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氷の中の遺伝子  作者: ヒオマサユキ
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第一章 魔女の仮面をつけた悪魔  第七話 妖精の吐息

「エルさん ご指名です」

ここに、二つの都市伝説がある。

一つ目は、この魔女の館で本名を使うと一生このラビリンスから出らないと言うこと。

そして、二つ目は、人の魂が、最初に人に入るのは、卵子が精子と出会って生まれた受精卵で、その魂は、前世の魂だと言うこと。

私の魂は、魔女狩りで処刑された売春婦の魂。

とすれば、私の呪われたこの人生は、受精卵の時から既に決まっていた事になる。

もし、これが真実なら、これからも、マゾヒスティックな悦楽を楽しんで暮らせて、今までのサディスティックな人生を前世のせいに出来る。

もし、これが幻想なら、水死体の財宝を手にしたら身も心も寄生虫だけのになれて、これからの人生は、前世からの運命に逆らって生きて行く事が出来る。

真実か幻想か。

この時、私の魂の中で、この二つの感情が一進一退の戦いを繰り返していた。


彼女に会いたい。

半分同じ遺伝子から出来ていても、きっと、お互いの前世は違うはず。

だから他人。

気兼ねなく、恋愛する事も肉体を重ね合うことだって出来る。

人間の心は、雌雄同体だと私は思っている。その証拠に、女が女を愛して、男が男を愛する世の中になったではないか。アダムとイブも今なら幸せに暮らせていたかも知れない。

会いたい・・・・ 

居ても立っても居られなくなった私は、天使に電話をした。

「そのお嬢様って どう言う人ですか?」

「女子大に通っておられるそうですが 申し訳ございませんが守秘義務がありまして これ以上のことは・・・」

「連絡って とれますか?」

「はい でも それは 相手側の弁護士を通さないと・・・」

「じゃあ その弁護士さんに 私が会って話がしたいって言ってるって 伝えてもらえますか?」

「あっ はい・・・ お伝えする事は可能ですが 普通 こう言ったケースですと会って頂けなと思いますが・・・」

「でも 一応 伝えて頂けますか?」

「承知しました お伝えしておきます」

「ありがとうございます 宜しくお願いします」

私には、彼女に会えると言う確信があった。

それは、前世で繋がっていると悪魔が囁いているからだった。

「それはそうと エルさん 山の手の家と別荘の不動産とお車なんですが 相続する上で売却した方が良いと思います これは相手側の弁護士と一致した意見です 相続しても維持費は相当な額になりますから また 考えておいて下さい」

そんな事は、どうでもよかった。

ただ、私は、彼女に会いたいだけだった。

それに、水死体の彼の思念が入っているものなど貰う気もなかった。

きっと、家は幽霊がでるだろうし、車は事故を起こすだろう。

「はい 私も いらないです 貰ったら呪われそうなんで」

「えっ?」

さまざまな修羅場をくぐり抜けて来た、やり手の弁護士が言葉を詰まらせた。

どうやら、こんなスピリチュアルな言葉を言った依頼人は私が初めてだっのだろう。

「で その人 何て言う名前なんですか? それも 守秘義務ですか?」

「はい 申し訳ございません・・・」

謎が深まれば深まるほど、彼女に対する感情が強くなった。

この感情は、あの寄生虫に恋をした純白無垢な処女の頃と同じだった。

その感情に、まだ、私も乙女の心が残っている事に気がついて、ほんの少し幸せを感じていた。


一週間が経っても、天使からの連絡はなかった。

彼女への私の感情は、少しずつ会いたいから愛したいに変わって行った。

もう、この衝動は、抑えきれなくなっていた。

気がついたら、私は、山の手の駅に降り立っていた。

昼下がりの静かな駅の改札を出た時、どこからか、神に抱き締められた妖精が漏らした吐息のような官能的な声が聞こえた。

思わず、私は、周りを見渡した。

と、見覚えのある長い黒髪が囚人達の中で見え隠れしていた。

えっ!? まさか・・・

私は、囚人達に邪魔されて、見失いながらも、その長い黒髪を追い続けた。

痛い・・・ エロ坊主に、有り得ない方向にねじ曲げられた腰がまだ痛む。

そして、まもなく、妖精は、コンビニに入った。

もう、袋の中のネズミ。

捕まえた。

私は、彼女に気づかれないようにラックに隠れて監視。

これって、ストーカーかな?

妖精はお弁当を選んでいた。

手に取って眺めてはまた戻す、それを繰り返していた。

何に食べるか迷ってるの?

チキン南蛮? あー返しちゃった。

唐揚げ? それも違うか!

サラダ? 太るから、それにしちゃいな。何で戻す?

ロースかつ弁当? それカロリー高過ぎだよ! そうそう止めちゃいな。

結局、のり弁か・・・

栄養のバランスが悪いからサラダも買いなよ。

何だ買わないの? もう!

そうそうウーロン茶にしな。

なんで、コーラにする!?

私は、やきもきしながらこの風変わりや妖精の買い物を見ていた。妖精は、財布からお金を出そうといて小銭を落として慌ててる。

ドジな妖精。でも、何か可愛い。

コンビニから出た妖精の足は意外と早かった。

そんなにお腹減ってたの? 

お金持ちなんだから、もっと、高級な物、食べようよ。

でも、これで家が分かるかも・・・

暫くしたら、妖精は、公園に入った。

オシッコ? 家まで我慢出来ない?

妖精は、ベンチに座った。

私は木陰に隠れたて監視。やっぱ、ストーカー。

おもむろに妖精は、コンビニ袋からのり弁を取り出してペットボトルのコーラをラッパ飲み。

えっ!? ここで食べるの? 家に、帰らないの?

おかずを少し口に入れて、モグモグ。ご飯を少し口に入れて、モグモグ。

辺りを眺めて、コーラを飲んで、また、モグモグ。

妖精はそれを繰り返していた。

やっぱ、お嬢様、イライラする。


もう、赤く大きくなった太陽は、ビルの谷間に落ちかけていた。

長く伸びたオレンジ色の光が、羽を失ったティンカー・ベルを照らし出しいた。








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