三匹の子豚、その四匹目に生まれました
一応、二次創作とさせていただいております。
よろしくお願いします。
知っている。
兄達の武勇伝を、知っている。
久しぶりに帰ってきた兄三人。子供の頃の話で盛り上がっている。
「にしても藁の家なんてない。そりゃ吹っ飛ばされても文句言えないだろう」
「木の家は普通だろ。なんてったってこの実家だって木造なんだから」
「だからさ、最初からレンガの家を作るって考えがおかしいんだって」
それでも何よりも。兄三人は口を揃える。
「いきなり家から出した親が一番やばいと思う」
そう言って両親を睨む。
「だって邪魔だったし」
父と母は揃って視線を逸らす。
「うわ、邪魔だって。子供に。ひどくない?」
ひどいひどいと、兄弟はまた口を揃える。
「喧嘩しないでね?」
フガフガと言い始めたので、焦って口を出す。
「かわいい妹のお願いだから、許してやろう。さあ、タップリ食べて飲んで、タップリ寝て、休日を満喫しよう」
兄弟はまた揃ってそう言う。
この家族は三匹の子豚だ。兄達の武勇伝は、この実家から急に出て行けと言われてそれぞれ家を建てたという話。
長男は藁の家、次男は木の家、三男はレンガの家。狼が長男の家、次男の家を壊し、三人はレンガの家に集まった。唯一外と繋がる暖炉に湯を沸かして、その時を待った。狼はレンガの家は壊せなくて、中へ入ろうと煙突から中へ。そのまま熱々の鍋にドボン。暴れ回ったので扉を開けて逃がしてやって、二度と来ることは無かったとか。
それで何で、私がいるんだろうか。三匹の子豚で完結していいじゃないか。
ため息を付きながら寝床に入る。私達は綺麗好きだ。三兄弟でゴチャゴチャした家を両親は気に入らなくなって、勢いで追い出したのだろう。
コンコンコン
夜中、部屋の窓が叩かれる。眠たい時は寝るに限る。知らないフリだ。
コンコンコン コンコンコン
うるさいなあ。
「かわいいかわいい子豚ちゃん、中に入れてくれないかな?グルルルル」
ひええ。一番嫌なのがいる。
この家は木造だから、壊されるかもしれない。
寝床からむくりと起き上がる。
「あなたは誰?」
「親切な狼だよ」
「何をしに来たの?」
「君のお兄さん達の知り合いさ。ちょっと一呑みに……いや、顔を見せに来ただけさ」
絶対に食べるつもりだ。さて、どうしようか。
「兄さん達はグッスリ寝てるわ。朝まで起きないから日が昇ったら来てくれる?」
賢い兄達。三番目の兄は用心深くて、一番目の兄はずるいところがある。二番目の兄は容赦無い性格をしている。その三匹が揃ったことで、レンガの家に、わざと煙突を開けていて、湯を沸かして待つということが出来たのである。
ここは、兄達の起床を待つしかない。
「ひどいこと言わないでよ子豚ちゃん。久しぶりだから、顔だけでも見たいなあ。無理矢理にでも家を開けてしまおうか」
怖いことを言い始めた。
「開けてあげるわちょっと待ってね」
家族全員がやられるよりも、兄達への復讐だけの方がマシだと思う。弱肉強食、仕方ない。それに、あの狼は一呑みにと口を滑らせたから、もしかしたら食べられても何とかなるかもしれない。
玄関を開けて、寝床の窓に戻る。狼は意外にも律儀に待っていた。
「玄関を開けてあげたわ。約束よ、兄達だけに会ってね。じゃないと、みんなを無理矢理起こしちゃうんだからね」
兄達への復讐だけ。もしかしたら、約束を破られるかもしれないけど、その時は仕方ない。家に入れなかったら、きっとこの家を壊してみんなやられちゃうんだから。
狼が入ってきた足音が響く。キイキイと木が軋む音がする。
「長男は入ってすぐ、左側のお部屋よ」
「へへ、ありがとうよ。さあて、おやおや、こんなにでかくなって。半分にしてからに……」
半分にされる。その言葉にドキッとした。
「狼さんって強くてお口も大きくて、何でも一呑みにしてしまうって本当?」
「そうさ。うん、何でも一呑みさ」
「そうなの。とっても強いのね」
「そうだ、狼は強いんだ……ゴックン、ウウウ」
兄の無事を祈る。
「次男、三男と隣の部屋よ。顔を見たら帰ってね」
「ああ、もちろん。案内ありがとう」
それから二回、飲み込む音がした。
「子豚ちゃん、案内ありがとう。お礼を言いたいから、君の部屋に行くね」
汗が流れる。きっと狼は私も食べるつもりだろう。
「強くて大きい狼さんを見たらびっくりして大きな声を出してしまうわ。私が大きな声を出したら、両親が起きてしまうの」
一生懸命、生き残る言葉を考える。
「そうそう、兄さん達は昔ね、狼を退治したんだけど、その方法は両親が考えたの。両親はとっても頭が良いのよ。私の声にびっくりしたら、きっと狼さんも怪我をしてしまうわ」
狼の足音が止まった。
「そうか。ううん、仕方ない。腹ごなしして、また出直そう」
狼の足音が遠くなっていく。丸呑みした三匹の豚が重たいのか、時々ふらついているように聞こえる。
玄関から出たようだ。
「これからどうしよう」
両親の話は丸々嘘で、何があっても朝まで起きない。朝まで待っていたら、兄達は死んでしまうかもしれない。
とりあえず、狼の後を追うことにした。
音を立てないように、慎重に歩く。
狼はふらつきながら、川の近くの切り株に体を預けて寝始めた。
「狭いよ」
狼の腹から声が聞こえた。狼はグッスリ寝ている。一か八か、近付くことにした。起きてもお腹が重たくて走れないだろうから、捕まらないはず。
「兄さん達、生きてる?どうやって助けたらいいの?」
「むさ苦しくて最悪だよ。そうだなあ、どうしたものか」
「そうだ、グッスリ寝ている狼はうっかり足を踏んでも起きないらしい」
「じゃあ痛みが分からないのか」
「絨毯が切れるくらいの、丈夫な鋏を持ってきてくれ」
鋏をどうすれば良いのか分からないが、とにかく大急ぎで家から鋏を持ってきた。
「鋏を持ってきたわ。どうしたらいいの?」
「狼のお腹を切るんだよ」
「ええ!?」
「大丈夫。やってごらんよ」
お腹の中にいる兄達をウッカリ切ってしまわないように、そっと鋏を入れた。
ジョキ、ジョキ、ジョキ
お腹の上から下までバッサリ切ると、中から兄達が出てきた。
兄達は声を揃えて言う。
「ありがとう。助かったよ」
「家に帰ってもう一眠りしたいけど」
「もう戻って来ないようにしないとね」
それから意見を出し合った。
「まずは起きた時に僕達が居ないと気付かれないように、お腹を縫わなきゃね」
ずる賢い長男がそう言って家から針と糸を持って来る。
「重たくないと、腹が減って家族を食べに来てしまうから、石でも詰めておこう」
慎重な三男は石を持って来て、狼の空っぽになったお腹に入れていく。
狼はお腹に石を入れられて、切られたお腹をきっちり縫い合わせられた。
兄達と一緒に、近くの木の陰に隠れて様子を見る。
狼は朝日が昇ると、大きなあくびをして起き上がった。
「ふわあああ。ぐえ、まだ腹が重たいな。あの子豚も食べたかったが、また腹が減ってからにするか」
のそりと起き上がると、川に向かってふらつきながら歩いていく。
「三匹は食べ過ぎたかもなあ。喉が渇いて仕方ない。よいしょっと」
バランスが取れなくて、川の水を飲むことが難しいようだ。
「よし、やろう」
じっとしていた、容赦無い次男は、狼の所へ走って行くと、えいやとその背中を蹴った。
「うわ!何を!ぐええ!?お前は食べたはず!た、助けてくれ!」
もちろん助けることはなく、狼は川に沈んでいった。
「さあ、実家で一眠りだ」
四匹は家に着くと、もう一眠り、昼過ぎまでタップリ寝ることにした。
「おはよう!お母さん!寝坊だよ!」
あらあら、本当。ウッカリ寝過ごしたみたい。
部屋の鳩時計は、いつも起きる時間より一時間遅い時間だった。
「お前達、朝ご飯の準備を手伝ってね」
私の言葉に子供達はもちろんと、胸を張る。何てかわいい子ヤギ達でしょう。
朝ご飯を食べて一息つく。何だか、とんでもない夢を見たわ。三匹の子豚の四匹目の妹になって、復讐に来た狼を兄達とやっつけた夢。最近、この辺にも悪い狼がうろついているって聞いたからそんな夢を見たのね。にしても、ヤギの私が子豚になれるなんて、貴重な経験が夢で出来たわ。
「お母さんは食べ物を採ってくるからね。お前達、誰が来ても、決して扉を開けてはいけませんよ」
七匹の子ヤギ達は、元気良く返事をした。
食べ物を採って帰ると、何と家の中は誰もいなくなっていた。
「お母さーん!」
鳩時計から一番下の子ヤギが出てきました。話を聞くと、なんと六匹は狼に丸呑みにされたと。
ああ、丸呑みなら助けられるわ。
私は鋏と針と糸を持って、狼が居眠りをしている川の近くに急ぎました。夢に出てきた兄達のおかげで、子ヤギ達を助けられそうです。
ありがとうございました。