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氷の中の遺伝子  作者: ヒオマサユキ
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第一章 魔女の仮面をつけた悪魔  第六話 悪魔の初恋

身体に染みついた線香の香りが漂うタクシーの車内。

エロ坊主は、水死体の彼の霊を鎮めるのには、丁度いい相手だった。

私は、窓から白々と夜が明けて行く街を眺めていた。

まばらに灯るマンションの部屋の灯り。

きっと、その一つ一つに、普通の父親と普通の母親がいる家族が住んでる。父親はリビングで新聞を広げて、母親は、キッチンでフライパンで目玉焼きを焼いていて、子供達は洗面所で歯磨き。

私は、そんな縁がない普通の家族を妄想していた。

でも、普通って、なんだろう?

遠くの工場の長い煙突からモクモク出た白い煙が風になびいていた。

もう、私は、白くなれないのかな。

私は油絵になりたい。

油絵だったら黒く塗られたキャンバスも時間が経って乾いたら上から白い絵の具を塗ることが出来る。

でも、私は水彩画。

黒の上に白い絵の具を塗ったらにじんで灰色になるだけだ。


エロ坊主から貰った馬車代を節約して駅前で降りた時には、もう、街はすっかり起きていた。

囚人服を着せられた哀れな凡人達が、邪悪な権力者に拘束される為に駅に吸い込まれて行く。

これが、本来の人間の姿だろうか。

生き物としての本能のままに生きている私の方が、ずっと、人間らしい。私は、そんな優越感に浸っていた。

余ったお金でコンビニで、成虫になれずに幼虫のまま生きて来た寄生虫が、大好きなハンバーグ弁当を買った。

学校へと急ぐ小学生達に追い越され行く。

遅刻の心配のない私は、また、優越感に浸っていた。


私達が住む馬小屋は、不動産屋の説明では駅まで徒歩8分。でも、実際に、歩いてみると、15分は、かかった。その日は、エロ坊主の責めが激しかったせいで、足が重く20分かかってしまった。例よって、コンコンコンと錆びた金属の階段を昇る足音が早朝の街に響く。この階段を、上る足音は部屋の中からでも聞こえる。その音色で履いている靴がわかる。良く言えば、ここは、セキュリティーに万全の馬小屋だった。


あれ、鍵かかってない。居るんだ。

と、私は、血の色をしたドアを開けた。

「いるのー?」

返事がなかった。

爆睡かな?

キッチンのテーブルの上にコンビニ袋を置いて寝室を覗いた。

ベットは抜け殻だった。

トイレ? コンコン。

「いるのー?」

返事がなかった。

「もう!また 鍵かけないで出て行ったな!」

お坊ちゃま育ちの寄生虫には、鍵をかけると言った習慣がなかった。取られるものと言ったら、私の下着ぐらいだけから、まあいいんだけど。でも、勝手に誰かが入って来てレイプされちゃたらどうするの。それも刺激的かな。そんなポルノチックなストーリーを妄想しながらバスルームを覗いた。

小さなバスタブに、丸まった寄生虫が浮かんでいた。

「どうしたの!」

動かない。ヤバ!

「ねえ どうしたの!? 大丈夫?」

動かない。

私は軽々と彼の白くやせ細った冷たい身体を抱っこしてベットに寝かせてスマホを手に取った。

私らしくもなく、119と押す指が震えた。

やがて、赤い十字架の馬車がサイレンを鳴らしてやった来た。

担架に乗せられた寄生虫。

それを見て、やっぱ、こいつも人間だったんだと思った。

この時、寄生虫は標本になりかけいた。


数時間後。

白い清潔な病室に、居心地が悪るかったのか寄生虫が目を覚ました。

標本になるには、少し早かったようだった。

「大丈夫?」

「う うん 死んで欲しかった?」

標本になりそこねた寄生虫にイヤミを言われた。

「バカ! 店に戻ったの?」

「それしたとりえがないから・・・」

「私 戻ったら死ぬって言ったよね!」

「いつまでも エルに寄生してられないし・・・」

そう呟いた寄生虫は、私を弱々し眼差しで見つめて、また深い眠りに落ちて行った。

まだ、寄生虫には父親が水死体になったとは言ってはいない。

勿論、遺産のことも。それは、まだ、10億円がスクリーンの中のフィクションだと思っていたからだった。

それが証拠に私は、何時ものように寄生虫を飼うために身体を売ってしまっていた。

「ゴメン・・・」

つい、彼の寝顔に呟いてしまった。

それは、いままで、寄生虫に言えなかった言葉だった。

久しぶりに涙が出て来た。


私の初恋は小学3年の時。

その相手が、まだ、人間の姿をしていた、この寄生虫だった。

私がイジメられているのを見て、助けてあげられなくてごめんなさいと謝るような弱々しい彼の眼差しに私は恋した。

さっきの眼差しはあの頃のままだった。

今、初恋の人と一緒にいる。

何て、幸せなんだろう。

私が身体を売るのは彼と一緒にいたいから。

家賃、食費、電気、水道、ガス、携帯料金、魔女の館までの交通費、彼の医療費とお小遣い、私の美容院代、最低限、高校中退の私一人でこれだけ稼がないと彼と生活出来ない。

だから、ムチやロウソクも我慢できる。

でも、心だけは売ってはいない。

心は彼だけのもの。

これが、究極の愛と言うものだろうか。

身体も彼だけのものになるには、水死体に呪われること。

呪い殺される時は彼を道ずれにしよう。

今度、生まれ変わったら、きっと、私は、カマキリで、彼は、そのカマキリに寄生している

ハリガネムシだろう。

もう、人間には、生まれ変わりたくなかった。












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