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【完結御礼】どどどどーすんのっ、黒姫ちゃん?! ~強つよ有望株の姪っ子魔法使は、叔母のセンパイ魔法使に頼られたいっ~  作者: 香坂くら
2章 ひよっこ魔法使になりました

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013徒弟 ヒマリ、取り乱す

 

 ――緩慢な動作で右腕を振る少年。


 演奏を開始するように光の粒子が沸き起こり、濁流の輪になって彼の頭上に結集し、輝き、うねった。

 それと共に、背に純白の翔翼が閃く。


 開けていた革ジャンの前を閉じ、すうっと息を吸う。

 刃物のような眼差しを黒姫に差し付け、口の端っこを上げ挑発した。


「ほら、いいぜ。ここを狙えよ。ここだ」


 指を当てるのは、紛れもなく彼の弱点だ。


 黒姫は迷わない。怯まない。

 堂々大上段に大鎌をふるった。

 いつの間にか一振りごとに雷が呼応し、切れ味鋭い大刃に乗ってデュクラス少年に挑みかかった。


 避けていた少年が不意に動きを止める。


 刃と雷撃をまともに受けた彼は、四肢弾けたかと思えるほどの弾かれ方をし、10メートル以上離れた床面に衝突した。


「やりすぎや!」


 悲鳴を上げたハナヲは「もういいやろ」と黒姫を怒鳴りつつ駆け寄ろうとする。

 ――が、すぐに別の悲鳴を上げた。


 デュクラス少年が立ち上がったからである。

 まるで何事もなかったかのように。


 小声で彼はつぶやいていた。

 何やら黒姫に対し、文句を言っている様だった。


 だがハーハーと肩で息をする当の彼女には、聞き取るゆとりが無い。

 何を言っているのか皆目分からない。


 ふたりの間に挟まれる形になっていたハナヲが代弁した。


「『なぜだ?』 だって」

「……なんやて?」


「あーえーと……。……ま、もーいいやん。このくらいでやめとこ、な?」

「ソイツの言葉を勝手に遮るな。ボソボソと小っちゃい声で、いったい何て言うとんねん?」

「だからケンカは」


「はっきり伝えてやれ。俺はこう言ってる。『ザコだなあ、黒姫は』ってな」

「はぁ?!」

「あー。また都合よく聞き取れなかったか?」


 ホコリの付着した服をはたきながら言う。

 今度はしっかり聞こえるように、大きな声で、面倒くさそうに吐き捨てた。


「黒姫さんよ。なんで使わない? 例の技を」


 例の技。

 ――勇者必滅の法(ピリアデクラス)


 言わば光の加護(デュクラス)討滅のための究極魔法である。


 それを何故使わないのか? と文句を垂れている。

 これほど挑戦的な態度は無いだろう。


 だが。


「使わないのか? ……それともひょっとして、使()()()()のか?」


 グッと喉を鳴らしたのはハナヲだった。

 彼のイヤミに憤慨したのだ。


 他方の黒姫は蒼白になってうなだれている。

 彼女自身、さきほどからとっくに勘付いていた。


 お望みの魔法技は膨大なエネルギーを使う。

 欲しても到底適わぬ量だ。

 それどころか。

 既に鼻血も出ないほど、何の技も出せない。

 魔法なぞ、一切使えそうにないほど魔力が枯渇し切っている。


 もう魔法使とは名乗れないくらいだ。


「使えるんなら、使ってみろよ。幾らでも受け止めてやる」


 今の黒姫に、その期待に応える力などない。

 彼も薄々分かっていながら挑発している。


 彼は彼で欲していた。

 己が力の証明を。


 長年かけて探し当てた目標であり、大きな存在。

 それが黒姫だ。


 全力でぶつかり、潰してやりたいと欲求した対象だった。

 大仰に述べれば、彼が人生の目標を果たすために努力した、その執念じみた修練の成果を試せる、唯一の存在だった。

 だからそれは絶対的なものでなければならなかったし、そうでなければ心が折れかねないとすら思い、苛立ちを覚えかねず。


 それなのに目の前に現れた自称黒姫は、魔法使としての能力を著しく欠如させているばかりか、とうに自分の至らなさに気付いていて、往時とのギャップに傷付き、気落ちし、その挙句にあまりにも頼りない表情を浮かべて、敵前なのに戦意喪失してしまっている。


 同情してくれ、と言わんばかりに。


 だがそれが何だと言うのか。

 逆に「どういう事だ」とキレたい。

 彼には彼女の憤り、やるせなさ、そんな心情などカンケイが無かったし、慮る義理など皆無。

 むしろ彼の側からすれば、ただ単に怒りを覚えるだけなのである。


 この役立たずめ!

 とっとと消えろッ!

 彼は彼で、容赦なく罵倒したいほどの不快感でいっぱいなのだった。


 ――怒りや不快感。

 それを無くすにはもう、コイツを殺すしか他ない。彼は思い込んだ。

 決意して、すぐさま実行に移った。


 粟立つ感情を載せた彼は現出させた光り輝く日本刀を振りかざし、黒姫の肩口に向かって振り下ろした。


 

 あわや。

 彼女の脳天を砕く寸前まで刃を迫らせた彼は、ビタリ! と制止させた。


 タラリと額に冷たい汗が垂れる。

 彼はそれでも心のどこかで手加減をしていた。当然無意識にだが。


 ところが()()()()()()と踏んだ彼女が、避けるどころか観念して首を差し出す素振りをしたので、自分でも思いがけずに取り乱したのである。


「構わん。斬れ。斬ってくれ」


 今の今まで必死に、全力で挑み掛かってきた相手。

 腹立たしいのでいっそ殺してやろうとした相手。


 それが今度は殺してくれと宣う。


 こんな訳の分からない状態になったのは、過去にも経験が無かった。


 しかも。


「お、大泣きじゃねーか……」


 いかにも気の強そうなきつく鋭い目から、ボロンボロンと大玉の涙つぶが零れ落ちているではないか。

 額から頬まで、これでもかというくらいに紅潮させ、肩を震わせ、周りにはばかりも無くワンワンと声を上げ、泣きじゃくっている。


 敵の涙、それも異性の泣き顔を見たのはこれが初めてだったので、密かに彼は狼狽えた。


「うーるーさぁい。だーまーれぇ」


 セリフの抑揚がつかないらしい。

 ぎゅっと奥歯に力を込めて気を張らせ「さっさと始末してくれ」と声をしぼる。


 しかし、「じゃあお望み通り」――という気分になるはずもない。

 彼は野獣のように獰猛果敢だったが、存外お人好しでもあった。


「惨めだなー」


 わざと嫌がりそうな言い方を選んで、再び彼女の戦闘意欲を駆り立てようと図ったようだが裏目だった。


「ああそうや、わだじはもうアカン。こんなにも有利な場所で戦ってんのに。持てる最高のアイデムをづがっでんのに。……ひぐっ、うぐっ……、ちっとも勝てる気がぜん。こんな……こんな、なざげない魔法使は死んだ方がマシやねん! もお一思いに敵討ちをちて」


 どうやら持っている魔法アイテムや魔装具を全部使い果たし、また、推察した通り、なけなしの魔法量も底をついてしまったらしい。

 デュクラス少年の前で悲嘆にくれ、ガクリと膝を落とす少女は、最早あの大魔法使、長年追い続けた仇敵、(ノワル)姫などではなかった。


 ――こんなヤツが(ノワル)姫?

 ――そんなはずないだろう。


 戸惑うだけになっていた彼が急に再びイライラしだし、刀を片手に持ち替え、素振りした。


「チッ、やけにしおらしいな。さっきまでの強気発言はどうした? まるで別人だぜ?」


 自分で吐いた言葉なのに気にくわずに舌打ちした彼は、構え直した刀を予告も無く横薙ぎにした。

 様々な思念を遮断して。それは当然、無造作に黒姫の命を奪い取る行動だった。


 まっすぐ首の付け根を狙った刃は、だが、ガッシと阻止された。


「……ジャマだよ、見習いチビ鬼」

「アンタ。何をイラついとんのんや」


 現出させた魔法の杖で彼の狂剣を払いのけたハナヲ、先日の戦いで折られて短くなった杖を、バトンのようにクルリと回転させて彼を威嚇した。

 怖いカオで睨みつけるハナヲの脚はしかし、かなりブルついている。


 それを見て気を緩めた彼の周囲に、漆黒の帳が降りた。


 とっさに光の加護(デュクラス)による照明を作用させたが、衝く闇はそれを凌ぐ勢いだった。

 覆い尽くされた深淵の闇から、幾本もの細長い触手が延びる。

 実際には視認できていない。彼の感覚がそう警告した。


 照明目的で発光していた勇者はただちに消灯し、頭上の()()を体内に引っ込めた。ほぼ同時に頭部に強い衝撃がかすめた。直撃していたら致命的なダメージを受けた事だろう。

 彼は五感をフル動員して周囲の反応物に剣戟を入れた。


 幾つかの手応えを感じた後、緞帳が降参してストンと墜ちた。

 元の明るい空間が拓け、目が眩む。


 その、僅かな隙にハナヲの魔法が跳んだ。

 氷塊の槍だ。

 ――が、ギリギリ及ばず。あと数十センチのところで彼の刀が遮った。


「降参しろっ!」


 ハナヲが吼えた。

 二の手を隠していた。


 氷槍を伝った電撃が、彼の刀を砕く。

 やったか?! と気を張り詰めさせたハナヲに重い一撃が当たった。


「――え?!」


 踏ん張ったつもりだったがまったく利かなかった。

 後ろによろけて尻餅をついた。


 瞬時の判断で彼は、大事な武器を手放していた。

 愛刀を失い素手になった勇者の拳が反攻に転じ、ハナヲは打たれるままになった。


「あぐっ! ぐはっ! そんな、そんな……!」


 ――彼を見つけたときから密かに攻撃用の結界を巡らせる。

 彼の油断を誘って有利な形成に持ち込み、一気果敢に連撃する。

 トドメの一撃は必ず2段構えで周到に準備し、放つ。


 ルリさまとシータンの指導を素直に実践したハナヲだった。


 だが、通用しなかった。

 意識が遠のきそうになりながら、それでも彼女は自分なりの言い分をわめきちらした。


「わたしっ、ケンカしたかったんと違うねんっ! そろそろ夕ご飯の時間やから、惟人クンが反省してたら解放したろって思っただけやねん! ヒマリ姉も、惟人クンも、もう充分やないのって思って、ケンカを止めたかっただけやしっ! あとどれだけ暴れたらマンゾクすんねん?! ゆいたいコトあるんやったら、全部わたしが聞いたげるからっ、だからもう暴れんといて!」


 しかし彼女の必死の方便も、単なる手前勝手な言い草だと受け止めた光の加護(デュクラス)の手は休まない。

 崩壊寸前の防御魔法にすがり必死に耐えるハナヲに、抑えきれない感情をぶつけてしまう。

 こうなると最早制御不能、錯乱していると言っていいほどだった。


「だまれ! 自分から襲い掛かって来て何が暴れるな、だ! 自分たちは都合に合わせてデュクラスをまるでゴミか虫のように始末するクセによ! チョーシいい事言ってんじゃねーよ!」

「痛い痛い痛いっ! だから暴れんなってゆってんの! 少しは殴るの止めて人の話に耳を貸せっ!」


 そのときである。

 偶然なのか、狙ったのか。


 槍のように突いたハナヲの魔法使の杖(折られて原形をとどめていない)が、勇者少年の【頭上の光の輪】にすっぽりとくぐってしまった。


 その途端、少年が動きを止めた。――というより硬直した。

 ほとんど動けなくなった。


 これは呪術魔法、静止命令(ルタンサレト)にかかったのと同じ状況だ。


「こっコイツ?!」

「わわっ、ごめん」

「早く抜けッ」


「あ、いや、でも。――杖を抜いたらまた暴れ出すやんっ」

「暴れてんじゃない、痛めつけてるんだ!」

「やったら猶更抜いてあげないっ」


 奇妙な体勢をキープしながら、奇妙な遣り取りを繰り広げる。

 しかしその時間もあまり長くはなさそうだった。


 彼の光の加護(デュクラス)が宿主の危険を察知し、自動的に力を増幅させた。

 ミリミリ……と異物認定された杖がひび割れを起こし始める。


「惟人クン。お詫びにわたし、キミのために晩御飯を作る。今日、ウチに来て?」

「はあ? 何を……?!」

「何なら、明日も、明後日も。惟人クンにゴハンを作ったげる」


 ハナヲはいたってマジメに言っている。熱意のこもった目を彼にぶつけた。

 彼女なりに誠意と真心を伝えているのだろう。

なんとしたことか。

それは少なからず惟人少年の心に届いた。


「な……何を……」

「好きな食べ物と苦手な食べ物をゆって? ヒマリ姉にも手伝わせるから、ふたりで食べたい物を愛情込めて一生懸命つくるよ!」

「あのなぁ!」


 ペコリの頭を下げるハナヲ。

 自然に杖が彼のアタマにめり込む。


「アデデデッ! 光の輪が歪んでしまうだろッ?!」

「あっ、ゴメンゴメン」

「謝ってないで! 早く抜けッ!」

「暴れないって約束してっ」

「ウルサイ、いい加減にしろ!」


 最後通牒のように惟人少年が怒鳴った瞬間に、ハナヲの魔法使の杖が粉砕した。

 まさに絵に描いたみたいに、持ち手の部分だけを残し、砕け散った。


「わあああっ、ヒマリ姉からもらった杖が遂に粉々にぃぃ!」


 ふたりが再度一触即発状態になった、そのとき。

 両者間に、大きな金属製の手がカベになって立ち塞がった。

 

 怒涛の反撃を開始するつもりだった惟人少年の機先が制される。

 そこに今度は巨大な足が彼を襲った。


 彼を踏んづけ、払い、蹴り上げようとした。


「あああージャマだ! 鬱陶しいぃッ!」


 さすがに辟易とした彼は、立ち回りながらタイミングを見計らって背の鶴翼を羽ばたかせ、高く跳ね上がった。そして巨大物体に強烈無比な回し蹴りを喰らわせる。


 そのときの彼は完全に頭に血が上り、我を見失っていた。

 暴力を振るった相手は確認するまでもなく、先程までワキアイアイと和んでいたロボたちである。


 ロボらはココロクルリの命令を思い出し、与えられたプログラムに従って再び合体を遂げ、彼に攻撃しだしたのだ。


 だがそれは実に中途半端な動きであって。


 初回の絡みのときに既に数体が破損していたロボたちは、不完全な合体を強いられた。

 しかも相反する彼へのご奉仕プログラムも並行したままでだ。よって生半可な動きになるのは当然で。

 それが彼のナイーブな神経を逆なでした。ますます苛立ちを強めてしまったのだった。


 派手にスッ転んだ巨大ロボは、ボウボウと煙を発して停止する。

 すぐに警告音が鳴り出した。


「爆発します! 爆発します! 危険、危険!」


 惟人らにそう告げたのはロボたち本人だった。


「し、しまった……! 蹴っちまった……」


 その段になって惟人少年はどうにか冷静さを取り戻す。

 それとともに激しい後悔の念に苛まれた。頭を抱えて、


「うわああ、この機械どもっ、壊れんじゃない! 自動回復機能を発動しろッ!」

「残念ながらもうムリですう。バクハツするので退避、退避ーッ。さよーならー、惟人さーん」

「ふざけんな、俺が直してやるから堪えろって!」


「惟人さーん、ゆーコト、聞いてっ! わたしたちから離れてー!」

「危ないって、とにかく離れようって!」


 ハナヲと黒姫、女子ふたりに後ろから羽交い絞めにされ、ズルズルと引き離される惟人少年。


 やがて全身のパーツのつなぎ目から花火に似たスパークが発生し、ほんの十数秒後、合体が解けないままのロボたちは一蓮托生の言葉通り、仲良く揃って爆発炎上した。


「ああああああ! オマエらぁぁぁ!」


 彼の悲鳴は爆音にかき消され。――やがて。


 歳近い女子らの前で無様に、子供じみた取り乱し方を晒した少年勇者の惟人は、瞑想中の古老かとツッコミたくなるほどの仏頂面をして、黙々と飛び散ったロボたちの残骸を拾いだした。



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