七月-2
花火大会の日。真央は、朝からセンターへ出勤した。休日出勤ではあるが、自主だ。
土日は作業を減らすためにひかえている水槽の掃除などを行っていく。貴博が出番の仕事を行い、真央が平日に行う仕事を担う。そして、三階での実験やチップ詰めも二人で行った。
六時を過ぎ、ちょっとおなかがすいてきたなぁ。と、窓際の実験テーブルに位置どった真央がおなかをさする。そういえば、これから花火だけど、ご飯、どうするのかな。と。
「よし、今日の実験は終わりっと」
貴博が実験の機械を操作し終って言う。
「さて、石川さん、ちょっと手伝ってくれる? おなかすいたでしょ?」
真央は、コクっとうなずいて立ち上がる。
「じゃあ、下に降りようか」
貴博と真央は連れ立って二階の執務室前にある給湯室に行く。
日曜だというのにポットにお湯が沸いている。
「石川さん、悪いんだけど、焼きそば弁当作って」
と、北海道民定番のカップ焼きそばを渡してくる。
「お祭りと言えば焼きそばでしょ。屋台のじゃなくて悪いけど」
「は、はい」
真央は、ビニールをはがして焼きそば弁当を作り始める。とはいえ、自分で作ったことはない。作り方を読みながらとなる。焼きそば弁当にはスープがついている。
「センセ、スープはどうします?」
「一つにつくって、適当に二つに分けて」
「は、はい」
真央は、何とか作り方を理解し、焼きそば弁当にお湯を注いだ。
「センセは何するんです?」
僕はたこ焼きを温めるよ。ほんとは焼きそばともども屋台で買いたいんだけどね」
と、冷凍たこ焼きをさらに並べて、電子レンジに放り込んだ。
「センセ、炭水化物ばっかりですけど」
「え? たこ焼きの中にはタコが入っているよ?」
「いや、そうですけど」
「でも、お祭りと言えば、焼きそばにたこ焼きじゃん?」
「それは、よくわかりませんから否定もできません」
真央は、焼きそば弁当のスープを作りつつ、お湯を捨てる。そして、ソースを絡めていく。
チンッ
たこ焼きが温め終わったらしい。貴博は、ソースとマヨネーズをかけ、さらにパックの鰹節をかけた。鰹節が踊っていて、冷凍だけど、意外といい感じだ。
「で、センセ、炭水化物ばっかりですけど」
「ふふふ。そんな石川さんに、これだよ」
と、貴博は、冷蔵庫からパックを取り出す。そして、それも電子レンジに放り込む。二分ほど温めると、いい匂いがしてくる。
「こ、これは?」
「そう。これこそラッヒロのチャイニーズチキンだ。焼き鳥にしようと思ったんだけど、函館の肉と言えば、これかなと」
真央は、食べたことがなかった。両親がいたころに食べたことがあったのかわからない。少なくとも、記憶にはなかった。
焼きそばやたこ焼き、ラッキーヒロインのチャイニーズチキンの香り、完全に真央の唾液腺を刺激している。
だが、真央はもう一言いう。
「センセ、野菜がありません」
「そういうと思ったよ。ほら」
と、冷蔵庫から取り出したもの。それは、一日の野菜を取れる野菜ジュースだった。
真央は、意外性をつかれたのと、貴博がちゃんと栄養を考えて……考えているのか? なんにしても、野菜まで用意していることに驚き、思わず笑ってしまう。
「あはははは、センセって、几帳面なのか何なのかわからないですね」
「そう?」
貴博はなぜに笑われたのかわからなかったが、真央の笑顔を自分が作ったことに満足した。
「よし、トレーにのっけて三階に持って行こう。それと、これ」
といって、お茶のペットボトルを二本、冷蔵庫から取り出した。
「センセ、こんなに……」
「今日の石川さんのバイト代。だって、今日、お給料出ないのに働いてもらっちゃったし。それに、全然少ないよね、金額的に」
「いえ、いいんですよ。ごちそうさまです」
「そういうの、食べてからじゃない? それに、カップ焼きそばとか冷凍品とかさ、こっちが申し訳ないくらい」
「私には十分贅沢です」
「さ、行こう」
二人は、三階に上がり、窓際の実験テーブルに食事を並べた。




