない。誠にスマン」を連発する。


「転居先なんだが、ここから車で10分ほどの所で、住所で言えば出雲井という場所だ。そこにセキュリティ万全のマンションを用意した。当面はオマエと惟人、それからかんなぎリン。3人で生計を立ててくれ」

「エエッ、わたしもですかッ?」


「そうだ。オマエにいてもらう理由はふたつ。一つ目は黒姫ドールの維持だ。そしてもう一つは暗闇姫ハナヲに、ドールを通じて黒姫の魂と密に連絡を取らせ、とっとと現世に帰ってくるよう説得を続けさせるんだ」

「わぁぁん、そんなぁ」


 半泣きのかんなぎリン。


「この仕事、そう易い事ではない。わたしの見込んだ有能なオマエだからこそ務まるんだ。暗闇姫ハナヲへ注ぐ愛情は、わたしへ向けてのものだと理解して勤労してくれ」


 そう言って、優しくかんなぎリンの頭を撫でる。


「あわわわわ」


 驚きから感動、そして恍惚へと表情を変遷させた彼女は「フンッ」と鼻息荒く、奮起一転「お任せくださいッ」と開花したように叫び、(何度も言うが年下の小学生に)深々とお辞儀した。その目をウルウルさせているあたり、周囲は苦笑を通り越して「いじらしい」やら「健気」やら、名状しがたいカオになった。


「……ちょろちょろ、ちょろいん」


 シンクハーフなぞは、漏れ滲んだ心情にメロディさえつけて歌い出してしまっている。


「暗闇姫ハナヲ……さんッ! 早速引越ししますよッ」

「ふえっ、いつ?」

「明日には! 今日中に荷物をまとめてくださいね!」

「俺もか?」


 とりあえず、さりげに抗いの念を込めた質問をする惟人。その足を踏んづける。


「つって! ――おいフザけんな」

「あのねぇ。気の毒な事にオマエも暗闇姫の一員なんですよ? 自覚ありますかね、このトーヘンボク! ムダ口開く時間があるんだったら、引越屋の手配をしろってんです! それとも自分で全部運びますかぁ? そーしますか? やったね父さん、明日もホームランですかぁ、なんだコノヤロー」

「え、ちょ。壊れたんやない、この子?」

「ひとまずほっといたら。――それより漆黒姫、わたしとシンクハーフも同居したいんだけど、いーかな?」


 漆黒姫は、黒姫を近衛幕僚長に抱えさせて帰りかけていた。


「うん? 何だって? 別にいいぞ。好きにしろ」


 降りかけた階段の途中でもう一度返事する。


「毎月の家賃は自腹支払いだからな」

「エエッ?!」


 ハナヲとかんなぎリン、さらにシンクハーフ、ココロクルリが廊下に飛び出したときにはもう、漆黒姫は玄関を出て車に乗り込もうとしているところだった。


「――あ。ヒマリ姉が連れてかれる?!」


 部屋に戻って駆け抜け、そのまま開放した窓から大声を出す。


「ちょっとォォォ! なんでヒマリ姉を連れてくのーッ?!」


 発進しかけた車が止まる。

 ウインドウガラスが開き、漆黒姫に代わり、幕僚長が返事した。


「付きっきりの看護が必要だからだ。黒姫どのはこちらで責任をもつ」

「そんな勝手な!」


 幕僚長と並んでカオを出した漆黒姫が説明を継ぐ。


「仮にも病人だ。医療設備の無い場所に放置しておくわけにもいかんだろ。安心しろ。二十四時間完全看護、セキュリティ万全の病院で、目覚めまでわたしの方で面倒を看る。オマエはオマエのやるべきコトを全うしろ。――黒姫ドールを頼むぞ、暗闇姫ハナヲ」

「――え? ――あッ?!」


 黒塗りの高級車が往く。


「ちょちょちょーッ、ひまりねえぇェェッ!」

「ちょっとォ、それ以上身を乗り出したら落っこちちゃうわよッ?!」

「……心配は不要ですよ、ハナヲ。ああ見えて漆黒姫は割とマトモなヤツです。一旦口にした約束は絶対に守りますし、第一彼女は、黒姫さまにぞっこんLOVEですので」


 脱力するハナヲ、床に座り込む。


「その、ぞっこんラブってのが、果てしなく胡散臭いんや……」


 ――2階から望む窓の外、物々しい車列が去っていく。

 そう言えば近所の事件とやらはどうしたのだろう。いつの間にやら、ヘリの音も止んでいた。

 まるで漆黒(ノワルディジェ)が、騒ぎのすべてを掻っ攫っていったかのような錯覚を起こす。


「全部が全部、漆黒姫の持ち込んだ作り話だったのかも知れませんね」

「あの子は人生そのものがウソっぽいもんね」

「漆黒姫らしいです」


 シンクハーフとココロクルリも同じ魔女七威のはずなのに自分たちを差し置いて、謎めくリーダーの破天荒ぶりを種に笑っている。


「漆黒姫さまはウソなんて、ぜーったいぃに、ついてませんよーだっ!」

「ふふ可愛いですね。漆黒姫への無償の愛を感じます。創作意欲がかき立てられます」

「でもあの子、黒姫さまが好きって公言しちゃってるのよ? 報われない愛を貫くの、辛くない? この際だから別の愛に目覚めちゃったら?」

「うるさいです、うるさいですう!」


 健気に彼女の味方をするかんなぎリンに矛先を移し、からかう二人。ますます調子に乗っている。


「あっ!」

「どーしたのよ?」


 ハナヲが急に声を上げたので、今度はそちらに注目が集まる。


「な、何よ? なんでわたしを見るのよ?」

「だって。漆黒姫たち、目立たん方が良かったんやろ? ルリさまが転移(ラトゥデション)で送り届けなアカンかったんちゃうん?」


 そうした方がヒマリ姉も安心して病院に行けるのにと言外に込めている。

 懸念した途端、家の外で爆発音が響いた。窓ガラスがビリビリするほどの衝撃だった。



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