4 オズの魔法使い(その2)
「ウウッ! いっ、痛っ……! こんなのって……!」
犬猿雉が、うめき声を上げている。犬と猿が二匹で持っていた弓矢はくだかれ、一晩かけてかかしの恐怖を克服させたはずの雉も、地面に倒れている。一方、ドロシーはかかしのそばにくっついていて、かかしは――。
「うっ……!」
俺は思わず声をもらした。なんと、かかしの体には左手が付いておらず、右手でその、引きちぎったであろう左手の付け根を持っている。そしてその、要するに二倍に伸びた腕の先に、この谷のダイヤの原石をわしづかみにして、腕をこれでもかとブン回し、ものすごい勢いでダイヤを投げつけていたんだ……!
「ギャッ! ウウッ、犬よっ、退却じゃっ! 雉を助けて、いったん逃げるんじゃっ!」
猿が言った。ほとんど同時に、俺もさけぶ。
「お前たちっ! このっ、化け物めっ……!」
俺は先ほど地面に放り投げた弓矢を拾おうとした。が。
「フフ……。油断したね、桃太郎……!」
倒れたライオンが、いつの間にか地面をはって俺の弓を取り、それを二つに折っていやがった……!
「畜生っ……!」
俺は小さくさけぶと、刀を左手に持ちかえ、右手で俺も地面からダイヤを拾って、走りながらかかしたちに投げつけた。
が、すでにやつらは、俺の動きに気づいていた。かかしはその長い腕で、俺に向かってダイヤのつぶてを雨あられと降りそそぐ!
「うぐぅっ……!」
畜生……! 遠心力のちがいだっ……! 俺の投げたダイヤはやつらをひるませただけなのに対して、かかしのダイヤはものすごい速さと威力で、俺の刀や鎧の部品を吹っ飛ばした!
「降参しなさいっ! 桃太郎っ!」
ドロシーが、そうさけんだ。俺は倒れそうなのを必死でこらえる。犬猿雉も、もはやはいつくばるようにして岩かげに身を寄せている。
ドロシーは、ゆっくりと俺の方に歩いてきた。
「おいおいっ、ドロシー、危険だよ……!」
かかしがあわてて言ったが、ドロシーは冷静に言う。
「大丈夫。いっしょに来て。彼が何かしようとしても、あなたの方が間合いが広いもの」
くそぅ……。考えろ……。ここから逆転するには、どうすればいいか……!
「降参しなさい、桃太郎。これ以上戦っても、お互い傷付くだけでしょう? ああ……、ライオンさん、木こりさん……」
ドロシーは涙ぐみながら言った。
「やっぱりこんな大会、出場するんじゃなかったわ……」
俺は鼻で笑って言ってやった。
「ハッ! ここまでやっといて、今更何を言いやがる……! あんた言ってたぜ。勝ったらみんなが幸せに暮らせるようにしてほしい、なんてな。あれはやっぱり嘘か? この偽善者め……!」
するとドロシーは俺に更に近づき、やけに小さな声で、こう言った。
「……嘘じゃないわ……。けど、それは出場することに決めた、一番の理由じゃあない……。一番の理由は……、この大会のことを、わたしたちで調べるためよ」
「……はぁ……?」
「……あなたが知ってるかどうか分からないけど……、わたしたちは魔法使いのオズに、だまされてた過去があるの。だから王様とか、権力を持っている人の言うことは、一回は疑ってみることにしてる。裏に何か、隠された秘密があるんじゃないか、って……」
かかしもだまってうなづいた。俺は声を荒らげて言う。
「ハハッ! あの裸のバカに裏なんかあるかよ。ただのいつもの思い付きさ! 今回はたまたま、みんなにも俺にもウケただけだ……! 実際他に、何があったっつうんだ!」
するとドロシーは、更にいっそう小さな声で言った。
「……負けたチームの選手たちが、いなくなってる……」
俺は思わず、口をつぐんだ。
「……アリスやドン・キホーテさんたち……。リーダーだった人だけじゃなく、チームの他のメンバーも……。どこにも姿がなくなってるの……!」
それは俺にも心当たりがある。西遊記チームに負けたブレーメンチームに会おうとしたが、だれも見つからなかったからな。……けれども俺は、皮肉っぽく笑ってドロシーに言った。
「フッ……。それはただ、負けたのがよっぽど悔しいとか恥ずかしいとか、またはどっかにこもって、怪我を治してるんだろ? 考えすぎだな」
「でもっ、みんながみんな……」
ドロシーは言いかけたが、この時ちょうど、俺の脳に、あるひらめきが起こった。我ながら、恐ろしいほどのひらめきが……!