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【完結御礼】どどどどーすんのっ、黒姫ちゃん?! ~強つよ有望株の姪っ子魔法使は、叔母のセンパイ魔法使に頼られたいっ~  作者: 香坂くら
3章 魔法使のトップは竜族の女の子でした

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014徒弟 漆黒姫登場

 

 帰宅した夏川ハナヲが制服を着替えていると、インターフォンが鳴った。


「ごめんください」

「はいはーい」


 カメラの向こうで、しかめっ面の女児がそわそわしている。

 しょったランドセルがずっしりと重そうだ。

 ――漆黒(ノワルディジェ)姫の遣いだと言う。


 歳の頃は10に満たないか。

 ハナヲと同じく魔法使なのだろうが、異常に若い。

 とは言うものの、叔母の(ノワル)姫ヒマリもデビューしたのは同じ頃で今更驚きはなかった。

 予めアポ取りされていたので、疑う理由も無く中に入れる。


 仏頂面を崩さない女児は、見知った素振りでハナヲの案内ももどかしくリビングに押し入った。

 艶さらの黒髪と、うなじあたりの透明感のある白い肌との対比が際立つ。


 小さいカオに不釣り合いなほどの大きなメガネをかけているのでつい、「それ重くない?」と余計な質問をする。すると不機嫌さが上積みされたのか「何がです?」とつっけんどんにハナヲを睨み返した。


 女児の差し出す名刺には【かんなぎリン】と書かれている。

 役職は【漆黒(ノワルディジェ)姫の秘書官】――とある。


 ハナヲには秘書官とやらがどんな仕事をしているのかは全く想像がつかなかったが、かんなぎリンは自分が殊更有能で、漆黒(ノワルディジェ)姫からの覚えもめでたいのだと具体例を挙げ、得意げにまくし立てた。


「へえぇ。すごいんやねぇ!」


 感心するハナヲ。目をキラキラさせ相づちを打つ。

 彼女に表裏は無い。年下だろうと子供だろうと、素直に感情を出す。


「――は? ま、まーね! そうでしょ、そうでしょ? 敬い崇め奉ってくれてもいいですよ!」

「崇め奉るってのは何か大げさな気がするけど、わたしもかんなぎさんを見習わななぁって思う」

「ふふふ。見習いなさい、見習いなさい」


 このことで先程までの不機嫌さはとりあえず横に置かれた模様。

 いや、ひょっとしたら緊張していただけなのかも知れない。

 お客さま扱いで恭しく出されたオレンジジュースのストローに、嬉しそうに口をつけた。


「そう言えばかんなぎさんは、前にわたしが通ってた学校に通ってるんかなぁ、初等部に在籍してんのやね?」

「――え?」

「だってさ。わたしもそれ、その制服、中等部のヤツ。こないだまで着ててんもん。なんかちょっと親近感わいたしね」

「ああ。……そうだったですか!」


 デザインとしては上下続きのワンピースで、中等部の生徒は初等部と区別するため、ウエストがドロストタイプ(紐付きで引き絞れる仕様)になっている。


「ところで。今日の御用向きは一体全体何でしたっけ? まだヒマリ姉は帰ってへんのですが?」

「――あ?」


「そんな急に怒ったカオせんで?」

「午後1時40分にガンクビ揃えて正座して待ってろって。わたし、確かに伝えましたが?」


「ヒマリ姉はわたしと違って忙しいんやって。――もしかして今日はお説教かなんかされんの? わたしら?」


 ハナヲの問いを無視。

 リビングを眺め回す。

 先程までの余裕ぶった表情を無くし明らかにイライラし始めている。


「――それで? パソコンは? Meetつなぐから準備しとけって伝えてましたよね?!」

「ごめん。パソコンはお父さんの部屋にあるねん」

「さっさと持ってこんかーい! って、全力でツッコみますよ!」


「重いねん。デスクトップパソコンやし」

「……ハァ。それならそうと、早く言ってくださいよ、もおっ!」


 床を踏み鳴らして指定の部屋に向かう。

 ハナヲの父親の部屋は2階にあった。


「……で? これがあなたの言ってたパソコン、ですか?」


「ウン。NFCのパソコン。PC-8801MKⅡ〇R」

「ワーオ。言われなくても分かりますよッ! コレって往年の名機、ホビーマシン文明を開化させた、時代の立役者、PC-88シリーズですよね」


「そうそう、キミ若いのに詳しいね。わたしも若いけど。――で、ここにフロッピーディスクを差し込んで……。あ、今日はどのゲームすんの? 蒼き狼と白き女鹿? ザナドゥ? まさか、TOKYOナンパストリート?! でもそれはお子さまにはまだ早いと思うよ?」

「ま、マニアすぎる。てか、ジンギスカンもオルド的にエッチですから!」

 

「じゃあとりあえず、ボコスカウォーズしよう。かんなぎさん、こーゆーの好きそうやし得意そうやし。メチャ楽しーよ?」


 フロッピーディスクを挿入しようとしたハナヲの手をワッシと掴み、怒鳴る。


「ソーデスネってーか、待ってくださいよッ! ダーレが昔のゲームをするためにわざわざ電車賃払って東大阪まで来たってんデスか! わたしはMeetするって言ってんですッ! Web会議です、Web! 昭和の博物館めぐりを楽しむとはヒットコトも言ってないですよ! 幾らなんでもPC88じゃWeb会議なんてできっこないっしょ!」

「……そーかぁ、ごめん。けどウチにはこれ以外にパソコンは無いよ? ショープの書院ってワープロならあるんやけどなぁ」

「ワーオ!」


 歯を剥き出しで絶句のかんなぎリン、ハナヲの手をひん捕まえて再び階下のリビングへ。

 自分のランドセルからノートパソコンとスマホを取り出した。


「ハーッ。なんで公用なのに、私用のマイPCとマイスマホを使わなきゃいけないデスかねえ! デザリング環境でMeetなんて初めての挑戦ですよ。かかったパケ代、ちゃんと請求出来るんですかねぇ、ったく!」

「そーゆー難しいハナシはわたしやなくって、自分の上司にゆって?」


「もおお。分かってんデス、そんなコト! いちいち独り言に反応しないでくれます? それと(ノワル)姫はいつ帰って来るんデスかっ!」


「……わたしなら、アンタの背後や」

「ウン。さっきから背中とられてるよ、かんなぎさん。ヒマリ姉がゴルゴなら完全にお陀仏」


「――?!」


 幽鬼のように佇む黒姫ヒマリに、声にならない悲鳴を上げるかんなぎリン。


「みみみみみみ、MeetをつなぎますのでWebカメラを設置させてください。……って流石にMeetは分かりますよね?」

「バカにせんとって。Meetって、Zoomのことでしょ?」

「何か少し解釈が間違ってる気がしますよ? じゃあZoomってなんですか?」

「ごめん。Zoomの方は知らん」


「――クッ。じ、じゃあ、ちなみにTeamsは?」

「ちぃママなら知ってるよ?」

「昭和か!」


「わたしは一応、それは知ってる。しょっちゅうテレビで観るからな。あの、やたらカワイイやつや」

「ハァ。それはちぃかわ……。んもお、いいです! あーもー時間無いっ! つなぎますよッ?!」


 バカな会話を打ち切り、漆黒(ノワルディジェ)姫につなぐ。

 だが相手の画面は真っ黒のままだ。


「画面真っ黒やで? まだ寝てるんちゃう?」

「ボケなのかガチなのか、ファールラインギリギリな球の落とし方、しないでくれます?」

「何ゆってんのかワカラへん物言いするなー」

「ツッコミに苦慮する発言すんな! って言ってんです!」


「うん? なんや、画面の向こう、話してる声は聞こえてるで?」


 その画面の向こうとやら、漆黒姫側のカメラはオフ状態だが、マイクはオンになっているようだ。


『――かんなぎリン。返事しろ。オマエのマイクがオフだ』

「あっ?! 申し訳ありませんッ!」


「ゆったったら? そうゆう漆黒姫さんもカメラがオフやで? って」

「シーッ! それはあえてそーしてんデスっ! 姫さまのご尊顔を拝すなんて恐れ多いにもほどがありますからねっ!」

「えー? 何やて? ごめん、かんなぎさん。わたしさぁ、ちょっとイングリッシュ苦手やねん。もっかい日本語で頼むわ」

「……わざと言ってますよね、それ! いい加減シバきますよ」


『おーい。かんなぎリン、聞こえるかー。オマエ、相当おちょくられてるぞ?』


 ワカッテマスッテ。

 かんなぎリンが聞こえぬほどの小さなキレ声で恥じいった。


 定刻を10分以上すぎ、ようやくWeb会議が始まった。

 

「新米魔法使の夏川ハナヲです。すごく気になってることがあります」

『のっけから、なんだ?』


「シッ。失礼ですよ!」

『いい。言ってみろ』


「こないだの勇者クン、どうなったんですか?」

『こないだの? ――ああ。光の加護(デュクラス)の少年か。逮捕はされたがちゃんと元気にしてるぞ?』

「ああ、そーなんですか! よかったぁ」


『いまは勾留中だ。今後立件されるとムショか、ネンショー行きかだな』

「古い言い方。ネンショーって少年院やんね? 何とかなんないの?」


 画面の向こうが黙った。暫くして答えた。


『この話はここまでで終いだ。他に質問は?』

「はいはいっ。惟人クンはいつ刑期を終えるん? わたしゴハン作ったげる約束してさ」


 怯まず食い下がるハナヲに、デコピンするヒマリ。


「ネタを変えろとさ。空気を読めってコトやろ」

「ふぁい」

「先にしゃべっていいから落ち込むな」


 発言権を譲られたハナヲが気を取り直した。


「あのー。まずは漆黒姫さまにお礼を言います。この家を提供してくれて有難う」


 今の住まいは元々夏川家のもので。

 長年、夏川ハナヲが父と二人暮らしをしていた家だった。

 再び住めるようになって喜んだハナヲは、その礼を述べている。


 そうなったのには、それなりの経緯があった。


 この家は、ハナヲが黒姫こと暗闇姫ヒマリのマンションで暮らすようになったので、いったんは防衛省が買い上げていのだが、転売はしなかった。職員用の社宅に供することにしたのだ。

 それには裏があり、ヒマリのマンションへの引っ越しを勧めたのは防衛省職員のヒサゲで、彼女はそれに従ったのだが、その間に彼は省内で根回しを行ない、事実上の【空き家】状態をキープしていたのである。


 夏川ハナヲの心情を汲んだのと、もうひとつは、再来の可能性のある【光の加護(デュクラス)】に対し、網を張るためだった。故にこの物件は24時間体制で監視が続けられていた。


 なお逆にヒマリのマンションは売りに出されて、すぐに買い手がついてしまっている。

 こちらは暗闇姫ヒマリの要望が大きく作用した。


 簡単に言ってしまえば、暗闇姫家のフトコロ事情が影響した。

 降格処遇を受けたヒマリが、駅前マンションを維持するどころか、日々の生活を心配しなければならないレベルまで追い詰められていたためだ。


 結果、社宅扱いだった旧夏川邸に、夏川ハナヲと暗闇姫ヒマリが共同生活(ふたり暮らし)する状況が生まれている。


『それはわたしのおかげじゃない。防衛省の役人の手柄だ。お礼はその者に言え』

「ヒサゲさんには先日お礼をゆいました。けどもお礼は、漆黒姫さんにゆってくれって」


 黒塗りの画面の向こうで『あー……』と唸り声がした。

 

『アイツ、説明を丸投げしやがったか。……まぁいい。えーと要するにはだ、【救世民営化】策が国会審議を通った』

「はん? 救世民営化策? なんやそれ」


 怪訝な質問をしたのはヒマリの方。


「ダジャレとか笑ってやるヒマはないぞ」

『相変わらず目上に向かって偉そうだな。……まぁいい。つまり我々魔法使は、国からお祓い箱になるというわけだ』

「な……なんやと……」

『まぁそれは不貞腐れた物言いだがな。そもそもだ。よく考えてみろ? 当時、世界を二分した戦いと言われた戦争だ』

「みーんな知ってます。ミニュイと(サジェス)族との諍いです」

『そう。その戦いで実害は有ったか? 今発言した……えーと名前、なんだったか? ――そこのチビ鬼さん』


 かんなぎリンが「あなたの事ですよ」とハナヲをこづく。

 チビ鬼って、わたしのコト? とブーたれながら答える。


「それは――。魔法使が命を張ってわたしたちを護ってくれたから。……やから一般市民は怖がらず、割かし平和な日常生活が送れました」

『――つまりはだ。先の大戦はニュースの中でのみ起こっていて、国民総出で騒ぎ立てるほどの戦では無かったのだ。――では今度は黒姫に訊く。世界各地にあった勇者神殿を、我ら魔法使が潰して回ったが、敵さんの抵抗が激しかったのは何処の国だった?』


「ちょっと待って? 今の質問はヘンやで? わたしは学校で、【勇者たちは各地の街や都市を手当たり次第に破壊し尽くした】って習ったで?」

「――そーゆー雑学はよく覚えてんやな、ハナヲは」


 カオ見せしない漆黒姫は、クククと笑い声を立てた。

 割り込むかんなぎリン。


「そうでも言わないと国民はすぐにソッポを向きますからね。国威発揚のためにハナシを盛るのは、ある程度仕方がなかったんですよ」

『実際に、そんなような惨事に見舞われた国や地域もあったしな。だが極めて限定的だった』

「……フィリピン、オーストラリア、台湾、ドイツ、アメリカ、フランス。――そして日本」

『ざっと西側の諸国だな』

「フーン……」


 ズルズル……と、画面越しに何かをすするような音が聞こえた。

 麺でも食べながらしゃべっているのだろうか。


『それと……もうひとつ。こちらが核心となるハナシだが』

「な、何ですか?」


『チビ鬼。先の戦での死没者の数は知っているか?』

「チビ鬼やなくって、夏川ハナヲです。――死没者? 犠牲になった人ってコト?」

『言い直すとしよう。夏川ハナヲ、オマエの周りに犠牲者はいるか?』

「います。魔法使やった、わたしのお母さんです」

『他には?』

「……聞いてません」

『仮にも大戦だぞ? 前世紀に起こった、あの第2次世界大戦では民間人含めて5千万人以上の犠牲者が出たとも言われている。だが今回の(サジェス)族との戦争、とりわけデュクラスらとの戦闘では死者はほとんど報告されていない。――何故か分かるか?』

「え? えええ? えーとぉ……」


 ハナヲは首をかしげ、半笑いになった。

 言い訳にならないが、スピーカーから発せられる漆黒(ノワルディジェ)姫のロリ声と、彼女の言っている内容とのギャップは、万人の脳内を錯乱状態に陥れる。


『大きな要因がみっつある。まずひとつは主戦場が都市部から離れていたという点だ』

「なんで?」


『デュクラスとの戦闘は、主に勇者神殿とその周辺地域で勃発したからだ』

「はー。そっかぁ」


『それとふたつめ』

「はい」

『実際のところ最前線に立ち交戦したのは、軍隊そのものではなく、魔法使とデュクラスだった事』

 

 一般の火器兵器がデュクラスには効かなかったのは、ハナヲもココロクルリらから教えてもらったし、これまでの実戦でも十分に学んでいる。

 納得顔でハナヲは頷いた。


『さいごにみっつめ。これがメインの理由となるのだが』

「は、はい……」

『魔法使やデュクラスに殺された者たちは、ゼロ人だ』


「……は?」


『両者に殺された者はひとりもいない』

「……ど、どーゆーコトですか?」


 テーブル上のオレンジジュースがぐらついた。

 身を乗り出したハナヲのひじが当たったのだ。

 とっさにかんなぎリンが支えたため事なきを得た。


『思い出せ。魔法使と勇者は互いに相手を殺したか?』

「――あ! い、いえ。正確には相手を【消し】ました。――相手の存在を。存在そのものを」


『そうだな。殺されるんじゃなくて、()()()()()んだ。最初から世の中に存在しなかった者として扱われるんだったな』

「……」


『なので、潜在意識の中で相手に負の感情を抱いても、遺族にはその理由が思い当たらない。たとえ家族や知人、大事な人を消されていたとしても殺されたという認識は無いのだからな。なぜなら消された瞬間に、遺された者の記憶や想い出の中から、消された者の生きた軌跡は完全にdeletedされるのだから』


「怒りようがないし、悲しみようがない」


 ボソッと呟いたヒマリに、ハナヲが「ハッ」と反応し振り見る。

 だが、生じたその感覚の大元が何だか分からず、ただ、眉をひそめた。


『故に犠牲者の数は発表されていない。発表しようが無い、不明なのだから。すべての一般人はきっとこう思っているだろう。『良かった。家族全員無事で済んで』――と』


「世間に戦争責任を問う声が挙がりもしなければ、処罰感情を訴える声も挙がらない。……ただ、デュクラスは怖い連中だ、得体の知れない連中だという潜在意識だけが生き残り、人々の間でくすぶり続ける」


『そして魔法使についてはこうだな。【自分たちを守ってくれる正義の味方、但し、何をしているか分からない人たち】』


 バンと、ヒマリがテーブルを叩いた。


「早く本題を言え。救世民営化のハナシだ。結論は?」


『エラそうに言うな。これまでの話の流れでおおよそ見えたろう、世間は移ろいやすいものだという事だ』


 グスリと鼻を鳴らしたのはかんなぎリン。


「あれほど英雄視された姫さま方なのに。世の中冷たすぎます」

『国は、世論の空気を敏感に察し、我々をお荷物だなと思い始めている』


 パソコン画面に詰め寄った黒姫ヒマリ。

 漆黒姫に食って掛かった。


「つまるところ防衛省はわたしら魔法使を捨てたいんやな。――で、それやったらわたしらはどーすんのや?!」


『……単純だな、黒姫よ。それだからオマエは、わたしの片腕が務まらず、そんな片田舎で余生を過ごす羽目になっているんだ』

「――な、何やと?!」


「余生って……ヒマリ姉はまだ10代のピチピチギャルですっ!」

「ハナヲは黙ってろ……」


『これからどうするのか、ではなく、これからどうしたいのか? だろ。――既にわたしは先手を打っている。戦後すぐの頃に、防衛省に組織改編を意見具申した』


「それが何とかってゆー部隊やないの?」

「――第二陸自、幻想科学第二陸上自衛隊特殊部隊。通称幻二隊。名前なんてどーでもいいけどな。じゃあ上手く行ったって事だろうが?」


『中学生にもなってバカか、貴様』

「なっ」


 赤面する黒姫ヒマリをよそに、突如、漆黒姫側の画面がオープンなった。

 手前の3人の目がそこに集まる。まずは背景が飛び込んだ。


 場所は――まったく判らない。

 どこか見知らぬ森の中のようだ。


 テントを背に、迷彩柄の防寒コートをズッポリと被った小学校低学年くらいの女児が、焚火の炎にユラユラと照らされている。


『もっと考動しろ。(ノワル)姫』

 

 画面に向けるはキュッとつり上がった目尻に、爛々とした紅い瞳。

 口を動かす度にチラリと覗く牙と、両頬の下から首筋にかけて、鋼鎧のような藍媚茶の鱗が異相を顕し。

 特に目立つのは紅蓮に染まるゴワゴワ髪で、垂らすと腰のあたりにまで弾け広がりそうなのを、ムリヤリ三つ編みに束ねている。

 魔物(ミニュイ)族の長ともされる、(ペルペテュイルディノゾル)族の特徴を完全に兼ね備えていた。


 乱暴で無慈悲な表現をすれば、異界から抜け出たバケモノ令嬢という風体だった。


 ちなみにさきほどズルズルとすする音が聞こえていたのは、やはりカップ麺のようだった。小さな左手にしっかりと握られている。

 そんな漆黒(ノワルディジェ)姫は幼ボイスを押して力説した。


『幻二隊など所詮、仮の器でしかなかった。我ら魔法使(マージ)は自衛隊を卒業し独り立ちするのだ。我々は何としても人々の日常を護り、かつ、盛り上げなければならない。役人どもの顔色を窺うのが仕事ではない。むしろヤツらに『助けてください、お願いします』と頭を下げさせる。これからは【世のため、人のために力を尽くす】を我らの至上の使命にしたい。そしてその見返りとして、十分な量のオマンマを食べさせてもらうのだ』


 ここで話を止め、息を吸う。

 そのときを待っていたかのように火中の小枝が爆ぜた。

 ワッと口を開けた漆黒姫が告げる。


『異能者どもを集めて会社を興す。悪者退治をし、市民を盛り立てる会社だ。お前ら、黙ってわたしについて来い!』


 一瞬パソコンの電源が落ちたのかと錯覚するような映像の乱れが生じた。

 興奮した漆黒姫から発せられた電磁波が端末機器に障害を負わせたのだ。


「……は? 会社、やて?」

『そうだ。わたしが代表取締役を務める』

「アンタが? 社長やて?」

『ああ。そうだ』

「わたしもその、悪者退治……とやらに付き合えと?」

『そうだ。不服か?』


 ソッポを向く黒姫ヒマリ。やわ首を振る。


「――別に。……良いんやないか? それで」

『承知してくれるか』

「主旨は理解した。アンタの物言いは極めて明快や」

『それは重畳至極』


 ニイイと、八重歯と言うには目立ちすぎる、まさに牙を剥き出した感の漆黒姫。

 かたや、目を据わらせた黒姫ヒマリ。

 双方の内で不言の金打をする。


『――かんなぎリン。採用面接を順次おこなえ。来る者は拒まず、去る者は』


 チラリと黒姫ヒマリに目を遣る。


『――おらん』

「ははッ!」



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