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【完結御礼】どどどどーすんのっ、黒姫ちゃん?! ~強つよ有望株の姪っ子魔法使は、叔母のセンパイ魔法使に頼られたいっ~  作者: 香坂くら
3章 魔法使のトップは竜族の女の子でした

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016徒弟 同居

 

 後日かんなぎリンに漆黒姫の真意を問い質したが、惟人の話は本当だった。

 黒姫との同居。

 それが漆黒姫からの指令だった。


 事前の相談などは一切なかった。


 ――ところで(ノワル)姫、暗闇姫ヒマリは1週間経った今も未だ目覚めない。

 自室のベットで、昏々と眠りに就くばかりだ。


 ハナヲとしても目覚めさせる方法を調べようもなく、漆黒姫に相談しても返事も来ず。

 結局惟人を信じて治療を任せるしかなかった。


 腕を回しながら惟人が階段を降りてきた。

 ヒマリの部屋で施術を行なっていたのだ。


 今日もそれ相応の光の加護(デュクラス)を消耗したようで、少しフラついている。

 彼がリビングのソファに座ったのを見計らって、飲み物を差し出す。


「な、惟人クン」

「馴れ馴れしいな、チビ鬼」

「いい加減、名前で呼んでくれへんかな? わたしはハナヲや。宿題してたんやけどな、ここの問題のイミがさ、ちーっとも理解できんのよ、おしぇーて?」

「小学校もろくすっぽ行ってない俺に訊くか?」


 ソファに腰を据え、ふたりで教科書に挑んだが、約1分でギヴアップ。

 肩を落として放り投げる。


「……はぁあムリィ。――……なぁ惟人クン、聞いていい? なんであの戦いのとき、わたしやヒマリ姉を消そうとせんかったん?」

「はん? 忘れたよ」

「カワイソーに思ったん? それか、惜しいって思ったん?」

「なんだ、その惜しいってのは?」


「だって、ヒマリ姉。カワイイもんね? 死なすのは惜しいって思ったとかさ。……部屋で、ホンットーにヘンなコトしてへんよね?」

「バカか、オマエ」


 テレビのリモコンをつける。

 どこかの街で起こった火事のニュースを伝えている。


「そりゃな。例えば事件や事故で死んでしまった人間ですら名前は遺る。けれども消されてしまったら、それで終わり。現世に何も残らない。名前も、想い出でさえも。今度の事でやっとそれを自覚した。だから俺は。これからはもう二度と人を消さない」

「いまさら当たり前の話をドヤ顔でゆわんとって。わたしだって、そんなコトしないよ」

「ドヤ顔なんて、してねー……」


 テレビのリモコンをポトリ、落とす惟人。

 ある一方向に釘付けになる。


 ハダカにバスタオルを巻いただけのシンクハーフが、冷蔵庫に直行する。

 なまめく白い柔肌がふたりの前を横切った。


 錯乱したハナヲがイミ不明の怒号を発し、惟人のカオにクッションを押し当てる。


「な、な、な、な、なんでッ?! シータンがオフロ入ってんの?!」

「別に。ただのイヤガラセですよ。『ケダモノが使った後のフロになんて入れるか』って、ココロクルリがいっつも一番風呂を所望するものですから、では今日はわたしが先に入ってやろうと」

「まったくずーずーしいな。その女もオマエも。人んちの風呂だろ?」


 呆れる惟人に対し、ハナヲは気にする観点が全く違う。


「コラあっ、シータンッ! 男子の前でそんなカッコウしたらあかんッてえ!」


 見るな、見るなと惟人にクッションを押し付ける。目隠しのつもりである。一方でシンクハーフに「早くリビングから出てけ」とせっつく。

 それでもマイペースを貫き、アイスを見つけてリビングを後にするシンクハーフを見届けてから、ようやく少年の視界を開放した。

 

「あのオットリ女と金髪の女に、そーいやまだ礼を言って無かったな」

「礼? なんなのッ。眼福とかゆわんでよ? マジ家を追い出すからね!」


 教科書を拾い上げて「バカか、オマエ」とハナヲに渡す。

 受け取ったハナヲ、神妙な顔つきになる。


「――ヒマリ姉さ。いつ目が覚める?」

「光を浴びすぎたし、あわや消されかけたからな。心を呼び戻すのに相当な時間がかかっている。そんなに気になるんだったら、治療に立ち会えよ。初めの頃みたいに」


 気弱に首を振り拒否るハナヲ。施術中、苦しそうに呻くヒマリを見ていられないのだ。

 意地悪い言い方だったかと自嘲気味に笑い、再びテレビをつける惟人。今度はバラエティ番組を選択した。


「あのおっとり女な。あのときのロボたちを修理してくれるんだと。……それと、金髪女の方は保釈金。俺のために出してくれたそうだ」


 驚きの声こそ上げなかったが、ハナヲは睨んでいた教科書から顔を上げた。

 意外に思ったのか、何か言いたげな妙な顔つきをする。


 ――シンクハーフもココロクルリも、彼とあれほど敵対したのに。

 途方もなく優しいじゃないか。


 特にココロクルリの方は……。

 後日かんなぎリンから聞いた話だが、厳密には保釈金などではないのだが、漆黒姫とともに方々に手を回し、彼の釈放のために尽力したようだ。かなりのお金を撒いたのは事実らしかった。


 シンクハーフからすれば、「あのドケチのココロクルリが?」「どういう風の吹き回しで?」 となるが、ハナヲは素直に嬉しかった。普段ツンケンしている彼女の、優しい一面が知れた気がした。そんな子と友だちになれて本当に良かったとシンクハーフに答え、「あなたこそ、イイヤツですね」とドギマギさせている。


「それならわたしも、惟人クンにアリガトウってゆわなきゃ」

「お礼?」

「お姉さんから、わたしたちを守ってくれてんでしょ? この家を警備してくれてんでしょ?」

「それ言うなら、あの金髪女らもそうだろ? 俺はただの、漆黒姫の手先だ」


 自虐めいた口調で「お陰様で金と見えない力で頬をはたかれた気分だよ」と嘆くとこう付け足した。


「俺の役目は、どうしようもなくクズな光の加護(デュクラス)と、更に救いようのないクズの魔法使(マージ)を根こそぎ掃除してやる事。それだけだ」

「そういう条件で解放されたん?」

「まぁ、そうさ。最低だろ?」

「最高にサイテーやね。上手く乗せられたね。――でも、それ」


 テレビに一度目を向けてから、惟人に向き直り。


「めっちゃ格好いいよ」

「そーかい。そりゃどうも」


 二階で物音がした。


「ヒマリ姉の部屋だ!」


 やっと目覚めたのかと喜び勇んで階段を駆け上がる。

 後ろで惟人が何やら言っているが、ハナヲの耳には届かなかった。


 ――と。急ブレーキのハナヲ。

 ドアの前に、かんなぎリンが立っている。漆黒姫の部下と称していた幼女だ。

 

「ちょ?! かんなぎさん、いつの間に来てたんっ?」

「今です。実はこの部屋、立て込んでましてね。関係者以外、立ち入り禁止なんです」


「んー? ここ、わたしんちやで? 立ち入り禁止のイミ、ゼンゼン分かんないし」

「イミはあります。とにかく国防上の理由です。お引き取りください」

「コクボーってなんやの、それ?」


 ゆっくりとした足取りで、ココロクルリが階段を上がってきた。


「ハナヲ」

「あ、ルリさま」

「わたしが転移(ラトゥデション)を使ってここに連れてきたんだ。――かんなぎリン、通してあげて」


「連れて来た? 誰を?」

「うー。了解です。どうぞ、お通りクダサイ」


 許可が下り、いまいち事情がつかめぬまま入室。

 そして。


「うきゃあッ?!」


 たまげるハナヲ。

 それも無理はなかった。

 なんせ、予期していなかった人物が叔母の枕元に突っ立っていたのだから……。


 ――その人物。

 紅蓮にうねる三つ編み。煌々とさせる鮮紅の瞳。首筋には鋼板の鱗を覆わせ。

 幼形の猛獣、古代の魔祖、その残滓を大いに顕す異能者――。


「ノ、ノ、漆黒(ノワルディジェ)姫ぇ?!」


 ――さらに、その隣には別の人物も並んでいる。初対面の人だった。

 その者は、一句でまとめると巨人。

 頭頂部は天井に当たっていて、不自然に曲げた猫背の姿勢でなんとか部屋に収まっている。


「……どなた、ですか?」

「防衛省統合幕僚監部。統合幕僚長」


 漆黒(ノワルディジェ)が低めの幼ボイスで肩書きを紹介すると、


「――近衛帝(このえ・みかど)です」


 五十がらみの白髪交じりの巨体男性が後を引き取り、唸るような声質で名乗った。


 肌質はサジェス族に近いが、浅黒い。

 オーク系の特質が強く厳つい面構えをしている。

 隆々とした筋肉で覆われた巨躯を、骨太の両脚が揺らぎなく支えている。

 特注サイズの高級スーツを着こなし、重責を負う立場に相応しい落ち着きと貫禄がある。加えていかにも豪胆で英邁な、いわゆるデキル官僚っぽい様相を含ませている。


「あー? えーと、えーと」

「閣下。コイツは新人魔法使(マージ)だ。ハナヲ、挨拶しろ」

「わっわたしッ、夏川ハナヲです」

「先日の件は申し訳なかった。わたしの監督不行き届きだ。深くお詫びしたい」


 ハナヲは何のことか分からずキョトンとしたが、彼は自衛隊員による黒姫襲撃事件の事を言っている。


 漆黒姫が指を差す。

 差した先にいるのは、ベットに横たわるハナヲの叔母、黒姫ヒマリ姉。


 無論、意識はまだ戻っていない様子。


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