6 めでたしめでたし(その3)
俺はがっくりとうなだれ、絶望をもらすように言った。
「……だまされた……」
王様は大声で笑う。
「フハハハハハッ! その通り! そなたは余に、まさにだまされたのだっ!」
そこで俺は、笑った。
「……俺じゃない。だまされたのは――、今だっ!」
「ウキャキャキャキャァアアーッ!」
合図と同時に、俺の着物から無数の小猿が飛び出したっ!
「なっ……!」
俺の背後で王様が声を上げる。そいつらは孫悟空の分身の小猿だっ! 火焔山の身代わりとは別に、もしもの時のためと言って、あいつに貸してもらってたのさ! もちろんホントは「もしも」じゃあなく、ここまですべて、俺の目論見通りだっ!
「わっぷ! わわわっ! なんとかしろっ! だれか早くなんとかしろっ……!」
小猿はノミのように王様にたかっている。王様はあわてふためいて、ろくに命令も出せていない。俺はすでに自由になってこのバカの方に向き直り、銀の靴をうばい取っていた。
「王様の洗脳をすべて解けっ!」
俺は靴を打ち鳴らして大声で言った。瞬間、こちらにかけつけようとしていたライオンや魔法使いの動きが止まる。続けて俺は王様から、ランプと打ち出の小槌を引っぺがして言った。
「魔神よ、もどって俺を守れっ!」
するとまるで吸いこまれるようにして、悟空と戦っていたランプの魔神が飛んできた。
「新たなご主人様、どうぞなんなりと私にご命じください」
「ヒッ……!」
王様は小さく悲鳴を上げると、床にはいつくばりながら俺から逃げ、最後に残った怪しいビンに向かって言った。
「ビンの悪魔よっ……! ビンの悪魔っ! 余を助けよっ! 取り返せっ……! 余の宝物っ、ランプや銀の靴をっ、あの卑怯な裏切り者から取り返すのだっ!」
言い終わるやいなや、ビンの口から醜い姿の小さな悪魔が現れ、こちらに向かって、何やら黒い影のようなものを伸ばしてきた。が。
「フゥッ!」
ランプの魔神が一息吹き、銀の靴がちょっと光ったかと思うと、影はかき消え、悪魔は弱々しく鳴いて、ビンの中へと引っこんでしまった。王様がわめく。
「そんなっ……! 余は、余はまさに、この世界の王であるからして、余の命令は絶対っ! まさに絶対っ! 悪魔よっ、命令を聞くのだっ!」
わめき続ける王様をいったん放って、俺はバルコニーからふたたび大広間に入り、犬・猿・雉の縄を解いてやった。
「桃太郎……、きみって男は……!」
犬たちは、あきれたように笑って俺を見上げた。俺はにやりと笑って返す。
「おおっ! どうやら万事、うまくいったみたいだなっ!」
デカい声でそう言いつつ、傷だらけの悟空たちもバルコニーから中に入ってきた。自分が何をされていたのか、このころには理解したアリスや魔法使いたちも、そろって裸の王を取り囲み、恐い顔でにらみつけている。
俺は囲みをかき分けて王様の前に出ると、打ち出の小槌をかかげ、声高に言った。
「ランプの魔神っ、銀の靴っ、それから魔法使いたちっ……! この打ち出の小槌に力をそそげっ! こいつで俺が、悪魔のビンをブッ壊してやるっ!」
魔法使いの一部は不服そうに肩をすくめたが、間もなくみんな杖を出したりして、何かしたようだった。打ち出の小槌が、神々しいまでの輝きを放ち始めたのだ。
その場の全員が目を見張る。ただ一人、王様だけが青い顔をして言った。
「そんなっ……! やめろっ、桃太郎っ! このビンを壊すなっ! この悪魔は余の言うことをっ、なんでも聞いてくれるのだっ! このビンとっ、他の魔法の道具さえあればっ……! そうだっ、まさにっ、今のその小槌さえあればっ! 余はまさにっ、まさにいわばっ、この世界の神になれるっ……! この世のすべてを余が動かしっ……! みなが余をっ、まさに神のようにあがめたてまつるのだっ!」
俺は王様からビンをもぎ取ると、鼻で笑って、こう言ってやった。
「バーカ。お前みたいなやつを、ガキって言うんだよ」
パリンッ! と音を立ててビンはくだけ、悪魔は小槌の力で退治されたのだ。