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【完結御礼】どどどどーすんのっ、黒姫ちゃん?! ~強つよ有望株の姪っ子魔法使は、叔母のセンパイ魔法使に頼られたいっ~  作者: 香坂くら
2章 ひよっこ魔法使になりました

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010徒弟 亜空間

 

 振り向きざまの一撃。

 これでココロクルリが床に沈んだ。


 ほんの一撃喰らっただけ。

 気は失っていない。が足腰が立たなくなった。


 俄然余勢を駆り、ハナヲの真正面に向き直った光の士、勇者惟人は――。

 信じられない角度から彼女にハイキックを放った。その動きに躊躇は無い。


 言うまでもなく夏川ハナヲは、格闘においてずぶの素人だ。

 突如アゴが無くなったのか?! と恐慌するほどの衝撃を受け、狭いカラオケルーム内をのたうち回った。地獄絵の咎人のような阿鼻叫喚のオマケ付きだ。


 たったのゼロコンマ1秒間で二人の魔法使をノックダウンしたデュクラスの少年は、寸時の満足を得た。


「金髪の女も()()()の女も、気絶しなかったとは驚きだな。さすがは魔法使か……って、ギャーギャーやかましいな」


 つま先でハナヲの胸元を蹴る。

 息が詰まった彼女は静かになった。

 鼻水とヨダレをダダ漏れさせた彼女は、もはや女子の(てい)を成していない。


「あれ? まだ失神しない? しぶといな」


 もう一度痛打を加えようと引いた脚が途中で止まった。

 ココロクルリがその脚にしがみついたからだ。


「友だちに何すんだ!」

「何が友だちだ。偽善女」


 腰をかがめ、彼女の鼻っ面に拳を飛ばす。


「うん?」


 顔中鼻血まみれになっても離さない。

 2度3度、追加で殴る。


 たまらずカオを伏せたものの、それでも離さない。


「……ぐふ。シンクハーフ。……もういいかな?」


 絶え絶えの息を漏らすと、何処からか返事があった。


「なかなかの根性でした。わたし、感動です」


 パタ。

 パタ。

 ……と何の予告もなく、部屋の全方向の壁が外側に倒れ伏せた。

 ついでにミラーボール天井が明後日の方向に飛び去った。

 床も最後に掻き消えて。


 後に、無の青い空間が残った。


「これは……?!」


 

 上方からシンクハーフが降って来た。

 無表情なので緊迫感が皆無なのだが、惟人少年はやや身を硬くした。

 いよいよ黒姫の来臨かと警戒したのだ。


「あなた。光の勇者なのにどうして頭の上に天使の輪を冠ってないんですか? ひょっとしてエセなんですね? おかげでアテが外れてふたりがこのザマです。責任取ってください」

「はぁ? 何だ、オマエ?」


 淡々としながらも減らず口を叩くシンクハーフにイラつく少年。


「名乗れ、少年。――と、まずはわたしから名乗るのが礼儀ですよね。わたしは超美少女天才魔法使――」

「俺は惟人だ」


「ぐす。最後まで言わせなかったですね。そーですか、やはりあなたがウワサのエロ同人収集家の十八禁(アダルト)惟人くんですか?」

「誰がそんな苗字を名乗った! オマエ、誰なんだ!」


「怒らないでください。わたしはシータン。最高練度に鍛え上げたチョー美少女魔法使です」

「いちいちウザイな。……で? もしかしたらここは」


「ご名答です。ここは【ボヌルバル】」


「ボ……ヌル……バル……」


「そう。ボヌルバル、魔法使たちのホームグラウンドですね」

「俺は罠に嵌められたのか?」


 惟人少年は覚っていた。

 ここは人工的に造られた空間、亜空間だと。


「そう。あなたはビジター。アウェー中のアウェーです」


 先輩勇者らが話しているのを聞いたことがあった。

 魔法使が、手強い勇者(デュクラス)を屠るためにつくった特別リングがあると。


 ここに閉じ込められた勇者で、元の世界に帰還できたものはいないとのウワサだった。

 死ぬか消されるかの二択しかないと恐れられていた。

 まさかまんまと自分がそこに誘導されるとは思いもしなかった。


 それだけ向こうが本気を出してきたのだと。


「ここにあなたを誘い込むのにどれだけの準備が必要だったか。夜もしっかり寝て、ご飯もしっかり食べて。お昼寝もして。一生懸命に作戦を立てましたよ」


「……何が言いたいんだ、よくしゃべる女だなぁ」

「元来わたしは無口です。それだけ興奮しているということです。友だちたちを酷い目に遭わされて、わたしは怒りプンプンなのです。その怒りをあなたには痛みのカタチでお返ししてやりたいのです」

 

 この期に及んで惟人は思い出した。

 そう言えばこのカラオケ店で店員も客も、誰一人見なかった。

 入店した時点で既に罠にかかっていたのだ。


「わたしの【勇者ホイホイ】にかかった気分はどうですか。あなた、駅前で夏川ハナヲを見つけて尾行してましたよね? イロオトコとカラオケ屋に入るのを見てイラついてましたよね? 絶対に後をつけると踏みました」

「で? 亜空間とやらに二段階転送したわけか」


「2回目のご名答。部屋ごと亜空間に移送させるってのは流石に骨が折れました。天才美少女のわたしだからこそ出来た大仕事ですね」


 左右に目を送った惟人はフンと頷いた。


 いったん部屋に迎え入れてから攻撃を仕掛けたのは、大仕掛けから自分の気を別に逸らすためだったのかと彼は得心した。「なるほどな」と額に指を当てた。


「途中でスーツのイロオトコが消えたのはそのせいだったか」


 そのときに2度目の転送を行なったのだろう。

 なんなら、と彼は言葉を継いだ。


「そこの低レベル魔法使のふたりもついでに逃がしてやったら良かったんじゃないか?」

「それは思い違いです、勇者惟人さん」


 夏川ハナヲとココロクルリ。

 虫の息だったふたりがむっくりと起き上がった。


 共にカオを真っ赤にして怒りマークを浮き立たせている。


「誰が低レベル魔法使よッ!」

「作戦やったもんッ、やられたのはわざとなんや!」

「む……?」


 確かに叩きのめしたはずだった。


 ふたりとも気を失う寸前だったはず。

 それが何事もなかったかのようにピンピンしている。

 然しもの惟人も当惑した。


「ボヌルバル、魔法使たちのパーティ会場。ここだと、わたしたちの魔法力は何倍にもなるのよ! 覚悟しなさいよね!」

「この亜空間は勇者と決戦するために造られた魔法使の特別支援施設です。魔力、攻撃力、防御力、魔法耐性、回復力。いずれの能力も限界まで引き延ばせます。――光の加護(デュクラス)の者、勇者惟人さん、あなたはここで生涯の幕を閉じます。ぐっばいさようなら」


「くそッ。ザコどもめ」

 

「さっき。頭のワッカの話をしてたな? アレがあったらどうしてたんだ? 叩き割ってたのか? それとも奪ってやろうって肚だったか?」


「へー。もしかして天使の輪を盗られたら、何かのアニメキャラみたいにオナカ痛でも起こすんですか? わたし、スゴク興味しんしんだし、試したかったですが」


 シンクハーフがからかい半分に反応したのに対し、ココロクルリはギャンギャン喚き散らした。


「だからぁ! 決まってんでしょ! 叩き割ってやろって思ったのよッ! アンタら光の加護(デュクラス)の弱点を狙わないわけ無いしっ!」


 横で首を振るハナヲ。


「けども惟人クン、ワッカを自分の躰の中に取り込んでるよ? 一体化してるみたい」

「カラダの中に取り込む、ですか?」

「何よ、そんなの判るの?」

「んー何となく」


 デュクラスの者、勇者惟人の真髄を言い当てたのは3人の中で一番下っ端っぽい、最も弱そうな相手だと思っていた少女だった。試すセリフを吐いた結果、意外な事実に気付き彼は驚いた。


「そうか。分かった」


 3人の実力を推し量った勇者・惟人少年は、ゆとりの笑みを引っ込め、静かに腰を落とした。

 彼女らの実力を認め、ここに来てようやく侮らない態度を鮮明にした。


 相手を舐めてかかって命を落とした年長たちを、彼はイヤと言うほど見てきた。


 そして今回。

 油断が出てしまった。


 こんな思いがけないアウェー空間に閉じ込められてしまい、既に詰んだかも知れないと覚悟した。

 だが彼には意地があった。

 彼はこう言い放った。


「分かったよ。そんなに俺の命が欲しいなら呉れてやろう。――但し。アンタらのリーダー、黒姫をこの場に引きずり出し、刺し違えてからだ!」


 少年の強烈な意思に恐怖を覚えた3人だが、とにかく普段の訓練通りのフォーメーションを組んだ。


 後援に回ったシンクハーフは矢継ぎ早に物理魔法を展開し、鉄壁の防御を張る。格闘攻撃への備えだ。


 前衛はココロクルリが担当。敢えてにじり寄り、隙を衝くべく少年の息遣いを窺った。


 真ん中に位置したハナヲはまずは深呼吸して心を落ち着けようとした。

 なんせ彼女にとっては初めての実戦だ。

 脚がすくみ、視線が定まらない。それにムダに呼吸が荒く、流れる汗も止まらなくなっている。

 そのクセにテンションだけが妙に高い。飢えすぎて獲物しか目に入らなくなった肉食獣のようだった。


 そのハナヲが何かを言いかけた。

 ――が、もたつく間に戦闘が始まってしまった。


 ブラリと散歩にでも出掛けるように惟人少年が前に出る。

 ココロクルリの横面に強烈なパンチが入った。


 ――彼女の肘鉄がそれを受ける。大きくぐらついたものの、ダメージは回避。

 カウンターで攻撃魔法を発動させた。



 ココロクルリが放った魔法。


 ――それは、火爆(フラムエクスプラジオ)


 燃料と火源が見当たらない空間においても、急激燃焼(つまり爆発)を起こすことのできる魔法である。

 初級者の助手(アピュイ)以上の魔法使ならば、苦も無く発動する技だ。


 ただ、威力は別で能力差がある。

 彼女のものは絶大な威力があった。

 

 少年の背の先で火柱が立つ。

 そのときには彼は横に跳躍して逃げ、勢いのまま1回転しつつココロクルリに2打目を当てていた。

 弾き飛ばされた彼女は10メートル向こうの地面に落下。したたかに激突した。


 亜空間の効用でたちまち回復したココロクルリはふらつき立ち上がり「ハナヲ!」と叫んだ。

 彼女の目前に惟人が差し迫っていた。


 魔法で霧状化(ブリュイヌ)したハナヲに拳を振った惟人、「逃げるな!」と怒鳴る。


 ムッとしたハナヲ、「そんなんちゃう!」と返し、実体を戻した。

 手に魔法使の杖を握っている。


 うわあと無意識の雄叫びを上げ、惟人に一弾放った。

 難なく避けた彼はハナヲに一撃喰らわせ――ようとして、また空振りした。

 予想外の方角から火の玉が襲い、彼の肩に掠ったのだ。


 上体をねじって衝撃を緩和した彼、発弾地点に跳ぶ。

 透明になっていたハナヲにボディブローをお見舞いした。


「カハッ?!」


 ぐらつくハナヲはブルつく身体を惟人に体当たりさせた。

 彼はかわさず締め技に入った。


 その好機を待っていたのはハナヲの方だった。

 雷を我が諸共落とし、彼を感電させた。


 悲鳴は上げなかったが、相当のダメージを受けてハナヲから飛び離れる。


「だいぶ後方の援助に助けられているようだが……強いな」


 痩せ我慢とも取れる物言いをして惟人は歯を見せた。


「だけど雑だ。やたらめったらに技を放ち、腕を振り回しているだけだ」


 惟人が右手を脇に振った。

 宙空に細身の日本刀が現出した。

 それを掴み、中段に構える。


 眉間にしわを寄せたハナヲは緊張からか、軽く咳き込んだ。


「でも健闘したとホメてやるよ。もういいだろ、黒姫を呼べ」

「やなこった」

「もう抵抗できないだろ?」

「何やて……あ?!」


 魔法の杖がへし折れていた。

 黒姫ヒマリからもらった物だった。


 どのタイミングで折られたのか、3人の魔法使たちには見当もつかなかった。

 ただただ恐ろしさがよぎった。


 シンクハーフとココロクルリに振り返るハナヲ。


「……ああ。杖を折られちゃった」

「ヘコむ前に後方に退がるのです。わたしらと交代です」


「あかん。ルリさまがヘロヘロや」


 指摘されてようやくココロクルリの状態に気付く。

 抱き起こし、惜しみなくアイテムをつぎ込んで回復をうながす。


「シータン。ルリさまが目を覚ましたら個体スキル(転移)で外界に出て。後はわたしがケリをつけるから」

「……寝言は寝て言えとは先人たちの教えです。それに、友だちを置き去りにして逃げるのは最もサイテーのクズだと昔から相場が決まってます」


 プンスカと漫符を戴いたシンクハーフの右手が、上方に掲げられた。

 何処からともなく震動が生じだした。

 白一色の彼方から、銀色の大群が押し寄せる。


「わたしのゼロ丸クンからヒャク丸クンまで勢ぞろいです。勇者少年に一斉攻撃を仕掛けます」


 ドドド。

 地を揺らす犯人はロボット軍団……だった。

 

 ガチャンガチャンと足音を響かせたブリキ製(に見える)ロボたちが、惟人目掛けて押し迫った。

 数十、いや百台か。


 それぞれ微妙に大きさ形状が異なるものの、だいたいハナヲたちの背丈の半分くらい。

 白銀ボディに歯車デザインの目玉、両手は当然Uの字型。簡単に言ってのけると昭和臭つよっよの姿かたちをしている。


 身構えた惟人まで約30メートル手前まで近づいたとき、先頭のロボがボカロっぽい音声を発した。


「コンヴァイン、オッケー! コンヴァイン、オッケー!」


 すると残る99台の後尾ロボが声を揃え雄叫んだ。


「レッツ、コンヴァイン!」


 いったい何処から取り出したのか、シンクハーフが昭和期の重低音ラジカセを肩に乗せ、AXIYAカセットテープをセットした。


「スイッチオンっ! ガチャっとな」


 再生ボタンが力強く押し込まれたかと思うと、けたたましく勇ましいBGMが大放出された。


 目を見張るハナヲ。

 相対する位置で、つい見入る勇者惟人。


 音楽に合わせて、ほんの10秒ほどの間に100台のロボたちが「ガシャン、ガシャン」と超【合体】!


「なにぃ?! なんやのっ?!」

「ウソだろ……」


「身長56メートル、体重549トン! 巨体は唸るが空飛ばない! その名も【ヒト型決闘兵器・超電磁ロボ・エルカイムくん】 行けっ! 豆粒少年を踏みつぶしなさいッ!」

「名前、なっが。てか、どの部分が名前なん?」


「よくぞ訊いてくれました。見てください! ロボ一台当たり129万3千円をつぎこんで開発した今月度のわたしの新作発明品です。すごいですか、すごいですかッ、巨大ロボットアニメを見て着想したんですよ?」

「いやわたしが訊いたんはそこの部分やなくて……って、メチャクチャお金使ってるやん?!」


 そうこうしている間にも巨大合体ロボ・エルカイムは惟人を踏みつけようとしている。

 威圧感や迫力に圧倒されるが動きは速くはない。


 閉口しながらも少年はヒョイヒョイちょこまかと逃げまくる。

 反撃をしないのは、そのうち我に返るだろうが、ひたすら唖然としているためだ。


「――よし。今の内です。彼の気が逸れてる間にさっさとここを退散します」

「え? どゆコト?」


「もともとそーゆー作戦です。この亜空間に彼を置き去りにするんですよ。幾ら強くても何も無い所に放置されればグロッキーしちゃいますよね」

「出来たら倒したかったし、悔しいけどね」


「る、ルリさま?! 目を覚ましてたん?!」


 3人は、亜空間に彼とロボを残したまま、元の世界に舞い戻った。



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