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十月-2

 真央は、家に帰ると、昼食を取り、薬を飲んで、休むことにした。夕方に釣りをするのだ。久しぶりに。

 夏の間は、夏枯れのせいで、全然釣れなかったので、やめてしまっていた。もう十月になったので、釣れ始めてもいい頃だ。

 真央は、布団に横になった。



 ピロン

 

 貴博のスマホにラインのメッセージが来る。


「センセ、十六時半頃に行きます。竿を貸してください」

「もう暗くなるころじゃないか」

「でも、釣れるのはそのころですよね」

「そうかもしれないけど、危なくないかい?」

「気をつけまーす」



 ピロン


 ラインのメッセージが来る。


「センターに着きました」

「今、下に行く。車に竿を積んであるから」


 貴博は、車へ行き、待っている真央に竿と仕掛けとタモ、それからビニールのバケツを渡す。


「釣れたら教えて」

「はーい」


 真央は、竿などを持って岸壁へと向かった。



 十七時半。貴博の終業時間。

 ラインで真央に確認を取る。


「まだいるのかい?」

「まだいます」

「じゃあ待ってて」

「はーい」


 貴博は、車を岸壁に回す。

 車を降りて真央を探すと、まだ竿を振っていた。


「真央、釣れてないのかい?」

「誰に言っているんですか?」


 真央は自信満々に答える。

「見てください。もう、二匹も釣ってます」


 ビニールのバケツを見ると、二十センチオーバーのクロソイが二匹入っていた。


「おー、すごいね。それに、今日は二匹も釣ったの?」

「ええ、竿を返すためにわざわざセンセに降りてきてもらうのもどうかと思ったので、続けていました」

「そっか。ありがとう。それで、今日はまだ釣るのかい?」

「いえ、そろそろ終わりにします」


 と、真央は、リールを巻いて、片付け始めた。


「送っていくかい?」


 貴博が声をかけると、


「いいですか? お願いします」


 と、真央は素直に返事をした。

 貴博は、いつもの真央なら、ここまで素直に受け入れないのに、疲れているのかな、と、想像した。



 貴博は、真央を家まで送り、自分の家に帰った。

 まず、風呂に入り、そして、冷凍チャーハンを半分皿に出す。電子レンジで温めて、それを胃に収めた。

 時間は夜の七時。電話をしてもいいだろうか。

 貴博は、スマホをもって、電話をかけた。


 内藤信二は、恵理子の父であり、医師でもある。小さくもなければ大きくもない病院を経営しており、診察は、普段から夕方まで続く。

 ようやく、ひと段落着いたところで、信二は診察室を出て、執務室へと歩く。

 そこで、スマホが鳴る。

 画面を確認すると、「貴博君」と出ていた。

 信二は、周りを見回し、美佐江がいないことを確認すると、執務室に急いで入り、電話に出た。


「あ、すみません。貴博です。お仕事中でしょうか」

「いや、落ち着いたところだ。どうしたんだ、突然」

「いえ、八月の中旬にあんな形で飛び出してから、連絡を取りづらくなってしまい、お義父さんに謝りたいのと、美佐江と子供はどうしているかなと思い。まずは、話をしやすいお義父さんに電話してみたんです」

「そうか。美佐江も拓人も元気だぞ。あまり気にしなくてもいいんじゃないか?」

「そうですか。ならよかったんですが」

「ですが、とは?」

「えっと、私が飛び出した理由は御存じないですよね?」

「状況から言って、君の知り合いであろう女性、が、倒れて、心配になって飛び出したというところだろう」

「はい。そのとおりです」

「先に私の意見を言わせていただくと、正直複雑だ。美佐江の父としては、美佐江を第一に考えてほしい。しかし、医師としては、君みたいな行動が救う命もあると思っている。だから、私は君を責める気はない」

「ありがとうございます」

 貴博は少しだけ涙ぐむ。

「で、どういう症状なのだ?」

「え?」

「私は医師だぞ。他の病院にかかっている以上、それに口出しをすることはない。だが、君がそこまで心配する理由があるのだろう?」

「はい。実は……」


 貴博は、市立病院の先生から聞いた話を信二に告げた。


「そうか。わかった。その子の面倒は、君だけではなく、仲間で見るということだな」

「はい、そうです」

「なんて、確認を取ったが、医師としてだけではなく自分として思うのは、いかに満足してこの世を去るかということだ。それは、その子のことだけを言っているんじゃない。君のことも言っているんだ。まあ、美佐江は我が強いから、納得しないかもしれない。だが、美佐江を立てれば君が君の人生に後悔を残すだろう。もし君と美佐江が夫婦でい続けようとするのであれば、私は、お互いの気持ちをお互いが尊重し、お互いが我慢するべきだと思う。だが、あの子の父として言う。今はその時ではないな。美佐江のこと、拓人のことは、任せておきなさい。君は君の人生を生きていいと思う。後悔のないように」

「お義父さん。ありがとうございます」


 貴博は、涙声だった。



 信二は、電話を切った後、再び電話をかける。


「久しぶりだな。どうだい、函館市立病院は……。ところで、君の見立てではどうだい? そうか。あと、三、四か月か。それでもよく保ったんだな。君の腕じゃないのかい? 謙遜するなよ……。え、何でって? その子に付き添っている男が、私の義理の息子なんだ。……ふっ。そりゃ、父親としては複雑さ。だけど、君も経験があって、知っているだろう。不謹慎かもしれないが、死に顔が笑顔かそうじゃないか。それが大きな違いだと。特に、患者が若ければ若いほどそう思うな。……ああ、そうだ。私は、私の義理の息子にも、納得する人生を送ってほしいと思っているよ。うん、うん。ああ、よろしく頼むよ。うちの息子の分は、今度おごらせてくれ。それでゆるせ。ああ、またな」


 信二は、はぁ。と、ため息をついた。この間に入るのは、難儀だな、と。まずは、妻を巻き込むか。


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