表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/84

第10話『驚きの事実』

『ワールド・ファッション・コレクションJAPAN』のイベントの時間、大手化粧品メーカー『Allurer(アリューアー)』のブースには観客が詰めかけていた。

有名モデルのレイラの登場に多くのカメラが向けられ、シャッターの音に包まれる。

その隣には彼女をエスコートするように藤田健斗の姿があった。

声をかけられる方を向き、レイラと二人して笑顔を作るなかで、耳元で囁く仕草をしながらも健斗は皮肉めいた声を発する。


「おいレイラ! いつまで続くんだ?!」


「そんなこと言わないで、スマイルスマイル」


「俺はお前みたいなプロじゃないんだぞ!」


「フフフ……」


二人の視線が絡み合い、さらにシャッタースピードが増す。


「う……(まぶ)しい! もうマジで勘弁してくれよ!」


笑顔とは裏腹に、彼は辟易(へきえき)としていた。

どこを見回しても人の波、そしてずらりと並んだ顔から視線が突き刺さる。


「はぁ……ホントお前、よくこんな仕事やってんな?! 俺には到底無理だ」


「こちらに視線をお願いします!」と言われ、また笑顔でレイラの肩に手を置いたり、にこやかに体を寄せたりした。


「おい! 終わりにようぜ」


「あら? 健ちゃん、もうギブアップなの?」


「ああ、ギブアップ! とっくにな!」


「ふーん、今日はやけに素直ね。セ・ン・セ!」


「おい! 何がセンセーだ! ふざけんなよ!」


「フフフ……」


「レイラ! 笑ってんじゃねぇ!」


「フフフ……」


「……ったく!」


ひきつりそうになる表情を保って、観客席を見回すように顔を上げた。

ずらっと並ぶ観衆の向こう側に、見覚えの顔があったような気がして、目を凝らす。


   ん?


慌てて視線を戻すも、もうその姿を見つけることはできなかった。


「はい、では撮影はここまでとさせていただきます。レイラさん、ありがとうございました! 皆さまもありがとうございました!」


多くの拍手の中、会釈しながら『Allurer(アリューアー)』のブースを後にする。


健斗は辺りを見回した。

一瞬だったが、目に留まった女性の顔を探す。

しかし、どちらを向いてもその姿はなかった。


「ほーら健ちゃん、行くわよ!」


「ああ」


   彼女の名前は……

   あ、そうそう!


「三崎かれん」


レイラがその声に振り向く。

「え?」


「いや、何でもない。行こう」




かれんは『ファビュラス』のスタッフルームに、由夏を探しに来た。


「お疲れ様。今、由夏はどこにいるかわかるかな?」


「あ、由夏さんだったらステージ脇にいるんじゃないですかね?」


「そっか、ありがとう!」


観客は今は協賛ブランドのブースに集まっている時間帯だった。

由夏はきっとステージ周りに入って、カメラや照明のチェックなどをしているに違いない。


「あ、いたいた。由夏!」


「ああかれん、お疲れ様。どうよ今日のステージ。大成功でしょう? やっぱり私、自分の(カン)に自信持っていいわよね!」


「あ……あの准教授のこと?」


「そうそう、それ! アタリもアタリ、大アタリでしょ?! 我ながらよくぞ見つけたなと思うわ!」


「ねぇ、あの人……ホントに准教授なの? そうは見えないから」


「でしょう? そこがまた良いのよね! でもさ、口説くのがホントに大変だったんだから! なんせ乗り気じゃない雰囲気が全開でさ」


「……そう」


「さっきかれんも見た? 『Allurer(アリューアー)』のブースでレイラとカップリングしたの。アレ、きっとネットニュースになるわよ! 『Allurer』の広報の人たちにもお礼言われたんだから! 絶対バズるわね!」


「あの二人は知り合いだって葉月も言ってたけど、もしかして……」


   人前であんな雰囲気を出せるんだもん

   やっぱりコイビト……とか?!


「そうなの! 彼とレイラ、親戚なんだって!」


「し、親戚?!」


「そう、従兄妹(いとこ)なの。そんな偶然ある?! さすがに私もそこには驚いたんだけどさ、まぁなんとなく血統は感じるよね? そこが私のアンテナにビビッときたのかも! しかも、レイラは彼と同じ大学にも通ってるそうよ」


「え! 親戚で教え子?」


「うん。専攻は違うらしいけどね。なんか面白いでしょう?! ホント、我ながら鼻が利くなぁと思って! これからも彼、絶対に離さないわ!」


かれんはまた頭がくらくらする。


「あ、あのさ由夏、何度も聞いて悪いんだけど……本当にあの人、帝央大学の准教授なの?」


「そうよ! 二十九歳の若き准教授。なのにあの風貌! ステージ映えもハンパないでしょう?! レイラとのツーショットもサマになってたし、次のステージの時にカップリングで出てもらおうと思ってるの。メンズメーカーからのオファーも絶対来るはず! ほんとワクワクしちゃうよね! じゃあかれん、またあとでね!」


「あ、由夏……」


由夏は興奮して一気に喋ってモデル控え室に帰っていった。


かれんは混乱した頭を静めたくて、またスタッフルームに足を向け、がらんとしたその空間でしばし(たたず)む。


昨日もコンビニで偶然出会ったあのイヤミな藤田健斗が、今日はモデルで登場?!

そして彼は帝央大学の准教授で、教え子がモデルのレイラで、さらに二人は親戚同士で?!



   ……もう訳がわからない。


何より、あの見違(みちが)えるほどの風貌。

もはや同一人物とは思えない。

だって藤田健斗は良心からとはいえ自分を突き飛ばし、病院に行っても皮肉めいた発言ばっかりのイヤミなオトコ。

近くの怪しいおんぼろアパートに住んで、コンビニではジャージにスリッパみたいな姿で……

そんな彼があんな紳士的にレイラをエスコートしてるなんて……



   やっぱり信じられない。



「かれんさん、ここに居たんですね! もうじき次のタームなので、お願いします!」


スタッフのその声にビクッとする。

「あ、はい。すぐ行きます!」


かれんは頭を切り替えて、会場に向かった。



ショーが始まる前に各ブース担当者に現段階の状況を聞いて回り、チェックを済ませてメインステージに移動する。


「それでは再びレイラの登場です。エスコートはナント彼女の先生!?」


ショーのMCにどよめきが起きながらも、洒落たBGMと共に二人が登場すると会場から歓声が湧き上がった。


「トレンドを華やかに演出する、『Frances(フランセス) Georgette(ジョーゼット)』の秋のスタイルは、大人のモードを意識したフレンチスタイルを(じく)とした、フォーマルライクなテイストで。少し重めのレングスで秋を存分に満喫します」


かれんは視線を向けたまま、ゆっくりステージに近づいて行った。

二人がランウェイの先端に止まる時、歓声が最高潮に達する。

彼がレイラを引き寄せ、視線を合わせた。

さらにボルテージが上がった観客の歓声をトップでひとしきり浴びた後は、ステージ周りに彼とレイラはそれぞれに笑顔を振りまく。



   完璧なディレクションだわ。

   大したものね…



半ば呆れ気味に見ていたかれんに、ステージ上の彼は気付く。



   やっぱりあの女だ、関係者なのか?!



バチッと視線が合って、彼女の口が動く。


ふ.じ.た.け.ん.と



   間違いない、あの女だ。



そう確信してニカッと笑顔を向けてみるも、彼女は睨み付けるような視線を向けて、パッと(きびす)を返し、ブースの方に歩いて行った。



   はぁ?! なんだアイツ!



第10話『驚きの事実』- 終 -

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ