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第15話『カフェモーニングのそのあとは』

第15話『カフェモーニングのそのあとは』



『ファビュラス』の春のイベントが続き、休日返上の〝Workaholic(仕事の虫)状態〟な日々が続いていた中、ようやく一段落したかれんは久しぶりのオフを迎えた。

ゆっくり寝坊し、こちらも珍しく家に居た母の小百合(さゆり)と二人、フレンチトーストの美味しい近所のカフェでモーニングを食べようと出掛けた。


いつまでも若々しく行動的な小百合には、かれんも憧憬(しょうけい)の念すら抱くこともあるが、母と娘の会話ともなると少々面倒に思うこともままあり、小百合は典型的な(ウワサ)好きの女性と化す。

それも(もっぱ)ら友人の話。

特にヨーロッパには友達が多いらしく、どこの誰の話をしてるのか、かれんは色々聞かされているうちに毎度混乱する。

よくわかってもいないまま、適当に相づちを打つのが定石(じょうせき)となっていた。

なんなら写真入りの相関図がほしいくらいだ。


「今日もね、午後から芙美子(ふみこ)さんと待ち合わせなのよ」


「そう。えっと、確かその人……どこかの病院の医院長夫人だっけ?」


「正解! よく覚えてるじゃない! かれんもようやくママの交遊関係に興味を持ってくれたってこと?」


「いや、別にそういう訳でもないけど……」


かれんは苦笑いしながら紅茶をすする。


「芙美子さんね、〝かれんちゃんに会ってみたいわ〟っていつも言ってくれるのよ。それにね、息子さんもイケメンなの! 会わせたいなぁ……ねぇ、今日かれんも一緒に来ない?」


かれんはうんざりした表情を隠しながら取り(つくろ)うように微笑む。

「今日はこの辺りを散策したいからパス! このところ何週間もずっと仕事がハードだったのよ。今日くらいはのんびりしたいわ」


「わかったわよ。また今度ね」



店の前で母と分かれて、かれんは久しぶりに地元の町をブラブラした。

学生街でもあるこの辺りの道行く女の子達のファッションを観察したり、ずっと気になっていたオープンしたての雑貨屋さんの店内を端から端まで見たり、数あるブティックを〝はしご〟して店員さんとコミュニケーションをとりながら、ファッションの傾向をリサーチしたりと、充実した時間を過ごす。

温かな春の日差しもあってか、明るいパステルカラーのブラウスと細身のジーンズを衝動買いしてしまう。

たまにはこうしてゆったり過ごすのもいいなと思った。


ショッピングバッグを下げてゆったりと歩道を歩いていると、後ろからクラクションが短く鳴って車が止まった。

何気なく振り返ると、左の運転席の窓がサァーッと下りて、見覚えのある笑顔が登場する。


「やあ!」


「あ! 天海先生?」


「良かった、覚えててくれて。何してるの?」


「ああ……モーニングに出てきたんですけど、ついでにウインドウショッピングでもと思って」


「そう。買っちゃったみたいだけど?」


天海はショッピングバッグに目をやる。


「あ……買っちゃいましたね」


恥ずかしそうに微笑むかれんに、天海も笑顔を向けた。


「ねえ、お昼ごはんもう食べた?」


「えっ? いえ、まだ……」


「じゃあ乗って!」


「え?」


「これから一人で食事にいこうと思ってて……良かったら付き合ってもらえないかな?」


「あ……」


「とっておきの店を知ってるんだけど。どう?」


「……いいんですか?」


「もちろん!」


助手席を勧められたかれんは、メタリックブルーの車体をぐるっと回り込んで右側から乗り込む。

「お邪魔します。あの日は夜だったから、黒い車だって思ってました」


「そうか。あの日以来だもんね」


「ええ。本当にあの時は、お世話になりました」

かれんはペコリと頭を下げる。


「いやいや、あの後、経過はどうだった?」


「おかげ様で、捻挫(ねんざ)は直ぐ良くなりましたよ。あのぐるぐる巻きのヒールは再起不能ですけど!」


天海は豪快に笑った。

「あはは、そんなこともしたよね。ところでさ……」


「はい?」


「僕は随分信頼されているようだけど……一応、会ってまだ二回目だよね?」


かれんはクスッと笑う。

「あ、簡単に男の人の車に乗るような〝軽い女〟だと思っちゃいましたか?」


「そんなことないよ、信頼されて嬉しいなって思ってさ。名前も覚えてくれてたんだね?」


「もちろんですよ! 恩人なんで」


「実は僕も覚えてるんだよね、三崎かれんさん!」


「わ! 光栄です!」


「こちらこそ。で、なに食べたい?」


「朝は母とフレンチトーストのモーニングだったので、それ以外なら何でも!」


「了解。じゃあ僕のオススメの店で大丈夫だと思う。ちょっとしばらく運転に付き合ってね」


「はい! よろしくお願いします」


天海はチラリとかれんを覗き込む。

「あのさ、ホントにお母さんとのモーニング? 彼氏じゃなくて?」


かれんは大袈裟に両手を振った。

「違いますよ! そんな人、いませんし」


「ふーん、そうなんだ」




車は海沿いの道に差し掛かり、少し開けた窓から、爽やかな潮の香りが漂ってきた。

穏やかな海面に反射した青空と優しい陽射しがキラキラと揺らめいていて、心が華やぐ。


「さあ、着いたよ」


そこは見覚えのあるレストランだった。


「え! ここって『ギャレットソリアーノ』じゃないですか!」


「うわぁ……知ってる店だったかぁ……」

天海が残念そうに顔をしかめるも、かれんは意気揚々と答えた。


「はい! 一昨年の冬に、こちらのお店でクリスマスイベントを任されて。女性の店主ですよね? すごく話しやすい(かた)で。確か、水野オーナーだったかしら?」


「そうそう!」



天海は驚いて首をかしげる。

「ところで……君ってイベント会社に勤めてるの?」


「ええ、まあ……そんなところです」


「ここでランチは?」


「いえ、初めてです。以前もディナーパーティーだったので」


「そうか、なら良かった。ここはランチではイチオシなんだ」


「楽しみです!」


ドアを開けると、フワッとグリルの香りがして食欲をそそる。


「天海先生、いらっしゃいませ! あら?! こちらの方は……あ、ファビュラスの?」


「はい、ご無沙汰しております、水野オーナー。ファビュラスの三崎です」


「まあ、プライベートで来てくださるなんて! 嬉しいわ!」


「私もお会いできて嬉しいです」


「よくいらしてくださいましたね! 社長さんと天海先生がお知り合いだったなんてね!」


「ええ、まあ……」

かれんは少し恥ずかしそうに視線を下げる。


「さあ、こちらへ!」


一番奥の大きな窓際の席に案内された。

穏やかな海がキラキラと反射し、そびえ立っている吊り橋の迫力に華を添えていた。


席に着くなり、天海は尋ねる。

「三崎かれんさん、君って〝社長さん〟なの?」




第15話『カフェモーニングのそのあとは』 - 終 -

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