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第48話『新たな真実』

第48話『新たな真実』


商社『MAY'Sカンパニー』の二十五周年記念パーティーが『キングスウェイホテルJapan』の大宴会場で行われていた。

華やかで盛大な立食パーティー。

多くの人が会話を弾ませていた。

一人会場を訪れたかれんは場内を見回し、多くの人に囲まれている父を見つけると早々に歩みより、その後方に立った。

気付いた父に促され、挨拶の言葉と共に会釈しながら短い会話をする。

父が輪から抜けて、かれんのもとにやって来た。


「パパ!」


「久しぶりだなかれん、元気そうだ」


「ええ、パパも!」

手を取り合った。


「ママは元気かい?」


その言葉に、かれんは伏し目がちに話す。

「うん……でもしばらくイギリスに行ってたから、今はゆっくりしたいみたいで……だからちょっと今日は来れないって」


「そうか。元気なら、それでいいんだよ」


父と母。

この二人はお互い想い合ってるように思えるのに、なぜか全然会おうとしない。

離婚の理由が、かれんには分からなかった。

父はいつも母をいたわっているが、母の方が父と会うのを躊躇(ためら)っているように思える。

しかしそんな母からも、父を嫌う様子はひとつも感じられない。

〝夫婦って難しいんだな〟と、単にそう思うようにしてきた。


「今日のそのドレス、いいじゃないか」


「ホント!? ママの見立てなのよ」


「やっぱりそうか! 彼女はセンスがいいからね。まあ、かれんは何を着ても似合うけれども」


「親バカねぇ」


嬉しそうに父は笑う。

「さあ来なさい、 紹介したい人がいるんだ」


そう促され、再びかれんは父と同行し、名刺を(たずさ)えて次々に挨拶をする。

東雲(しののめ)コーポレーション』の会長の娘として、そして同時にイベント会社『ファビュラスJAPAN』のエグゼクティブプロデューサーとして紹介された。

いわば父の顔を立る為に訪れたこのパーティー。

財閥派の総合商社『JFMホールディングス』と父の会社『東雲(しののめ)コーポレーション』との繋がりはうっすら認知していたものの、よく知らない子会社のパーティーにまで呼ばれることを疑問に思っていたかれんだったが、とりあえずドレスアップして来てみると各界の重鎮(じゅうちん)が顔を揃えていて、社交の場と化しているのが見てとれた。

もはや『JFM』の会合のようにも思える。

もちろん営業も兼ねの参列ではあるが、今日ここには親友たち(由夏と葉月)はいない。



   たまには人がプロデュースするパーティーに

   参加するのもいいものね。

   勉強になるわ。



父が席をはずしている間、一人でいくつか食べ物を口にしながら、周りに目を配る。

なにか新しい演出のアイデアはないかと幾つかテーブルを渡っていると、

背後で、女性たちがヒソヒソと話している声が耳に入ってきた。


「ねぇねぇ『MAY'S』じゃなくてさ、その親会社の『JFMホールディングス』にね、新しいCEOが就任するってウワサ、聞いてない?」


「え、知らない! ホントなの?」


「そういえば『JFM』の社長が会長になってから、何年もポストが空いたままだって、お父様が言ってたわ」


「そうそう、私も聞いた! 会長がずっと息子を口説き続けてたって。ようやく承諾したって話!」


「新しいCEOは会長の息子? でもさ、今まで表立って出てきたことないよね?」


「どんな人なんだろ? 実績もないのにいきなりCEOだなんて」


「どこかで密かに実務を踏んできてるんじゃない? それならもう四十代後半ぐらいじゃないの?」


「それがさ、若くて独身だってウワサな・の・よ!」


「ええっ、そうなの?! すっごく興味湧いてきちゃう!」


「ホントよね! もしかして、来てるんじゃない?!」


かれんは背後のその下世話な話題に首をすくめた。

後継者問題はどこの企業でも抱える問題のひとつだと認識しているが、父からそんな話は聞いていない。



会場が暗転して 華やかな生演奏が始まった。

有名なシンガーが歌い始め、洒落(しゃれ)た演出と、その歌声に聴き惚れてうっとりしながら身体を揺らす。

手に持ったシャンパンがさらに美味しく感じられ、指先までしびれるように陶酔(とうすい)した。


   来てよかった。

   パパの顔も見られたし。



シャンデリアを仰ぎながら二杯目をあけると、すかさずバーテンがやって来て次のグラスを差し出してくれる。

(から)のシャンパングラスを置いたかれんは、今度は白ワインに手を伸ばした。

父の古い友人だと聞いてたのは、先ほどの女性達がウワサをしていた親会社の『JFM』の会長のはず。

先ほど父に連れられて挨拶した人のなかに、その会長はいなかった。

どれほど親しいのか分からないが、話題に上がるわりには、かれんは会った記憶はなかった。


シンガーがステージを下り、拍手がおさまると、司会者の発令でパーティーが始まる。


「MAY'Sカンパニー五周年記念パーティー!」


乾杯の音頭は、幾つかある『JFM』の傘下の会社の若き御曹司だった。

淡い色目のスーツにカラーシャツの出で立ちが、いかにも二世という雰囲気を醸し出している。

会場は『MAY'Sカンパニー』の繁栄を祝う和やかなムードに包まれたものの、かれんは話し半分で三杯目のワインに手をつける。


司会の声も熱くなるなか、会場がざわつき、さっきの女性達の声のトーンが上がった。


「ねぇ、ちょっとちょっと! 見てあの人! もしかしてあれが息子じゃないの!?」


「うわっ……なに、あのスタイル! いや、あれはゲストなんじゃない?」


「でも横に立ってるのは『JFM』の会長だもの、間違いないって!」


「ウソでしょ! あんな素敵な人が?! ホントに独身かなぁ」


その盛り上がりように、それまでぼんやり聞いていたかれんは顔をあげた。

そして何の気なしに、彼女たちの視線の方向に目を向ける。


「えっ……」



第48話『新たな真実』- 終 -

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