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【完結御礼】どどどどーすんのっ、黒姫ちゃん?! ~強つよ有望株の姪っ子魔法使は、叔母のセンパイ魔法使に頼られたいっ~  作者: 香坂くら
2章 ひよっこ魔法使になりました

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012徒弟 黒姫のケジメ


 

「ひ、ヒマリ姉……!」

「騒ぐな」


 額がひっつきそうなほどカオを寄せた黒姫が、赤紫鈴の発現をうながした。


「どゆコト?!」

「連れてけ。一緒に行く」

「で、でも!」

「ボヌルバルに行くんやろ。いいから向かえ!」

「そ、そんなエラそうに……」

「何やて?」

「べ、別にぃ……」


 強烈な圧に怯え反発しつつ、ボヌルバル行きを念じた。

 閉じ切った扉の内側、エレベーター全体が白ペンキを浴びたように色飛びする。


 眩しさのあまり閉じていた目を開けると、そこはココロクルリたちが言っていた通り、ちゃんと亜空間・ボヌルバルだった。


「……ずっと駅前で待ってたの? わたしを?」


 抱いた疑問をぶつけるが返事しない黒姫ヒマリ。

 ムシすなわちそれを肯定だと受け取ったハナヲは「黙っててごめんなさい」と頭を下げた。


「構わん。多分わたしも同じ状況なら、ハナヲと同じようにしたやろ」


 怒っていないことに安心したハナヲはグスンと鼻をすすった。


「どこまで知ってんの?」

「ヒサゲさんから聞いた。昨日から電話もらってた」

「惟人クンのコトも?」

「惟人? あの光の加護(デュクラス)か? やから3人で懲らしめようとしたんやろ?」


 キツイ目で周囲を窺った黒姫に、ハナヲは怖気だす。

 まだ見ぬ、この空間のどこかにいる彼に緊張を覚えたのだ。


「アカンよ? ヒマリ姉、あの人は」

「――何がや?」


「やから……」


 ふたりの会話が止まる。

 同じ方向を見た。


「あれは……」

「煙……湯気……?」


 目測ながら、そこまでは随分距離がある。

 視力は良い方のふたりだが、いまひとつ判別がつかない。


「この地には何も無いはずや」


 何の躊躇もなく黒姫がそちらに向かい出した。

 転がるように後追いするハナヲ。


 百メートルも行かないうちにふたりの目にはそれが夕餉の煙だと断定できた。

 視覚だけでなく、それは嗅覚でも認知できたのは煮物の良い匂いが漂っていたからだ。


「ヒマリ姉」

「シッ。あんまりしゃべんな」

「でもな、あんな」

「ウザイ。やかましい」


 ハナヲも、しゃべりたくてしゃべっているのではなさそうだ。

 得体の知れないものに対して空恐ろしさを感じ取り、生じた不安を除きたいために黒姫ヒマリにすがっている。無意識に話しかけて気を散らせているのだろう。


 黒姫は黒姫で警戒心を最大にして気を張っている。

 往時ならば探索など魔技を働かし、たちまちに状況を把握しただろうがそれもままならない。

 ハナヲの話し掛けにイラつきの表情を浮き立たせているのはそのせいに違いない。


 そんなふたりは珍妙な光景に遭遇した。


 ログハウスならぬ、プレハブ風の金属製小屋がひとつ建ち、その脇にこれまた金属製の倉庫のようなものが2棟、さらにはそれらの後方にソーラーパネル式の光熱発電機がずらりと数十台並列している。

 

 再度ハナヲは思い詰めた面持ちになって黒姫に対した。


「これだけは聞いてよ、ヒマリ姉。ゆっとくよ、わたしはデュクラスの惟人クンを迎えに来ただけやし。やっつけるとか、そんなん一切せんし。やからヒマリも無茶したら――」

「いや、せん。ハナヲの後ろで大人しくしとったらええんやろ?」


 戦ったところで勝てない。


 どうせ、そう言いたいのだろうと黒姫はイラっとした。

 ハナヲにたしなめられるまでもない。


 不愛想なカオでハナヲを押しのけて黒姫は歩き出した。

 しかしハナヲは感じている。

 ますます意固地になりそうなのでこれ以上は言わないが、黒姫ヒマリの心は右に、左にと、ブレブレに揺らいでいる。

 ハナヲは「はあぁ」と嘆息した。


 ひとまずふたりは、中央に位置する小屋を訪ねた。


 小屋の中にいたのは例のデュクラス、惟人少年だった。

 ふたりの訪問に気付いていないのか、彼は背を向けてブツブツと何やら口を動かしながら工作をしている。


 さらに一歩、内部に踏み入る。

 いや、よく観察すると独り言ではないようだ。何やら別の者と会話をしている。

 どうやら金属製の作業台を使ってモノを修繕している様子なのである。ただ、これについては、彼は不器用なのか、思うように作業が進まないらしい。


「違います。その部品を先につなげてから少し曲げます。そうしないと――あ、それは曲げすぎです。もう一度やり直しです」

「悪かったよ。何とか自分で直ってくれよ」


「ある程度の修復はもちろん可能です。しかしそれには限界があります。そもそもあなたが人の説明も訊かずに暴力を振るい、我々を破壊しまくったのが悪いんです」

「だから! 謝ってるだろ。勘弁してくれよ」


「泣き言は受け付けません。はい、ガンバガンバ」


 惟人少年の話し相手になっているのは見覚えのあるロボットだった。

 それは、シンクハーフお手製のブリキ製メカ。

 まさにゼロ丸クンだか、エル何とかだかと名付けられていたロボットではないか。

 合体していたはずだが、元の単体に戻っている。


 歯車形の両目、角ばった口、昭和のおもちゃ感丸出しのレトロデザインのクセに、カオを赤くさせたり青くさせたりと、手に取るように感情を変化させて、勇者少年を叱咤激励している。


「悪かったよ、気付けなかったんだよ」

「反省しているなら益々いきり立ちなさい。それが誠意というものです」

「よりによって電子レンジとか冷蔵庫ロボを壊しちゃうとはなぁ。俺としたことがバカだった」

「覆水盆に返らず。後悔先に立たず」

「だから煩いよ」


 今の今までビビっていたはずのハナヲだったが、少年とロボの和気あいあいとした様子に、すっかりその事を忘れて普通の調子で話しかけてしまった。


「アンタらどーゆーコトなんっ? なんで仲良しになってんの?!」


 彼女としては驚き以外の何物でもなかったのだ。これは聞かずにはおれなかった。

 敵同士だったのに、どういう経緯でこうなったのか、気になって仕方がないようだった。

 どうしてだ、教えろと迫った。


 一方惟人少年の方も、心を乱すという点では同じだった。まったく不覚にも、そうなるまでハナヲの存在に気付いていなかったので「うおおおっ?!」と年相応の男子っぽい悲鳴を上げ退いた。

 (だがロボの方はとうに察知していて、わざと惟人少年の気を逸らす言動を続けていたのである。それは単にイタズラ心というものだった)


「決まっています。シンクハーフさまに命令されたためです」

「命令ってどんな?」


「自分たちが逃げ切るまでは『デュクラス殿に攻撃を続けろ』。自分たちとはシンクハーフさま方のコトです。そして逃げ切った後は、『光の加護どののお世話を全うしろ』と」

「お世話……」


「何故ならこんな何も無いところで丸腰だと、幾ら光の加護どのでもそのうち死んじゃいます。懲役刑のつもりで暫く滞在してもらう予定だから、その間、精一杯生活のお手伝いをするようにと厳命されていました」


 ポカーンとするハナヲ。

 何故ならシンクハーフはこう言っていた。


 食べ物も無い環境に閉じ込めていれば、幾らデュクラスでも飢え死にするだろうと。

 まるで罪人を放置死させるつもりのような、非情な言いっぷりだった。


 それがどうだ。

 ちゃんとケアしているじゃないかと。

 彼は今日どころか、明日以降の調理の段取りなどを気にしてピンピンしている。まったくもって元気そうだ。

 極小さく「良かった……」と安堵の呟きを漏らした。

 

 かたや当の本人。


「……勝手な事を言いやがって」


 機械の部品と工具を床にたたきつけたのは惟人少年であった。

 ハナヲに一瞥を加える。


「懲役なんだろ? ここに閉じ込めておくんだろ? のこのこと戻って来て何のようだ」


 息が触れ合うほどカオを近付け、ハナヲに圧をかける。これはさすがにタジタジとなる。

 いつ殴られるのかも知れず、半泣き顔をみせるハナヲ。


 しかし他方では心の内で怒りもこみ上げさせた。

 手をワキワキさせているのは、魔法発動を迷っている証拠だった。


「い、一方的に怒らんとってよ。こっこっちだってさ、ケ、ケンカしに来たんちゃうし」

「な」

「近いっ」


 両手でグイ――と惟人の胸を押す。離れてとの意思表示である。

 不覚にも赤面している。


 敵対者だという以外にも、同世代の男子にこれほど接近されたことなんて無かったのだから、気持ちを乱し昂奮したのは乙女の防衛本能を刺激されたからに相違なく。


「――で、その後ろの女はダレなんだ?」

「え?」


 問われてビクンとする。

 何故なら【その後ろの女】とやらの様子が殊更におかしいから。

 ハナヲの目からしても尋常でなかった。


 ――その者の名は。

 (ノワル)姫。


 影のようになって息を凝らしている。

 両手の内側に獣めいた光を貯め、戦闘意欲満々で魔力行使の準備を整えつつ身構えていた。

 青白く揺れる炎を瞳に宿しているのは、光の加護(デュクラス)への決死の覚悟の表れだった。


 刺し違えてやるぞ。

 そう公言しているのに等しかった。


「え、う、えーとォ? こ、こ、この子はわたしの友だちの魔法使で――」


「わたしが(ノワル)姫。アンタの探していた魔法使や」


 上手く誤魔化そうとするハナヲの気も知らず。

 きっぱり、あっさり。

 自分がダレなのかを名乗った。


「黒姫……オマエが?」


 ゆっくりとした動作で黒姫の方を窺い、すらり日本刀を発現させる。

 鈍く光る刃先を彼女に突き付けた。


「よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

「ああ。何度も言ってやる。耳をかっぽじって聴け。わたしが黒姫や。数年前にオマエの親を消し去った張本人や」


「……」

「悪かったな。拍子抜けさせて。けども正真正銘のホンモノや」


「――フーン。そうか」


 矯めつ。眇めつ。黒姫を眺めまわした惟人。

 今度はハナヲを観察した。


「どちらかがホンモノで、どちらかがウソをついている。――という事か?」


 赤紫鈴を惟人に突き出す黒姫。


 黄金色に輝いている。

 そして書かれた文字は【威二位】。

 つまりは魔法使(マージ)としては最高位の実力を有していると判定されている。


「分かったか。わたしがまごうことなく黒姫で、アンタの敵討ちの相手やって」


 挑戦的に言い切る黒姫に、惟人のカオが次第に険しくなった。

 理不尽な過去がフラッシュバックし、怒りが込み上げてきたのだろう。


「じゃあオマエが。俺をこんな風にしたんだな」

「ああ、そうや」

 

「フーン。――で? 今度は何だ? こんなところまでノコノコ来て、わざわざ仇敵ですって名乗ってよ。まさか俺にトドメを刺そうってつもりなのか? その程度の実力で? この俺に? 勝つつもりで?」

「――違う」


 ややカオを歪ませた黒姫は、やおら惟人に向かって跪き。


「え?」


 上体を深々と曲げてお辞儀した。


「なっ?!」


「ごめん。使命とは言え、子供のいたアンタの親を無差別に殺してしまった。あのときあの場にアンタがいたのは知ってたけど、そのときはただ取り逃がしたことだけを恥じてしまった。まだ小さかったアンタの命の事なんて、これっぽっちも気にしてなかった」

「……おまえ」


「浅はかで無思慮やった。そのせいでアンタがそんな風になってしまったって言うんなら、それは完全にわたしのせいやろし、謝っても謝り切れんって思ってる」

「なんだよ? その言い草……」


 予想外の黒姫の態度に惟人は面食らった。

 傲慢な物言いが引っ込んだ。


 お辞儀を止めたヒマリは、まっすぐ彼に対して言い放つ。


「わたし、心が定まった。つまり、アンタをここで殺して楽にしたる。わたしの全魔法力を賭けて。それがわたしの責任であり使命やと思った」


 言い終わらないうちに黒姫の魔法弾が炸裂した。

 火弾(フラムボレ)、赤炎の塊を圧縮させた銃撃だ。それがみっつ、立て続けに放たれた。


 音速を超えた弾丸はデュクラスの顔の横を突っ切った。

 彼は首をひねり避けたのだ。


 そしてその後のものが本命だった。

 疾風(クーデヴァン)魔法に便乗させた魔力砲(プリエカノン)が作動された。


 マッハの域に達した砲弾が彼に到達する。


 それはちょうど。


 彼のいる地点で爆発を起こした。

 黒姫が仕掛けたスゴ技だった。


 震動と爆風が生じ、縦方向に火柱が延びる。


 一度だけでとどまらず。

 5度も6度も。高く噴き上がった。


 その間に黒姫の素手が大鎌持ちにすげ変わり、勢いよく横薙ぎに振られる。

 空気そのものを断ち斬る真空の余波で亜空間(ボヌルバル)が歪み、傍らで指をくわえて見守るハナヲにも切り裂く突風が直撃。


 その度に足元がグワン! と軋みを上げる。


「わあぁぁッ」


 魔法壁を張ってなければ、ズタズタに刻まれるところだった。


 ――風荒ぶ中、デュクラスはそれでも悠然と立っている。

 息を乱す黒姫に睨みを入れた。

 その彼の頬……は僅かに裂けて、血が垂れている。


 だがそれだけだ。

 デュクラス()には魔法攻撃がほぼ効いていない。


 もう一度言う。

 (ノワル)姫の全力魔法は、デュクラス少年には効いてはいなかった。



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