帝王、勇者を買う
あ、そうだ。
我が勇者になって最大の敵を潰せばいい。
後は勇者となるアバターをどうするか、だ。
だがそれは簡単だ。
勇者の出身地は決まっている。
容姿が決まってなくても場所と両親は変わらない。
うーん…殺すのは嫌だし…
そうだ!
育成してみよう!
今の段階ではまだ産まれた頃のはず。
まぁ我の敵にならなければいいのだ。
だから勇者の出身地、『ニヘイル村』に来た。
変装などは簡単だ。
我は素は黒髪赤目の高身長なクール系イケメンだが今は青髪の緑の瞳の小さめな狼の獣人と化している。
身長などは幼稚化の魔法を体のみの対象にしてやれば簡単である。
お、ここか。
勇者の生まれた家は。
小さな農民の小屋と言えるような家。
チロ…と裏の窓から家の中を見るとちょうど生まれたばかりであったようで産湯に浸かった勇者がいた。
勇者は手の裏に特殊な紋章が現れる。
両親は気づいていないようだな。
幻術で見えないようにした。
気づいたら両親は大騒ぎしかねない。
さて、どうやって奪い去るか、だな。
うん、面倒だ。
金で解決しよう。
100万ゴルドで勇者を買った。
勇者の両親に話した内容はこうだ。
因みに勇者は三男だった。
私の妻は不妊症で子供が授からない。
だから一人、その子を私に恵んではくれないか?
お金は出す。
子供を持つ喜びを、私達に恵んでくれ。
と。
因みに綺麗な狼の獣人の幻影を出した。
すると勇者の両親はお金に目がくらんだのもあるが心から心配してくれた。
「この子でいいのならどうぞ。幸せにしてくださいね。」
と言って私に勇者を渡してくれたのだった。
嘘をいってすみません!
良心が…
まぁ犯罪ってわけじゃないし…
うぅ…
勇者を抱きながらキャッキャと笑う勇者を見て我はふ…と笑い帝国へ戻ったのだった。
さぁあとは育成だ。
とはいえ、この勇者は産まれたばかり。
変装を目の前で解いたのに目を丸くしただけでキャッキャとはしゃいでいる。
我は前世でも子供を育てたことはない。
今世なんて妻も要らぬな帝王だ。
「そうだ、名前を決めていなかったな。うむむ…名前か…。」
我は名前をつけるのが苦手だ。
前世でも犬の名前は『犬太郎』とか『ポチ』とかそこらだった。
勇者の大事な大事な名前。
名は体を表すという。
うむ、決めた。
我の名前を参考にした。
「勇者、お前の名前は『ヴァルハラ』だ!」
どこの宮殿とは言うなよ!
「うむ!良い名だ!愛称はヴァルだな!よーしいい子だ!ヴァル!我はヴァーチェだぞ!ヴァルの父親だ」
「キャッキャ!」
うむ!かわいい!
それから、我は一心にヴァルの子育てを頑張った。
国一番の乳をやり、遊び道具は沢山。
我が世話を出来ぬときは使用人に頼み。
読み聞かせをして。
国中を共に愛で歩いたり。
魔法の原理を聞かせたり。
武芸を見、解説したり。
すくすくと育ちヴァルはこの国で我以外には勝てぬような強さになった。
「お父様。」
「うむ、ヴァルよ。何だ。」
「アーガルド公国にて、助けを求めているとの声。助けに行きたいのですがよろしいでしょうか?」
うむ…もうそんな時期であったか。
ゲーム開始のとき。
ヴァルハラは15歳であった。
「条件がある。我とは関係がないように振る舞うのだ。」
「帝王の子が現れたとなれば騒ぎになると。」
「それだけではない。ヴァルを我が娘の夫にとけしかけてくる!そんなことは許さん!どこの馬の骨ともわからぬ奴にヴァルをやれるか!」
我はすっかり親バカになっていた。
うん。
自覚あるよ。
「ふふお父様以上の強さの御方はいません。僕は。お父様以外には跪きません。」
「うむ。ヴァルハラ…お前は勇者だ。人々を救ってこい!」
「僕が…勇者…!はい!お父様!!」
あっという間だったな。
旅立つ後ろ姿を見てそう思った。
さて、後はヴァルを陰ながら支援するとしよう。
水晶でいつでもヴァルの姿を見ることができるのだから。
我が教えれるものすべてを教えた。
立派な勇者になり我の希望となり帰ってこい!
ヴァルハラ!