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氷の中の遺伝子  作者: ヒオマサユキ
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第一章 魔女の仮面をつけた悪魔  第八話 悪魔と妖精の鬼ごっこ

純白の薄いブラウスに、ベージュのフレアースカート、肩にはチャコールグレーの小さ目のショルダーバッグ、足もとは、飾り気のない白いスニーカー、見た目は、地味だが、どこか、王室で育ったような品を感じる。その姿は、私が生きているすべての欲望に満ち溢れているギラついた街では見ることが出来ない、邪悪な企みを知らない妖精そのものだった。

肩甲骨の少し上まで伸びたストレートの黒髪、顔は、きりっと輪郭が整った美形だが、微かな頬の膨らみに幼さも感じる。その時、私は、彼女が半分でも、私と同じ遺伝子がら創造されていると思うと今まで経験したことがないエクスタシーを感じていた。


ピンク色のベビーカーを押した若い女が彼女の前を通り過ぎて行く。

ベージュのオーバーオールの下にピンクのニット。見るからに幸せそうな奥様だ。

彼女は、モグモグしながらそれに見とれていた。

でも、ベビーカーの中の赤ちゃんには、父親はいるのだろうか。

もし、いたとしても、その男は、本当に、この赤ちゃんの父親だろうか。

彼女もそんなことを考えてるのかな。

だとしたら、やっぱり私達は普通ではない特殊な人間だ。

彼女のモグモグが終わった時には、もうオレンジの日の光が弱くなり始めていた。


やっと、食べ終わった? 

のり弁一つ食べるのにいったい何分かかってるんだよ。

ご丁寧にゴミをコンビニ袋に詰めてた彼女は、立ち上がって両手を真上に突き出して気持ちよさそうに背筋を伸ばした。その気持ち良さそうな彼女を見て、思わず、私も両手を悪魔には縁が無い天へと突き上げた。ベットの上で丸められる事があっても、伸ばされる事はない。丸められて、縮んだ身長が、元に戻った気がした。背伸びが終わったら、もう、彼女はベンチにはいなかった。


あれ、どこ行った? 

あ! いた! 

彼女は、もう道路へと出て行こうとしていた。

食べるの遅いくせに、逃げ足だけは早いんだ。

私は、慌てて、彼女の後を追った。

彼女は来た道を引き返して行く。

え!? そっち行ったら、また、駅だよ。まさか、ここに来たのは、のり弁食べに来ただけ?

彼女の足は止まらなかった。

何でそんなに急ぐのよ! 

イタ! また腰に激痛が走った。


もう、どこ行くのよ? お嬢様のくせにバイト? 

それとも男と待ち合わせ? ないない、それはない。

もし、あるとしたら、あんた騙されてるよ。

今度は急に彼女の男関係が心配になって来た。


オレンジからパープルに変わったトワイライトな駅前。

彼女は、邪悪な権力者から一時、解放された囚人達とともに駅へと吸い込まれて行った。

えっ!? 電車に乗るの?

彼女は、ショルダーバックからスマホを出して改札をスルー。

ちょっと待ってよ! 

魔女のくせに、そんな魔法が使えなかった私は、切符を買わないといけなかった。

どこまで買ったらいいの!?

取り合えず、一番安い切符を買って改札に走った。

勿論、彼女の姿はどにもなかった。

巻かれたか。

あー せっかく会えたのになぁー もう!

諦めた私は仕方なく魔女の国に向かう電車の飛び乗った。


夕方の満員電車。

囚人臭が充満したその車内で、駅に止まる度に私は奥へと押し込まれて行った。

ふと、下を見ると、不気味な薄笑いを浮かべた女囚が座っていた。

その姿に、私は鑑別所に向かう護送車を思い出した。

護送車の中で向かい合って座っていた子は、虐待されていた親をバットで殺した中学生だった。

今でも、その子の「やってやった」と言った清々しい表情は、忘れる事はない。

きっと、この女囚も今日、誰かを、やってやったんだろう。

魔女の国に着いて、放り出されるように、電車から解放された瞬間、また、あの妖精の吐息がした。

輝く黒髪が人混みの中で見え隠れいている。

私は、また、その黒髪を追った。

でも、案の定、改札から出られなくなった私は、追加のコインを払ってやったと駅を出たら、街は、もうすっかりと魔女の色に怪しく光輝いていた。

これも、案の定、もう、どこにも彼女の姿はなかった。

その時、また、どこからか、妖精の吐息が聞こえた。

えっ? まさか、待ていてくれたの?

周りを見渡すと、彼女が、囚人達の流れに逆らうかのように足早に歩いて行のが見えた。

今度こそ見失うわけにはいかない。

私は、腰の痛みを忘れて必死に彼女を追った。

私達は、前世で繋がっている。

この時、私は、そう確信していた。


また、コンビニ? 

彼女は、雑誌を立ち読み。

何の雑誌だろう? と、思わず近づいていまった。

ヤバ! 

でも、ちょっと、待って、そうか、彼女は、私の顔、知らないかも。

あのお別れの会の時も、ずっとうつむいたままだったし。

やっと、その時それに気がついて、一か八かと、恐る恐る私は、雑誌を読む彼女に近づいて雑誌をのぞき込んだ。

アニメか・・・

私の気配に気がついて、いきなり、彼女が振り向いた。

目が合った。

私は、作り笑顔で頭を下げた。

彼女は、涼し気な目をして私を見つめた。

野良猫に見つめられた様な、そのツンデレな誘惑に、私は、思わず、甘い吐息を漏らしてしまった。

そして、彼女は、心が悶え始めた私を置いて外に。


今度は、どこ?

彼女の小さな背中を追う私。

それは、まるで、魔女に変身する前の純真無垢だった頃にした鬼ごっこのようだった。

私は、鬼。

さあ、逃げて!


えっ? ゲーセン?

彼女は、JKやカップル達の中をウロウロするばかりだった。

何、してるの?

その姿は、何か寂しげだった。

そうか、彼女も一人ぼっちになったんだ・・・

やっと、彼女は、黄色いクマが並んだUFOキャッチャーの前で立ち止まった。

彼女は、ショルダーバックからピンクの財を出して、シルバーのコインを投入口へ。

エレトリカルな軽快な音楽とともにクレーンが動き出した。

と、彼女は「ここでいいの?」と言った表情で私を見た。

思わず、私は、首を振った。

また、エレトリカルな軽快な音楽とともにクレーンが動き出した。

また、彼女は「ここでいいの?」と言った表情で私を見た。

私は、うなずいた。

ゆっくりとアームが降りて行く。

私と彼女は、それを息を吞んで見つめていた。

アームが黄色いクマの大きな頭を掴んで持ち上げた瞬間、黄色いクマは仲間の中に戻って行った。

残念そうな顔をして彼女が、また、私を見た。

私も残念そうな顔をして見返した。


また、やるの?

また、彼女は、財布からコインを出した。

また、エレトリカルな軽快な音楽とともにクレーンが動き出した。

と、また、彼女は、私に、「ここでいいの?」と言った表情をした。

また、私は、首を振った。

軽快な音楽とともにクレーンが動き出した。

また、彼女は、私に、「ここでいいの?」と言った表情をした。

私は、うなずいた。

ゆっくりとアームが降りて行く。

また、黄色いクマは仲間の中に戻って行った。

また、残念。

この時、このゲームが「また」の繰り返しだった今までの私の人生の様に思えた。


えっ!? また、やるの?

そんなに、黄色いクマが好きなの?

お金持ちなんだから、買いなよ。

見かねた私は、恐る恐る彼女に近づいて行った。

彼女は不思議そうな顔で私を見つめていた。

今度は、私が血の色の財布からコインを出た。


やんなよ。

彼女が、うなずいた。

エレトリカルな軽快な音楽とともにクレーンが動き出した。

また、彼女は「ここでいいの?」と言った表情で私を見た。

私は、うなずいた。

ゆっくりとアームが降りて行く。

私と彼女は、それを生唾を吞んで見つめていた。

今度はアームが黄色いクマの胴体をしっかりと掴んだ。

取れたかも!?

期待に胸を膨らませた私達は、見つめ合っていた。

遂に、黄色いクマは仲間のもとには戻れなかった。

やったー!

思わず、私達は、飛び跳ねて喜んだ。

と、彼女は我に返ったように私を見つめた。


「誰?」

賑やかな店内の中、私達は、無言で見つめ合っていた。

気がついたら私は彼女の白いマシュマロの様な柔らかい手を握っていた。

「撮ろ!」

私は、彼女の手を引いてプリクラに入った。

画面に映った、悪魔と妖精。

「ほら 笑って! 笑顔 笑顔!」

フラッシュライトの強い光が邪悪な悪魔と悲しき妖精に降り注いだ。

それは、半分同じの受精卵が出会った瞬間だった。







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