第一章 魔女の仮面をつけた悪魔 第三話 お花畑の中の悪魔
24色の輝きに彩られた魔女と哀れな男達が集う迷宮のラビリンス。
その夜は、不思議とそれが36色に見えた。
どうやら、水死体に魔法にかけられたようだった。
その下弦の月の夜も、私は、寄生虫と生きて行く為に男達に呪文を唱えていた。
呪文にかかり金を出す男達。
その快感に心が悶える。
これは、魔女にしかわからないエクスタシーだ。
その男達の哀れな顔を眺めながら、私の頭の中に、あの天使が言った言葉がぐるぐると円を描いていた。
非嫡出子・・・非ってなんだろう。
ググってみた。
非とは、道理に反すること。
正しくないこと。
誤り。
私は、誤って生まれて来たのだろうか。
私は、正しい人間ではないのだろうか。
道理の反すること。それは、無理。
私は、無理やり生まれて来たのだろうか。
呪文にかかった王様が囁く。
それは、拷問の審判。
それは、肉体を交じり合わせるだけよりも高額な取引。
私は、王様のサディスティックな性欲むき出しの目を見つめてトイレへ。
そこは、自分と向き合える束の間の空間。
何時も、鏡に映った、魔女の顔を見つめて、「これで、いいんだよね」と自分に問いかける。
そして、氷の様に冷たい唇に血の色のルージュを塗る。
これが、拷問へ向かう時の私のルーティン。
トイレから出た私に別の異世界から来ていた魔女が囁いた。
「あんた ここは風俗じゃないんだからね 迷惑な事しないでくる? ママに言ってもいいんだけど」
どうやら私は、ここでも「非」らしい。
拷問部屋へと向かう馬車の窓から眺める深夜の歓楽街。
金銭欲にまみれた魔女達と性欲にまみれた男達が狂乱の夜を過ごす36色のクレパスの街が飛ぶように過ぎて行く。
本能呼び覚ますようなブルードゥシャネルとコルベール・ナポレオンが混じりあった甘美なフェロモンの香りと脂ぎった王様の加齢臭が交じり合った車内。
この王様、自分の城では妃と姫に邪魔者扱いされているらしい。
何時も、その怒りを私に吐き出していた。
やがて、馬車は、拷問部屋がある、けばけばしく輝くイミテーションのシンデレラ城の門の前に止まった。ここで私は、寄生虫に養う日銭を稼ぐ為に拷問を受ける。それは、何時もの事。それまで、それが、私の快感でもあった。
でも、その夜はちょっと違っていた。
何か哀しい気分だった。
それは、目の前に黄金がぶら下がったいるのに取る勇気がない哀れな自分に対しての哀しみだった。呪われる勇気さえあれば、こんな事をしなくてもよかったはず。身体を貪られ、ムチを打たれながら涙が止まらなかった。その涙が、いっそうサディスティックな哀れな大王を燃え上がらせた。痛い、痛い、痛い・・・
私が痛みに耐える事に快感を感じる様になったてから随分の月日がたつ。
母親、学校の先生、同級生、上級生、下級生、彼氏、そして、すべての凡人。
そのすべてが私の敵だった。
叩かれ、殴られ、蹴られ、水をかけられ、髪を切られ、焼かれ、罵倒ばとうされ、そして犯された。でも、死にたいとは思わなかった。
それは、自分にも幸せな未来が必ず来ると暗示をかけていたからだ。
この地獄を耐える暗示、この地獄を天国に変える暗示を。
切れかかった街灯の灯りがチカチカとしていた。
それは、まるで、私と寄生虫の命のようだった。
夜明け前の寒い時間。
私は、錆びた鉄で出来た階段を痛みをこらえて登っていた。
私のヒールが鉄を打つ音。それが静寂の街に響いていた。
その時、急に、私は、水死体の顔が見たくなった。
お別れの会・・・
確か、明日・・・
いや、もう、今日・・・
2階の一番隅の部屋。
そこが、不定期に私の叫び声のような喘ぎ声が響く馬小屋だ。
日本人の先祖が源氏と平家のどちらかの様に必ずサドかマゾのどちらかだと思う。
このアパートの住人達もそのどちらか。だから、私はこれを迷惑行為だとは思ってない。
むしろ、住人達の本能を呼び覚ましてあげているボランティア活動だと思っている。
寝室に入るとベットの上で、私の寄生虫が、薄く黒いモーフの中で丸まっていた。
寄生虫は、拷問に耐えた私のフェロモンの香りに気がついたて目を覚ました。
「遅かったね?」
「うん」
「何してたの?」
「何にも」
「ふーん」
「ちょっと 寝て出て行くから」
「そう 気をつけてね」
と言って、また、丸まって安全な蓑ミノの中にもぐり込んだ。
「気をつけてね」
その言葉に罪悪感を感じた。
なぜなら、ムチ打ちされた傷が癒えるまで寄生虫のものにはなれなかったからだ。
ばれるのが怖かった。
これは、ほんの少し私に残っている凡人の心。
何時もの様に、冷たいシャワーでシンデレラ城では落としきれなかった生臭い王様の匂いを洗い流す。
胸、背中、太ももの傷に、激痛が走る。
それまで、それが、快感だった。
しかし、その日は、なぜか、冷たい水と一緒に、温かい涙が零れ落ちていた。
なぜ?
太陽が雲に隠れるの待って、私は水死体の彼が葬られているホテルに入った。
お別れの会。
その時の私にとっみたら、それは、お楽しみの会だった。
彼は、私と似ているのだろうか。
鼻 目 口 耳。
この時は、そんな幼稚な気分だった。
づづ黒い血の色にも似たワインレッドの分厚いドアを開けるとに入ると目の前にお花畑が広がった。
その色とりどりの花の中に彼の写真が飾ってあった。
この人なんだ・・・ 意外と若かった。
まあ、こんな時の写真は信用できない。
そんなお花畑の横に、黒いワンピースを着た長い黒髪の若い女が、悲しそうに、うつむいて立っていた。
奥さん?
いや、確か、天使は、彼には、奥さんはいないと言っていた。
彼女?
でも、その女からは、私と同類の魔女の匂いはしなかった。
ふと、気がついて周りを見渡すと、このお楽しみの会は彼女と二人きりだった。
なぜ?