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童話界最強決定戦  作者: 星本翔
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5 西遊記(その2)

「さ~あ! いよいよですっ! 選手のみなさん! 観客のみなさんっ! 準備はよろしいでしょうかっ?」

 魔法の鏡が、高らかに言った。ついにこの日が来た……。決勝だ……!

 俺はなんとか無事に犬猿雉たちと共に舞台に立ち、西遊記の孫悟空たちと向かい合っている。やつらはすでに、汗だくだ。一方で、俺たち四人は首に氷の入った袋を巻いていて、まだ涼しい顔をしている。

 どういうことか。ここ、決勝の舞台は、激しい炎の燃え続ける山、西遊記の『火焔山』のふもとなんだ……!

 俺の予想は、完璧に当たった! ここまで試合の舞台になった場所は、すべて出場チームの、もともとの物語の中から選ばれていたからな……!

 八チームのトーナメントだから、試合は全部で七回。分かるか? アリスのバラ園、ドロシーの故郷カンザスの草原、鬼が島、こうもりの洞窟、シンドバッドのダイヤの谷、ドン・キホーテの風車の丘。これで六つ。使われてない話は、『ブレーメンの音楽隊』と『西遊記』。

 決勝戦だぞ? ブレーメンの話の舞台の、しょぼい小屋なんかになるはずがねえ。使われるのは西遊記からだ。それも、最もハデで印象的な、ここ、火焔山になるに決まってる! そのために俺は、昨日のうちからこれでもかと準備していたんだっ!

「フ~……。あれ? そういえば向こうのチーム、猪八戒がいないね?」

 犬がそう言って、俺の顔を見た。俺は平然として答える。

「いないな。体調でもくずしたんじゃねえか?」

 フハハハハ……! 八戒は来ねえよ……! なぜなら、俺が買収しておいたからな……! 昨日の試合中、ひそかにどっさりふところに入れて持ち帰った、あのダイヤモンドの原石でな! ヤツは欲深のまぬけだが、それでも孫悟空に次ぐ実力の持ち主。苦しまぎれに向こうのチームは、三蔵法師の馬なんかを入れてきてやがるぜ。

「それでは参りましょ~う! 決勝戦ですっ! 桃太郎チーム対っ、西遊記チームッ! 王様の合図で試合開始です! 王様っ、お願いいたしますっ!」

 鏡のアナウンスとは別に、観客たちのわめき声が聞こえている。みんなのヒーロー孫悟空たちが、極悪非道の桃太郎をどう退治するか、と、そんな風に思ってるところだろう。

 ハハッ! 決めたぜ……! この戦いに勝ったら、「俺のことを悪く言ったやつは罰金」って法律を作ってやる! もっとも、そんなやつはこの戦いが終われば、ほとんどいなくなるはずだがな!

「えー……、それでは、『童話界最強決定戦』の、まさにこれが、決勝戦であります。えー、それでは……。始めっ!」

 王様の合図と同時に、俺は馬の上の三蔵法師目がけて矢を射放した。あのやせた男が、向こうのリーダーだ。ヤツをやっちまえば俺の勝ちだ!

 けれども悟空のやつがすぐに反応し、如意棒を回して矢を弾き飛ばす。続けてヤツは、こちらに向かって猛然ととびかかってきた。その時……!

 ボシュウウゥーッ!

 事前に示し合わせていた通り、すでにこちらの猿が、大量の煙玉に火を点けていた。みるみる広がった煙幕が、俺たち四人の姿を隠す。このくらいの手は、三匹とも認めてくれている。孫悟空たちと真正面からやり合えば、怪我じゃ済まないんだからな。

「ぬぬっ! 桃太郎めっ! どこ行ったっ!」

 孫悟空がどなった。俺たちは煙にまぎれて、静かに場所を移動する。ここもダイヤの谷と同じく、俺たちの隠れられる岩や裂け目が、そこら中にあるぜ……!

「兄者っ! いったんもどってくれっ!」

 沙悟浄が悟空に言った。悟空はいらだちをあらわにしながら、仲間の所へ後退する。

 やがて煙幕は消えたが、その後もしばらく、何も起こらないまま時がすぎた。沙悟浄はすでにうろたえている。フッ、この暑さも効いてるようだな。

「兄者っ、お師匠様っ……! どういうつもりでしょうっ……? やつら、姿を消したきり、何もしてこない……!」

 すると馬上の三蔵法師が言った。

「悟浄よ、落ち着きなさい。彼らは私たちが、平常心を失うのを待っているのです。彼らの思うつぼですよ」

 なるほど、さすがは坊さんだ。肝がすわってやがる。……だが、戦いのことは何も分かってねえ……!

「あっ! あっちだっ!」

 悟空がさけんだ。ヤツの視線の先の岩かげから、矢が次々と放たれている。悟空はそれを立て続けにたたき落とすと、怒りに任せてその場を飛び出した。

「沙悟浄っ! お師匠様を頼むっ!」

「悟空っ! 待ちなさいっ……!」

 三蔵法師が声を上げた、その時。

 ドォンッ!

 突然の大きな音に、やつらは振り向いた。矢とは反対方向から、三蔵法師と沙悟浄目がけて、大きな玉が飛んでいったのだ!

 ドゴォッ!

 激しい音を立てて、鉄の球が、馬のすぐ足元の地面に突き刺さった。沙悟浄は肝をつぶして言う。

「これはっ……! お師匠様っ、これはいったいっ……」

 ドォンッ! ドォンッ!

 ふたたび大きな音がして、立て続けに鉄球が飛ぶ。悟空もあわててきびすを返したようだが、もう遅いっ!

 これは大砲だっ! 『ピーターパン』のフック船長の、海賊船の大砲だっ! 俺は昨夜、空飛ぶ牛車でネバーランドまで行き、こいつを積めるだけ積んで、この地に隠しておいたのさっ! 他の童話の品物だが、俺が今日、選手として持ちこんだわけじゃない! なぜか昨夜から(・・・・・・・)ここにあった(・・・・・・)俺はそれを(・・・・・)見つけただけ(・・・・・・)ってことだっ!

「お師匠様っ、下がってっ!」

 俺は離れた岩かげからやつらを狙っている。沙悟浄が飛び出し、三蔵をかばった。手にした杖で、一発はそらしたものの、もう一発はそらしきれずっ! 腹に思い切り食らって吹っ飛ばされやがった!

「悟浄っ! 悟浄っ!」

 さすがの三蔵法師もうろたえる。しかしその時、何者かの声が言った。

「三蔵法師様、しっかりつかまっていてください……!」

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