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『記憶の森』 Leave The Forest ~失われた記憶と奇跡の始まり~  作者: 彩川カオルコ


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第33話『ダブルデート』

第33話『ダブルデート』


〝波瑠とお似合い〟と言われたかれんは、その意外な発言に困惑する。


「な、なに言ってるのレイラちゃん! 波瑠くんに申し訳ないわよ! 年も違うんだし……」


レイラが笑いながらかれんに顔を寄せた。

「波瑠って、妙に落ち着き払ったところがあると思いません? 実はね、大学では〝仙人(せんにん)〟扱いされてるんですよ!〝人生二週目なんじゃないか〟って噂されてるくらいですから! なんならかれさんより年上かもしれませんよ?」


「あはは。なんか、それ解る!」


「ちょっと! かれんさんまでひどいなぁ……」


かれんは微笑みながら波瑠の方を向く。

「だって波瑠くんって落ち着いてるだけじゃなくて、ホントに気が利くし、洞察力がハンパないと思うわ」


「そうなんですよ! 私なんて、いつも見透かされてる感じだもん。いつも先回りしてくるし」


「それはレイラが単純なだけだろ?」


「失礼ね! でも波瑠って『RUDE Bar』にいたら白シャツしか着ないからわからないけど、ホントは服のセンスもそこそこイイんですよ」


かれんが同調する。

「それ思った! 今日のファッションも、学生でそのアースカラーをチョイスするなんて、上級者コーデよね?」


褒められた波瑠は困惑するように頭に手をやる。


「うわ! 波瑠が照れてる! 珍しい!」


「やめろよ、レイラ!」


「ははは。まぁ、波瑠は俺を尊敬する愛弟子(まなでし)だからな」


健斗のその言葉に、レイラが冷めたトーンで返す。

「は? 何それ。波瑠の精神年齢は健ちゃんよりもずっと上なんだから、健ちゃんの方が弟子入りしなさいよ!」


「なんだと!」


三人は大笑いした。



メインの牛フィレ肉にはフォアグラのポアレがのっていて、その味は皆を(うな)らせた。

気をよくした四人は、もう一本赤ワインを空ける。


「美味しかったぁ!」


「ご馳走さまでした」


三人が健斗にそう言って店を出た。



「素敵な料理だったから、ちょっと飲み過ぎちゃったわね」

そう言ってから、かれんはハッと気付いたように波瑠を振り返った。

「ねぇ、波瑠くん! 今日『RUDE Bar』はどうしたの!?」


波瑠は笑う。

「あはは、今さらですか? 臨時休業にするしかないですよね? まぁ日曜だし、どのみちお客さんは少ないんで」


「そ、そう……そもそも定休日ってあったっけ?」


「一応ないんですけど、ボクも学生の身ですから〝臨時休業はいつでもOK〟って、〝心の広いオーナー〟がそう言ってくれるので」


「オーナーね……どんな人?」


かれんの問いに、三人が同時に笑う。


「え、なに?」


「そのオーナーってぇのは、めちゃめちゃ紳士的で従業員にも理解があって、それでイケメンらしいぞ! ちなみに、俺は会ったこともねぇけどな」


二人が吹き出すのを、かれんは不思議そうに見る。

「なんで笑うの? あ、分かった!」


皆がかれんに注目する。


「二人とも、もう酔ってるんでしょ?! よかった! 私だけじゃなくて」


眉を上げたレイラがかれんにグッと詰め寄り、その肩を抱くように腕を回した。

「もう! かれんさん、マジで可愛いいんだからっ!」


レイラはそのままの体勢のまま、健斗に向かって、もう一軒行こうとせがむ。


「健ちゃん、どっかいい店ないの?  ほら、せっかく波瑠も休みなんだしさ」


「あのなぁ、休みなんじゃなくて、コイツが勝手に休んだんだけどな!」


「イイじゃん! なんか『RUDE Bar』も顔負けのお洒落なBarとかないの?」


波瑠がハッと(ひらめ)いたように言った。

「あ! ボク、行きたいお店あります!」


依然、かれんの肩を抱いたままのレイラが突っ込む。

「えーどこどこ? なんて店?」


「確か、老舗のジャズバーがこの辺りにあるって……」


そのワードに、レイラも(ひらめ)いたと言わんばかりに顔を上げた。

「あ! それだったらさ、この前『ワールド・ファッション・コレクション』の打ち上げで行った、あの店がいいんじゃないかな? なんて店だっけ? 『Blue……』確かそんな名前の……」


そんなレイラのすぐ横で、かれんの表情がスッと真顔になったのを見た健斗は、慌てて割って入る。


「い、いや……あそこじゃなくてさ、この近くにもっといい店があるんだよ。そう! 老舗中の老舗だ! そっちに連れてってやろう」


「ふーん、そうなんだ? なんて店?」


「ああ『Moon Drop』っていう……」


「え!」

波瑠がパッと顔を輝かせた。


「あの『Moon Drops』ですか! 全国的にも有名なジャズの老舗ですよね?! 一度行ってみたいって思ってたんです」


「そっか。ならよかった」


波瑠は嬉しそうに顔をほころばせる。

「さすがにその店に入るのには、勇気がいるなぁって思ってて……健斗さんは行ったことあるんですか?」


「まあ、ちょくちょくな。オーナーが知り合いなんだよ」


「そうなんですか! 是非行きたいです!」


「じゃあ健ちゃん、そうと決まればLet's(いざ) roll(出陣)!」


「おいレイラ! その辺の飲み屋じゃないんだぞ、ちゃんとわきまえろよ!」


「はいはい……健ちゃんって口うるさいと思いません? ねっ、かれんさーん」


健斗が少し離れた所で店に連絡を入れた。

レイラはかれんの肩に手を回したまま、まるで恋人のように体を寄せて歩きだす。

「ダブルデートみたいで楽しーいっ!」


「ったく! 大きな声で叫ぶなよ! この酔っぱらいが」


そんな二人を後ろから見ながら、健斗は肩をすくめた。

「なぁ波瑠。一体〝あれ〟はどういう状況なんだ? それよりさ、そもそも、なんで俺らはここにいる?」


波瑠も同じように肩をすくめながら笑う。

「レイラの考えることですから、まあよく解らないですけど、ボクは楽しいですよ。〝心の広い紳士的でイケメンなオーナー〟が美味しいものを食べさせてくれて、店を休ませてくれて、前々から行きたかった店に連れていってくれるわけですからねぇ」


「は! 食えねぇヤツだよ、お前は!」


「それに」

波瑠は前を歩く二人を見つめた。


「何より、前々から気になっている人と外で会うことが出来たんで!」


「え?」


波瑠は健斗を置いて、前へ向かって駆け出した。


「ほら! そっちに行ったら大通りに出ちゃうでしょ。 こっちに曲がりますよ!」


そう笑顔でかれんに微笑みかける波瑠の横顔を、健斗は不思議な気持ちを抱きながら、ぼんやりと見つめた。



第33話『ダブルデート』- 終 -

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