第四話 奪還奪取作戦
「ん、あそこが帝国か。いかにもって感じだな」
アランたちの乗るヘリの前方、そこには巨大な山脈があり暗雲が立ち込め、雷と時折空が赤く染まっているのが確認できた。
「わーお、誰か指輪持ってきてるかぁ?」
ジャックが軽く冗談を言う。
「あ、ジャック。地味にあの山脈奥の火山は本当にその熱で精錬所としても使われてるらしいよ。結構なレアメタルが取れるってさ」
ギークが自前のパソコンで情報を探っている。
「ほー、それじゃまさにあそこはモルドールって訳だな。面白そうだぜぃ」
アラン一行は、バル・ヴェルデへ向かう・・・
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一方、バル・ヴェルデ帝国では・・・
「テルミナートル」
「テルミナートル」
「フェロンとベルクートか、この俺に何か用か?」
そこには2人の幹部がいた。こいつらは実質2人で帝国のナンバー2を務めている。フェロンとベルクート、帝国最強と呼ばれる存在だ。
「・・・そう怖い顔するな」
「俺たちは認めている」
「しかし今回のプリティストは強い」
「だからおまえの力が要る」
「お前には知る権利が出来た」
「だからコレを渡す、そしてお前が使う事を許可する」
2人はテルミナートルに試験管のようなアイテムを渡した。
「ドロイドローン?なぜ今更だ?」
渡したのは無機物をドロイドローンに変える為のアイテムだ。しかし、今渡されたのは少し感じが違った。
「これは今のプリティストの能力から作り出したドロイドローン」
「ドロイドローンは進化する」
「我らが無敗の理由は永久進化するこいつのおかげだ」
「こいつならば負けない、こいつならばお前は奴らを倒せる」
テルミナートルはそれを握りしめた。
「ふん!!良かろう!!今度こそプリティストを終わらせ、アンデルセン合衆国を絶望に叩き落としてくれるわッッッ!!」
テルミナートルは強い足取りでアランたちの元へと歩き出した。
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そしてその頃、アランことプリティスト・コマンダーの乗るヘリはバル・ヴェルデ帝国領域内へと踏み入った。
「わーお、こりゃモルドールというよりムスタファーだなこりゃ」
帝国の地表はほぼ全てが溶岩で覆われていた。そしてあちこちからそびえ立つ火山、その火山の中腹に様々な建造物のようなものが立ち並ぶ。
「あの建物は、どうやってこの溶岩を防いでるんだ?ん?あ、あいつは・・・」
パイロットがある事に気がついた。
「テルミナートルか、気がついて出てきたって感じか?」
テルミナートルはヘリに向かってニヤリと笑い、溶岩流にドロイドローンのビンを投げ込んだ。
「またあれか・・・すぐに終わらせて・・・んっ!?違うっ!!緊急回避!!」
パイロットはすぐに今回の敵が今までと違う事に気がついて咄嗟に操縦桿を操作した。
アランたちのいた所に無数の火の玉がばら撒かれる。
「おいおいおいおい!!なんでぇありゃぁっ!!!」
「何だか少し前にも見た事あるかも・・・アレに俺たちは殺された」
ガンナーとギークは火の玉を撃ってきた正体を見た。
「あれは・・・戦闘機!溶岩で出来た戦闘機だっっ!!!」
コマンダーが叫ぶとドロイドローンは飛び立った。赤く輝く溶岩から生まれた戦闘機、そいつは真っ直ぐヘリへと向かった。
「くっ!!まさかまた戦闘機とは!!しかし何故奴らが戦闘機をっ!!」
「パイロット!!機体を捨てるぞ!!上空での戦闘はむしろこの姿で戦った方が有利だ!!」
コマンダーの指示で全員ドアの外に立った。
「今だ!!飛べっ!!」
全員自前の武器を持ち、飛び出した。
しかし、その時だった。
「あ、あれ?あのドロイドローンは?」
どこを見渡してもあの溶岩の戦闘機はどこにも見当たらない。
「罠・・・いや、テルミナートルの奴・・・脳筋だと思ったんだがな」
真下にはテルミナートルが剣を抜いて待っていた。4人はテルミナートルの前に降り立った。
「久方ぶりだな、プリティースター・・・俺のメッセージが伝わったようで何よりだ」
「ふん、お前意外とパンチョと気が合うかもな、しかし、4対1の真っ向勝負でいいのか?」
コマンダーがテルミナートルに聞き返す。
「構わんだろ、何故なら俺は既に・・・貴様らを、超えたのだからなぁぁぁッッッ!!!」
テルミナートルの両手には突然トンプソン機関銃が二丁握られた。
『ズガガガァンガガガガッッッッ!!!!!』
「うおっ!!剣で来るんじゃないのか!?」
コマンダーは咄嗟に岩に隠れた。
「貴様らも銃ならば、俺も銃を使う!!それこそフェア精神と言うものだ!!」
「違ぇねぇっ!!けどよ!!接近戦ならば肉弾戦の方が強いんだぜぃっ!!うらぁ!!」
ガンナーが隙を突いて接近戦に持って行った。ガンナーの長い脚がテルミナートルを襲う。
『ガッ!!!』
「んっ!?」
「言った筈だ、俺はお前たちを超えたと・・・そしてぇぇっ!!!この俺はぁぁぁぁっ!!あらゆる生命をも!遂に超越したのだぁぁぁぁっっっ!!!」
テルミナートルはガンナーの足を掴み、投げ捨てた。
「あ・・・」
そしてガンナーは溶岩流の流れる谷底へ落ちていった。
「まずは1人・・・」
「ジャック!!」
コマンダーはガンナーの後を追おうとしたが、テルミナートルが立ち塞がった。
「おっと、追いかけるのはまだ早い。この俺が直々に貴様らをこの奈落へと落とさねばならんのでな」
「くっ!!」
プリティストは戦った。しかし、どう言うわけか全ての攻撃がテルミナートルには通用しない。
「2人目!!3人目!!」
パイロットもギークも、テルミナートルの前に手も足も出なかった。
「そして、後1人・・・残るは貴様だ、プリティスト・コマンダー」
コマンダーに対してテルミナートルは、今度こそ剣を握った。それに対し、コマンダーはコンバットナイフを握る。
「行くぞ・・・」
互いに一気に踏み出した。ナイフと剣がぶつかり合いせめぎ合う。
「くっ!!」
「ふんっ!!なまっちょろいぞ!!貴様らの戦闘データはこの俺に全てインプットされているのだ!!アランよ!!つまり貴様ら攻撃力は凄まじかった!!しかぁし!!我々はそれを体験し、乗り越えた!!つまり!!貴様らは我々に力を与えてしまったのだ!!」
「ぅうおおあああああああっっっ!!!!」
テルミナートルの蹴りはコマンダーの身体を大きく吹き飛ばし、コマンダーは崖ギリギリに捕まる。
「勝負ありだ。さて、この映像は合衆国に送るとしよう。そして国民に対してアピールするのだ。頼みの希望は潰えたと。そして今度こそ我ら帝国が、貴様らの国を手に入れると!!」
バギッ!!
テルミナートルが地面を軽く蹴ると、コマンダーの捕まっていた岩が崩れ、コマンダーはなす術なく下の溶岩に真っ逆さまに落ちた。
「よくやったテルミナートル」
「褒めて遣わすと陛下から言葉があったぞ」
崖の下を覗くテルミナートルの後ろにフェロンとベルクートが現れた。
「それは、是非とも陛下の口から聞きたかったものだな」
「そうか、それならば陛下からの命令だ。我々バル・ヴェルデ帝国は領域内に侵入した敵に対する報復として、大統領の娘の処刑を行う」
フェロンがテルミナートルの肩を叩く。
「急だな、いつからだ?」
「今からだ、立ち会え」
ベルクートが合わせるように答えた。
帝国の処刑台、そこには大統領の娘のパンチョが拘束され口を塞がれていた。しかし、その表情は怯えているのがよく分かる。その様子を処刑台の前に置かれたカメラが撮っていた。
「残念だったな、貴様の救助は何処にもいないぞ?俺が倒したのだからな」
「・・・・・」
「何とか言ったらどうだ?」
ベルクートがパンチョに問いかけるが、パンチョは無言でただ睨むだけだ。
「無理だろう、俺がこいつを攫う時こいつには徹底的な恐怖を与えておいたからな。今や俺を見るだけで声は出なくなる」
「ふっ、テルミナートルよ、帝国の幹部たる心得をよく知っているな」
珍しくフェロンが笑う。
「しかし、まだ甘い・・・徹底的な恐怖とはこうやって見せるんだ」
フェロンは突然、サブマシンガン、マック10を持ち出した。
『バラララララララララララララッッッ!!』
そしてこの様子を見せびらかすように、スライドストップがかかるまで全弾パンチョに撃ち込まれた。パンチョはそのまま力尽きてしまった。
「さぁ、次は合衆国・・・ん?テルミナートル、ベルクートは何処に行った?」
フェロンはある事に気がつく、ベルクートがいない。
「トイレじゃないのか?」
「そんな訳ないだろ・・・?」
フェロンは気がついた、フェロンとベルクートは双子の兄弟と言っても良いほどの間柄だ。だからこそ気がついたのだ、この倒れてる死体にフェロンでしか気が付かない身体の特徴に、ベルクートには左手に僅かな切り傷の痕がある。この死体にもそれがあるのを見つけた。
フェロンは恐る恐る死体に近づいて、更に気がつく。首元に何かある。フェロンはそれを摘むと一気に引き剥がした。そこにはベルクートの死体があったのだ。
「あああああああああああっっっっ!!!!!!」
ようやく気がついた、フェロンが殺したのはベルクートであると、そして・・・
「ん〜、イピカイエ〜ってね、舐めてるからこうなるんだ、ざまぁみろ〜ね
ある物を持って走るのはベルクート、だが、ベルクートは一気に顔のマスクを外した。そこから現れたのはパンチョが変身した姿、プリティスト・セクスィーだった。
「聞こえる〜?任務完了、最新式ドロイドローンのサンプルが手に入ったよ〜」
『あぁ、聞こえてる。座標まで3、2、1、今!!』
セクスィーが外へと飛び上がる瞬間、崖の下から再びヘリが現れた。そしてセクスィーはそのヘリに飛び乗る。
一方、フェロンとテルミナートルは
「テルミナートル!!奴らを追うのだ!!」
「残念だがそれは出来んな、追うとなると今の状況ではまだ追い付いてしまうからな。貴様の実力は俺も買っている、だからこそここで足止めをしなければな・・・」
テルミナートルはトンプソンをフェロンへと向けた。
「何を言って・・・まさか、裏切ったのか?」
「どうかな?裏切り者はあんたの筈だフェロン」
「くっ!!!」
フェロンはテルミナートルを差し置いてプリティストたちの跡を追おうとした。
「ふんっ!!貴様にはどうやら騎士道精神はないらしいなっ!!それともこの俺の裏切り以上に奴の手に渡った者が必要か!?」
テルミナートルはフェロンの前に立ちはだかる。
「・・・どうやら、貴様を殺して進む方が早そうだ」
「出来るかな?この俺は既に貴様をも上回る力を得たのだ」
「思い上がるな、その程度でいい気になるな。だが、そろそろ良いだろう。力の完成は、もう目の前だ」
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プリティスト一行
「どぅりゃっせぃいいいいいっっっ!!なんじゃこいつら!!どっから湧き出てきやがるってんでぃ!!」
迫り来る空飛ぶドロ=ドロイドの大群に追われていた。それをガンナーやコマンダーたちが機銃で掃射していた。
「う〜ん、どうにもこいつが盗られるのは相当嫌みたいだねぇ〜。あ、ボブ、これちょいと解析しといて、もしかしたらその技術、俺たちに転用可能かもしれないからね〜」
セクスィーはギークにドロイドローンのサンプルを渡す。
「分かった!!けど、これ流石にヤバくない!?またヘリ落とされちゃうよ!!」
「あれ?お前そんなキャラだっけ?まぁいいや、大丈夫さ、テルミナートルは俺の味方になった、彼が時間稼ぎをしてくれる」
「テルミナートルが?ほー、確かにお前とは気が合いそうとは思ったがな。しかしパンチョ、どうすんだ?あれ」
コマンダーが窓の下を指差した。そこには地面に倒れるテルミナートルとこっちを睨むフェロンがいる。
「あれ〜!?あいつそこまで強かったの〜!?ベルクート殺したの根にもってるんかなぁ〜」
「絶対に逃がさん!!」
『ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!』
フェロンは謎の触手をヘリコプターまで伸ばして巻きつけた。
「なっ!!?機体が軋んでる!!何つーパワーだ!!」
掴んだ触手はヘリをミシミシと音を立てて潰そうとしている。
「まずいぞ、このままでは!!」
「この谷底で燃え尽きろぉぉ!!!」
『ボゴオオオオンッ!!!!』
「くっ!!?」
機体が落とされる、その寸前の出来事だった。触手が大爆発を起こし、ヘリは正常な体勢に戻った。
「ぶぅあああああか者がぁあああああ!!!この程度でやられる俺ではなぃわぁああああああ!!」
「テルミナートル!?」
それは、倒れていたテルミナートルが触手に向かって手榴弾を投げていた。
「くそ!!離せぃ!!」
テルミナートルはフェロンの足を掴んで離さない。
「プリティースター!!よく聞いておけ!!皇帝陛下は存在しない!!俺が支えるべき主人はとっくに消えていた!!しかぁぁし!!俺は帝国に忠誠を誓う身!!この国の為に戦うと誓った!!こいつの野望の為ではないいいい!!
癪だが!!お前らに頼みがある!!フェロンを倒せっっ!こいつは!!!!」
『バァァァァンッ!!』
テルミナートルが何かを言う前にフェロンが頭に銃を撃ち込んだ。
「五月蝿い、だがこれで!!っ!?」
フェロンはある事に気がついた、既にテルミナートルはフェロンを止める為に手を打っていたのだ、全身に巻かれた手榴弾。その安全ピンが一斉に外されていた。
「しまっ!!?」
その直後に起こったのはテルミナートルのいたところ全てが吹き飛ぶ程の大爆発だった。
「テルミナートル・・・お前の騎士道精神は立派なものだな。アラン、とりあえず彼に敬礼を送ろう」
変身を解いたパンチョは、テルミナートルへ敬礼をしていた。