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『記憶の森』 Leave The Forest ~失われた記憶と奇跡の始まり~  作者: 彩川カオルコ


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第41話『打ち上げ:ファビュラス3』

第41話『打ち上げ:ファビュラス3』


打ち上げと称して盛り上がる三人は、酔いに任せて今後の戦略について熱く語り始める。

ここのところ、大手クライアントからの依頼から派生するイベントが多くなってきているのもあって〝いつも追われている気持ちになる〟とかれんが吐露すると、二人も大いに同調した。


「やっぱりファビュラス主催のイベントを入れ込んでいかないとね」


「確かに。親会社経由で下請けに近いことばかりしていたら、ファビュラスのイメージまでそうなっちゃうもん」


「それを打破するために地道に地元のレストランにプレゼンしてるけど……もっといいやり方があればね……」


「それで言うと、葉月が窓口の〝鴻上(こうがみ)さんの案件〟は、どれも凄いよね!」


「そうよね、それぞれが独立したプロジェクトだし、鴻上さんもアメリカで受賞してからホントに著名な映像クリエイターとして名を馳せてるから、ぶっちゃけ鴻上さんの名前だけで、人も報道陣も集まっちゃうもんね」


「まぁ、やっぱり葉月様様(さまさま)よね!」


葉月は終始にこにこして二人の話を聞いている。

その様子を見ていた由夏が怪訝(けげん)な顔をした。


「あ! この子……ヤバイんじゃない?」


葉月のグラスを確認する。

「ちょっと飲ませすぎたかな?」


「葉月って昔から、美味しそうにお酒を飲んで、分かりやすく〝飲まれて〟たよね?」

そう言ってかれんは思い出し笑いをした。


「うん。学生のときなんか、あの『Blue Stone』で、葉月が酔いつぶれて全然起きなくなっちゃってさ」


「あったあった! まぁ、あの時は葉月も色々あったもんね」


「そうね。そこから今もなお、あんな有名人たちと一緒に仕事して、普通に信頼関係を築けてるんだもん、やっぱり葉月様様(さまさま)なのよ!」


「そうね」

かれんは懐かしいそうに微笑む。


由夏はソファーにもたれ掛かっている葉月に声をかけた。

「葉月、もう休む? ベッドまでつれていこうか?」


「かれん」

葉月がムクッと顔を上げた。


「ん? なぁに? どうしたの?」


「ごめんねかれん、まさかここがハルとの最悪の思い出の場所だったなんて」


かれんは大きく首を横に振る。

「いいのよ、そんなこと。もう終わったことだし」


「でも……仕事しながらもずっと、頭の中からハルとの思い出を消そうとしてたでしょ?」


かれんは天井を見上げるようにカラカラ笑った。

「もう、葉月ったら。あのね! 直球は()めてもらえますぅ?」


「すみません、親友なもんで」


「あはは、そうでした。親友だから何でもお見通しかぁ。困ったもんだ! もう素直になるしかないわよね」


そう笑うかれんの肩に、葉月は真顔(まがお)で手をやる。


「全然素直じゃないじゃん。ここに来てからかれん、ずっとずっと変だった。私にも由夏にも言わないで、ずっとずっと平気なフリして。でも悔しいけど、私はなにもしてあげられない。なにが悲しいのか、わかってあげられなくて……」


驚いたかれんは、葉月の側に身を寄せて、その肩を抱いた。

「葉月……ありがとう。そんな風に思っててくれたんだ? その気持ちが嬉しいよ。私は充分幸せだから、もう安心して」


かれんが葉月の背中をトントンと叩いていると、いつの間にか静かな寝息が聞こえてきた。



「由夏! 葉月、ホントに寝ちゃった」


由夏は声をひそめて笑う。

「全く、コドモか! まぁいつもの葉月だねぇ?」


「うん。ここしばらく忙しくて、気が付けば私たちも仕事の話ばかりだったからさ、ようやく親友に戻れたって感じ?」


「そうだね」




葉月をベッドに寝かせ、由夏とかれんは一緒に葉月の部屋を出る。

二人は自室には戻らず、静かな廊下からエレベーターにのってロビーまで降りた。


「こっちこっち!」

声を潜めて、由夏がビーチを指差す。



二人はエントランスから砂浜に足を踏みいれた。

二人ともサンダルを脱いで、素足に砂を感じる。


「わぁ! 気持ちいいね!」

由夏がはしゃぐ。


酔いも手伝って、キャッキャと波打ち際まで行った二人は、大きな流木に腰かけた。


「波の音って意外に大きいのね」


「うん」


「ねぇかれん、昨日の夜はどんな思いでこれを聞いていたの?」


「え?」

かれんは由夏の方を見る。


「夕食も食べないでここに直行だなんて……どんなマインドだったんだか」


かれんは恥ずかしそうに笑う。

「まぁ……到着してから(しばら)くはグロッキーになってたかもしれないけど……仕事もうまく行ったし、葉月にも理解してもらったし、大丈夫!」


「それでもこの場所は、やっぱりかれんにとってはキツかったんだね。見ててすぐわかった。私も葉月も」


「心配かけてごめん」


「じゃあ……私も改めて」

由夏がかれんの両肩に手をやった。


「ん? 由夏?」


「反省してる! 『Blue Stone』でのハルとのセッティング、究極のおせっかいだったわ! ホントごめん」


かれんは首を降りながら微笑んだ。

「由夏……まだ気にしてたの?! 大丈夫って言ったじゃない。むしろ踏ん切りをつけるきっかけになったくらいだし」


「それでもごめん! ここに来てすぐに、かれんの様子がおかしくなったのを見てさ、改めて私のしたことが間違いだったって、思ったから……」


かれんはフッと息をついた。

「三年前は……確かに傷付けられたって思って、ハルの事を恨んだりもしたけど、でも私だって拒絶してハルを傷付けたわ。私ね、あの時の自分のことが、ものすごく嫌いで……その思いが甦って気分が悪くなって、吐きそうになっちゃったの」


「そうだったんだ……辛かったね」


「でも! もう大丈夫だから! 荒療治(あらりょうじ)って感じだけど、由夏がハルと再会させてくれたお陰で、私の中で過去の人なんだってちゃんと認識できたし、葉月が偶然とはいえここに導いてくれたお陰で、私は今日ですべてを克服することになるのよ! 親友のお陰で私が私を取り戻せるってわけ! だから由夏、もうこの話は終わり! 信じて!」


「わかった!」


由夏と一緒に砂を蹴りながらホテルの建物まで戻ってきたかれんは、もう少しここにいると言って、エレベーターホールに向かう由夏を見送った。



第41話『打ち上げ:ファビュラス3』- 終 -

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